結果は
「……宰相さんが、国王に?」
そう確認すると、アイファは静かに頷く。
「はい」
あまりに短い回答にタイキが苦笑していると、微笑を浮かべ、ユーリが代わりに答えた。
「暫定的にとは申しておられましたが、新王は一旦は破談となった天空の国との同盟を改めて取り付けたことになっております。国王派の貴族達も頼みの綱である国王の死により、その勢いは失われております。勿論、奴隷契約の主を失って倒れた近衛騎士団のことも要因でしょう。王家の血筋はもちろん残っておりますが、前王がタイキ様と因縁があると思われておりますので、政には出てこないものかと……」
その言葉を聞き、タイキは細い息を吐く。
「つまりは、宰相さんが暫くは国王様ってことか……カストール公爵が一番有力だったと思うけど、あの影の薄い宰相さんねぇ。それにしても、理想は無血開城だったけど、最悪の結果になっちゃったね。一般の人に被害は無かったけど……」
気落ちするタイキに、エイラが辛そうに眉根を寄せて口を開いた。
「あまり、思い詰め過ぎないようになさってください……どちらにせよ、カルルク王国は存亡をかけた戦いに巻き込まれるところだったのです。それに比べれば、遥かに少ない犠牲で済みました」
「まぁ、そうだけどね……でも、スッキリしないなぁ」
エイラの励ましにそう答えながらも悩むタイキに、メーアが首をかしげる。
「……新しい王様はタイキ様の言う事を聞く。奴隷の人は皆良い待遇になる。それに、無理矢理奴隷にされた人は解放されるって聞いた。つまり、最高の結果?」
真面目な顔でそんなことを呟くメーアに、タイキは困ったように笑った。
「まぁ、そういう面では良い結果だと思うけどね。いや、傲慢かもしれないね。今後を考えて、前向きにいこうか」
乾いた笑い声をあげつつ、タイキは立ち上がる。
「新しいカルルク王、ストラウスさんとも直接話をしとかないとね」
熱烈な歓迎を受けながらタイキは王城へと招かれ、まっすぐに貴賓室に通された。
何も言わずとも水や酒、果物などが乗ったシルバートレイを手にしたメイドが並び、タイキは目を白黒させながら歓待を受ける。
そして、遠くの方から全力で走ってくる足音を聞き、音のする方向を見た。
「お、遅くなりました!」
勢いよく扉を開き、真っ白なマントを身にまとった元宰相、ストラウスが姿を見せる。
どう見ても着慣れない様子のストラウスだったが、そこには突っ込まずにタイキが立ち上がり、挨拶をした。
「お久しぶりです。こちらこそ突然申し訳ありません。急に来たから驚いたでしょう?」
すると、ストラウスは首が折れそうなほど勢いよく左右に振る。
「いえいえいえ! た、タイキ様がいらっしゃるなんて光栄の極みと言いますか何と言いますか! いや、本当にありがとうございます、こんな国にわざわざ足を運んでいただきまして……!」
ストラウスは卑屈と評しても良いほどの低姿勢で挨拶をし始めたが、タイキは乾いた笑い声と共に片手を上げた。
「あ、はは……いや、こちらこそ、新王になられたストラウスさんと会えて光栄ですよ。今日は良い会談が出来ると良いですね」
と、タイキが口にした瞬間、ストラウスの背筋がピシリと伸び、顔からは冷や汗を噴き出す。
タイキは気楽に話をしてもらおうと思って口にした言葉だったが、受け取る側次第では大変重い内容にもなる言葉である。
「こ、こちらこそ、何卒、お手柔らかにお願い致します……! ど、どうか、御温情を……!」
もはや裁きを待つ咎人といった様相で何度も頭を下げるストラウス。
この時点で、両者の力関係は明確になっており、その後の会談の行方は全て天空の国の有利に運ぶことが決定したようなものだった。
結果、ストラウスは王家が保持していた奴隷の解放は元より、旧制度の奴隷契約の廃止も同意し、村狩りや誘拐などによる違法な奴隷に関して、実行した者はもちろん扱った商人も厳しく処罰すると答えた。
最終的にはカルルク王国の衰退を心配したタイキの提案により、空輸を含めたロボットの派遣を約束することになった。
同情からの提案ではあったが、ストラウスは泣くほど感謝し、忠誠の証として近衛騎士団が装備していた銀色の鎧を一揃譲り受けた。
これは抗物理甲冑と呼ばれる国宝級のマジックアイテムなのだが、タイキはよく分からないまま「超カッコイイ」と大喜びで受け取る。
ちなみに近衛騎士団はイニシダが死ぬと同時に全員失神し、捕縛されているが、後に奴隷からの解放を約束しており、現在ストラウスを守るのは私兵十数人という少なさだった。
しかし、これにより、この会談はしっかりとストラウスから国内外に喧伝され、カルルク王国からは国宝が贈られ、天空の国からは空飛ぶゴーレムが無償で貸し出されるという内容で広まった。
殆どの国は、この結果をカルルク王国が天空の国の属国になり、天空の国の庇護下に入ったものと受け取る。
ストラウスは狙い通りの展開になったことに安堵し、暫くぶりに不眠症から解放されることとなったのだった。
タイキはカルルク王国や他の国に作った奴隷店の状況を聞きながら、空からの地上の景色を眺める。
「……と、想定以上に皆様はしっかりと結果を出していらっしゃいます。特に、カテリーナ様は凄いですね。どうやったのか、多くの奴隷狩り被害者の方を受け入れておられますね。グレイ様は奴隷解放に傾倒している為、利益は上げていませんが、逆に解放した奴隷の方の人数は最も多いようです。そして、レティシア様ですが、どうやら奴隷売買で得た利益の大半を使って店舗の拡充に動いておられるようですね。あの方の性格上、出来るだけ多くの孤児の方々を養えるよう、住居と働く場を作ろうとされていると思われます。その為今は利益は出ていませんが、今後は最も伸び代があるかと」
ユーリの報告に頷いて「ふむふむ」と生返事をするタイキ。そこにエイラが口を開いた。
「タイキ様の願いだった奴隷の扱い改善は間違いなく進むと思いますが……」
少し元気の無い様子のタイキを気遣うエイラの言葉に、タイキは苦笑しながら返事をする。
「そうだね。悩んでも仕方ない。後はグレイさん達に任せてみよう。ところで、気分転換に色んな場所の景色を見て回ってたんだけど、不思議な国を見つけたんだ」
そう言って、タイキはスクリーンにある景色を映し出した。
雪の降り積もった白い山。美しくも険しい雪山と、深く青い空のコントラストは見事なものだった。その白い山の中腹に、景色と調和する白と青の美しい城がある。尖塔を幾つも持つゴシック建築に似たデザインの城だ。
城の下には山の麓まで扇状に白い街並みが広がっている。遠目からでも白く輝く城壁が格子状に城下町を囲っているのが分かり、その堅牢さを物語っている。
美しくもあり、天然の要塞ともいえる山の形状を活かした城と城下町だ。
その光景に皆が一瞬目を奪われたが、やがて誰ともなく、口を開いた。
「……テルツィエール魔導国」
その言葉に、タイキが興味深そうに目を丸くする。
「へぇ、魔導国……じゃあ、色々と面白いものも多そうだね?」
タイキがそう尋ねると、エイラが難しい顔で顎を引く。
「そうですね……テルツィエール魔導国は一切の外交を絶っており、独自の文化を持つと言われています。しかし、その性格上、他国の者があの城下町に入るのは至難の業とのことです。王城にいたっては、あの外観以外の一切の情報がありません」
と、そんな説明を聞いたタイキは更に目を輝かせる。
「徹底してるねぇ。でも、全ての資源があそこで揃うってわけじゃないんだろう?」
「山の麓で物資のやり取りはしているようです。とはいえ、ほとんど自国の資源でまかなえているらしく、輸出入は活発ではありません」
「ふむ……王政ってことは王様がいて政治をしてるわけだし、国民は王様を見てるんだよね? どんな人かな。鎖国みたいなことしてるなんて、気になるなぁ」
「それが、魔導国の国王はその姿を晒したことが無いという噂で……周辺国が交渉を求めた場合、使者の者がその国に出向くばかりで、魔導国内で会談を行えたという話も聞きません」
そんな会話をするタイキとエイラに、アイファが静かに口を開いた。
「……エルフの家族達に伝わる噂では、テルツィエール魔導国の王はハイエルフの生き残りと言われている。世俗との隔絶の為に山中に集落を作ったのが魔導国の始まりだと……」
「ハイエルフ様ですか。神話に出てくるエルフの皆様の始祖とよばれる方々ですね。確か、数百年というとても長い寿命をお持ちだとか。凄いですねぇ〜」
「数百年!」
アイファの言葉にメーアが反応を返した。そして、タイキが頷く。
「面白そうだね。ハイエルフかぁ。会ってみたいな」
そう口にして、タイキは次に向かう先をテルツィエール魔導国に決定したのだった。
「中に入れると良いのですが……」
盛り上がるタイキの斜め後ろで、困ったように笑うエイラとA1が静かにスクリーンを見上げていた。




