大国は天空の城を知る
【ブラウ帝国】
慌ただしく鎧を着た兵が走り、巨大な石造りの城の前に立った。額から汗を滴らせ、肩を大きく上下させながらも、背筋を伸ばして立っている。
「何事だ」
門を守る兵がそう口にすると、息も荒く返事をした。
「で、伝令。空に、謎の物体が飛行……こ、こちらに、向かっている……!」
「謎の物体? 何だ、それは」
「いいから、早く、上に伝えろ! もうベーシュの町まで来ている!」
兵の恐ろしいまでの剣幕に、門番は慌てて背を向ける。
城内に飛び込み、暗い緑色の絨毯を早足で踏みしめて行く。その様子に皆が兵を振り返る中、二階に上がり、通路の奥に立つ人物を見て声を上げる。
「リガン様!」
リガンと呼ばれた男は振り返り、慌てる兵の様子に眉根を寄せた。
よく肥えた四十代ほどの男である。口の上に綺麗に形を整えた髭を生やし、眼光は鋭い。
リガンの前に移動した兵はリガンを真正面から見て口を開いた。
「伝令です。南方、ベーシュの町の上に謎の物体が飛行しているとのことです。それはこちらへ向かって来ている、と」
「謎の物体? まさか、大型のドラゴンではあるまいな?」
リガンが低い声でそう聞き返すと、兵は視線を逸らす。
「わ、分かりません。ただ、恐れながらドラゴンでしたら見間違いはしないかと……」
兵がそう告げると、リガンは静かに目を細めて押し黙る。兵の頬を汗が一筋伝い顎の下から雫となって落ちた。
黙考していたリガンは、顔を上げて頷く。
「分かった、退がれ」
「は、はっ!」
返事をする兵に背を向けると、リガンは奥の通路を曲がって階段を上った。
階段を上ると、兵が二人立っていた。
「御目通りを」
リガンがそれだけ言うと、兵の一人が素早く通路を歩いて行き、大きな扉の前で止まった。
兵が去って暫くすると、先ほどの兵が戻ってくる。
「どうぞ」
その言葉を聞くや否や、リガンは大きな扉の前に移動した。扉はもう開けられており、両開きの片方の扉をメイド姿の女が両手で持っている。
「失礼します」
リガンがそう言って中に入ると、分厚い絨毯の敷かれた薄暗い部屋には大きな机があり、その奥には長い白髪の男の姿があった。
六十歳前後ほどの頬がこけるほど痩せた面長の男だ。落ち窪み少し垂れた目がさながら骸骨を連想させた。
背凭れの大きい豪華な椅子に腰かけたその男は、両手を机の上に置いて顔を上げる。
「どうした」
男の口から嗄れた声がした。
「要領を得ませんが、南方から空を飛ぶ物体がこちらへ向かってきていると伝令がありましたので、念の為報告させていただきます」
「空を飛ぶ物体……」
リガンの報告に男は目を細める。
「……何か、見当はつくか?」
「……いえ、全く」
リガンの返答に、男は口の端を釣り上げた。
「面白い……こちらに向かっていると言ったな。見たいぞ」
そう告げて立ち上がった男に、部屋の隅にいたメイドが音も無く身を寄せた。
男はメイドの肩に手を置き、机の横を通ってリガンの方へ歩いてくる。
リガンは目だけを動かして、男の左脚を一瞥した。
男の左脚は膝から下が無く、脚を包み込むように棒と輪が付いた義足のような物を履いていた。
「今、それは何処にある」
「ベーシュの町の上だそうです」
リガンの言葉に、男は黙って出入り口の大きな扉を眺めた。
「……国境を遥かに超えているな。それまで誰も気付かなかったわけでは無いだろう。ならば、伝令が馬を飛ばして走っても差を付けられなかったということか」
ブツブツと呟き、男はリガンを見る。
「今日か、遅くとも明日には帝都に着く。恐らく、ベーシュから帝都まで整った街道しかない平地だから伝令が先んじたのだ。速いぞ」
そう口にすると、リガンは眉間にシワを作った。
「空を飛ぶ物体……こちらには魔術師でしか対抗する術はありませんな。機械大弓も上に向かっては射てません」
「暇な魔術師は全員集めよ。高さによってはどうせ何も出来ん」
「はっ」
男は肩を震わせて笑い、自らを支えるメイドの肩を掴んだ。
「いまだ私の見たことが無いモノがあるか……面白いな」
男はそう呟き、また笑った。
【タイキ】
城の操作室に案内すると、エイラは興奮気味に周りを見回した。
「こ、これは……こんな部屋は見たことがありません。魔術の研究のための部屋でしょうか?」
そんなことを言うエイラの前で画面を操作してみる。
すると、スクリーンに外の景色が映し出された。驚きに目を剥くエイラに笑いつつ、カメラを地上に向ける。
山を越えて暫く森が続いていたのだが、どうやら平野に出たようだ。スクリーンには草原が広がっている。
と、スクリーンを眺めながらカメラについて説明していると、スクリーンの奥に何かが映った。
「……街だ」
思わずそう呟くと、エイラがスクリーンに顔を向ける。
そして、戸惑いを露わに口元を手で押さえた。
「……まさか、ベーシュの街?」
「知ってるの?」
尋ねると、エイラは食い入るようにスクリーンを見て答える。
「た、多分ですけど……あの大きな二つの塔は、ベーシュの街の特徴で……」
そう言われてスクリーンを眺めると、街を挟むように左右に大きな塔があった。斜め上からの映像だから塔の高さは分かりづらいが、相当な大きさに思える。
「ベーシュの街ってのは、どの国?」
「……ブラウ帝国の中ほどにある街です。私が住んでいたアツール王国と敵対関係にある、大国です」
不安そうな顔でそう言うと、エイラはこちらを見た。
いや、別にこんな所に降ろしたりはしませんよ?
不安そうなエイラを見つめ、安心させるべく笑いかけた。
左手でもスマホだから小説が書ける!
良い時代ですね!
ご飯は大変だけど……




