オトモダチ
「エイラか。良い名前だね。俺のことはタイキって呼んでね」
「あ、た、タイキさん、ですね」
「うんうん」
まだぎこちないが、かなり距離は縮まった気がする。
エイラと話していると心が弾むのは確かだが、これは一ヶ月独りだった副作用である。自分の半分くらいの少女にトキめいたわけでは無い。
胸の内で自分に言い訳をしていると、エイラは少し不安そうに眉根を寄せた。
「あ、あの……この、不思議な場所には、いったい何人の魔術師の方がいらっしゃるのでしょう?」
と、いきなりそんな質問をされ、俺は頭を捻る。
はて?
魔術師ってなんじゃ?
魔法使いか?
そんなことを考えながら唸り、ようやく気が付いた。
そうか。島が空を飛ぶのを見てるから魔法使いがいると思ってるんだな。確かに、こんな巨大なモノが空を飛ぶなんて信じられないよな。
俺は一人で納得し、何度も頷いた。
そして、エイラを見る。
「この城には俺一人しかいないよ」
「え?」
俺の回答にエイラは目を瞬かせ、数秒後に言葉の意味を理解したのか、顔を上げた。
「ひ、ひ、一人!? タイキさ……タイキ様お一人ですか!?」
何故か様付けに格上げされた。アレか? お一人様という悪口か?
「独りだよ」
寂しい奴と笑いたければ笑えば良いのだ。本当に寂しいからグウの音も出ないが。
そんなことを思っていると、エイラは滝の様な汗を流しながら視線をA1に向けた。
「では、このゴーレムは……あの大量のゴーレム達は……」
「ん? うーん、部下みたいなもんかな? 話し相手になってくれたら一番なんだけどな」
そう言って笑うと、A1が顔だけをこちらに向ける。なんだ、A1。俺たちは親友だと言いたいのか。愛い奴め。
俺とA1が永遠にも似た時間を共有していると、愕然とした顔のエイラがこちらを見ていた。
「す、凄い方なんですね……」
掠れた声でそう言われ、俺は首を傾げる。
「良く分からんが、今日はもう夕方になる。また明日話を聞かせてもらおうかな」
と、そう告げてからふと思い出した。
エイラには何処で寝てもらおう。まさか、うら若き乙女と同室するわけにはいくまい。
やはり、この高級ホテル的な部屋が並ぶフロアーか。幸いにも部屋には浴室は無いがシャワー室ならある。トイレも完備だ。
「部屋に案内しようか」
「あ、は、はい」
と、エイラは返事をして付いてくる。A1は背後を守るように付いてきた。
食堂を出て、左右に伸びる廊下を眺める。
「近い方が良いかい? それとも遠い方が良い?」
「と、言いますと……?」
「オススメはエレベーターの近くかな。あの円柱の中に入るやつ。あれを使わないと移動出来ないし」
「あ、あの丸い……では、そちらでお願いします」
そんなやり取りをしてエレベーター前まで歩き、一番近い部屋のドアを開けた。
中を開けると、二人が並んで歩けるくらいの通路があり、その途中にはドアがある。ドアの向こう側にはシャワー室とトイレが別々にあり、通路の奥にはダブルベッドが一つとテーブル、椅子が二脚とソファーが並んでいた。
壁には二メートル四方くらいの窓があり、外から夕陽が射し込んでいる。部屋自体の広さは二十畳くらいだろう。壁にはクローゼットや棚が埋め込まれているので実際にはもっと広い筈だが。
エイラはその部屋を見て、嬉しそうにこちらを振り向いた。
「此処に泊まっても良いんですか!?」
「うん。いいよ」
物はないが、俺の部屋より良い部屋だ。嬉しかろう。
エイラは部屋の中を見回し、ベッドに向かった。
「久しぶりのベッド……! わぁ、凄い!? 柔らかいのに弾む!?」
両手でベッドを上から押して子供のようにはしゃぐエイラに、俺は微笑みを浮かべて頷く。ちなみにA1は大きさの関係で部屋に入れなかった。
「良いベッドだぞ。あぁ、そうだ。トイレとシャワーの使い方を教えようか」
「シャワー?」
小首を傾げるエイラを手招きし、シャワー室を案内する。白い綺麗なシャワー室は広くて使いやすそうである。
エイラに見ててねと言ってノズルを持ち、壁に向けてからお湯を出した。給湯機がついているので適温のお湯が出る。
「ほら。こっちがお湯で、こっちが水ね」
「え? これを捻るだけでお湯が……?」
驚きながらノズルから出るお湯に触れ、エイラは更に目を大きくした。
シャワーでこれなら、トイレは更に驚くに違いない。何故なら、日本人はトイレという存在に異常な執着を持ち、常に最高のトイレを模索しているからだ。
俺は不敵に笑い、トイレに続くドアを開けた。
白い綺麗なトイレがその姿を見せ、いらっしゃいませと言わんばかりに、自動でフタが開く。
「あの、これがトイレですか?」
目を瞬かせるエイラ。
「そうだよ。ここに座って、終わったらコッチのボタンを押す。すると水が出てお尻を洗ってくれるんだ。後はこっちの紙を使って拭いて、そこのボタンを押せば……ほら」
ジャー、と流れていく水を見て、エイラが歓声を上げる。
「凄い! これなら常にトイレは清潔に保たれるのですね!? こんな凄いトイレは王宮にもありませんよ!?」
おや? 予想外な方向で喜んでらっしゃる。
町娘のエイラが王宮のトイレ事情を知っているわけもないが、それだけ最高のトイレと言いたいのだろう。
うむうむ。結果オーライである。
「後は何かあったかな」
そう言ってベッドルームに戻ると、興奮冷めやらぬエイラが歩いてきた。
「素敵な部屋、素敵なベッド、素敵なトイレとシャワーですね」
鼻歌が聞こえてきそうなほど上機嫌になったエイラは、窓の外に目を向ける。
「先程も少し見えましたが、綺麗な景色ですね。あら? 白い家があんなに……」
視線を下げて困惑するエイラに、苦笑混じりに話し掛ける。
「誰も住んでないけどね」
そう告げると、エイラはこちらを振り向く。
「誰も? しかし、あんなに綺麗な海辺の町なのに……」
「この飛行島には俺しかいないからなぁ。勿体無いけど、全部空き家だね」
「……飛行島?」
眉間に小さなシワを作って聞き返すエイラに、軽く頷いて答える。
「あれ? 覚えてないかい? エイラはそこのA1と一緒にこの飛行島に飛んできたんだよ。ほら、良く見たらあの景色が少しずつ流れていってるだろう?」
「え、え、え?」
落ち着きなく外の景色と俺を見比べて、エイラは窓に張り付くようにして外を凝視した。
「し、しま、島が、飛んでる……?」
現実を把握したエイラは、それだけ呟いてから動かなくなった。
書きたいけど書く時間が無いー!
寝らずに書くか……




