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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
時は満ちた。
8/20

no.7

どこに繋がっているかわからない下りの階段。


「……」



気持ちは落ち着かない。

とても穏やかな性格は演じられない。

だが、平常心を保っていないと、どうにかなってしまいそうで月のの人としてのプライドが働いていた。




「さっき霜焼けとかしませんでしたか? ……ぶっ!」



ピタっ! と止まった黒い背中に思いっきり顔を当てた。


「……す、すいません」


背の高い彼を見上げると、ウォルターは顔だけを振り向いていた。

階段の差があるはずなのに、それでも高い彼。




「大丈夫ですか?」


ウォルターの背中に手を当てたまま固まっている月に、いたって真剣に訊いた。



「え、っとあの、大丈夫です。さっきは感情任せに失礼いたしました……」


「いえ、それは気にしていません。身体の中で力を感じたりは?」


「え? 私の中、で、ですか?」


お腹に手を当ててみる。



「分かりません。さっきはどうすれば良いか分かったのですが……」


「そうですか……では、」


「うえっ!?」



ウォルターが月の手を引く。

身構えていなかった月の体は、最も簡単にバランスを崩す。


男性の力で引かれた体は、あっという間に宙を飛ぶ。



「あ、」



パキィィ。

階段にダイブした月を救ったのは、体を支えるように出来た氷の柱だった。



「ビっ!っくりしたぁ…」



階段という狭い空間に広がった霜。

安全な距離をとって杖を構えたウォルターの指先に触れる。



「ッ!!」



触れた指先から光り、光った部分から変色し凍っていく。



「えっ! ダメッッ!!」


それに気付いた月が、力の限り声を張り上げた。


そうすると、その声に応えるように氷の柱と広がった霜がボフッと音を立てて消える。



バランスを崩しながらも、ウォルターに駆け寄る月のあまりにも必死な様に、ウォルターの方が気押された。



「動かないで! 入り込んだ霜を取り出します!」


杖を握ったまま凍った手。

月が正面から手を握ると、杖先が彼女の心臓に当たる。


「っ!? 自ら杖に胸を預けるとは、どういうつもりです。杖先から退きなさい」


驚いたウォルターが少し強く言うも、月は両手でウォルターの手全体を包み目を瞑る。



「お願い……言うこときいて……」


月が念じると凍りの侵食が止まり


「おいで……」


侵入した霜を引き抜く様に包んだ手をゆっくり自分の元に引くと、ウォルターの手は元通りになった。



引き終えた両手を背後に捨てる様に振ると、開いた手の平から氷の粉が舞う。



美しい氷の粉にウォルターの目が見開く。



「あの、すみませんでした……大丈夫ですか?」


下から覗き込むようにウォルターの様子を伺う月に、ウォルターが小さく口を動かした。




「いえ、謝るのは私の方です。浅はかにも試すようなことをしました……申し訳ありません」


「いえ、何か確かめたいことがあったんですか?」



唐突すぎる彼に疑問に思って聞いてみる。

だが、視線を合わせたウォルターの目が険しくなっていく。


「理由もあるし、助けて頂いて言うもの悪いが、未だに杖先から退かないのはどうでしょう?……誤って呪いを打ったらどうするつもりだ」



む。と少し怒っているウォルター。



「ウォルターさんはそんなヘマしないでしょう? ……それに、杖がない世界にいたから杖を向けられてる恐怖というのがよく分からないんですよ」



少し可愛い気もして、ゆっくりと当たったままのウォルターの杖から離れる。



「……危ないので、今後は気を付けてください」


「分かりました、気を付けますね」



ニッコリ微笑んだ月を見てからまたウォルターは前を歩く。



「同じ建物内にいても常に側に入れるわけではないので、どれ程守護力があるか確かめたかったんです。唐突ではないと確かめられないので……無礼は承知の上です。お詫びに、私に出来るとこであればご要望にお応えしますよ」



肩越しに一瞥する彼に少し心が鳴る。



「いえ、むしろ攻撃してしまったので……」



視線を外すように俯く。



「着きましたよ、この部屋を使ってください。……気になるなら能力については後日、ちゃんと訓練します」



1枚の大きい扉を開けると、ウッド調の温かみのある部屋が姿を見せる。



「! ありがとうございます」


「では、私はこれで」


「あの! ……できれば何か、読む物を頂けたら嬉しいのですが……」



言いにくそうに告げると、ウォルターは部屋の中に目線を移す。



「!」



ドサドサドサ、と音を立てて部屋にあるアンテークな机に現れたのは大量の本。



「わぁ! 魔法みたい! あ…、魔法でした。すみません。これともう一つ…あたしの能力が暴走した時の為に、この部屋だけで被害が収まる呪文を掛けて欲しいのですが……」


「呪文……そうですね、掛けておきましょうか」



杖を一振りする。



「外にも呪文を掛けたので、私、スコルさん、ダンさん以外は訪ねて来ない」



部屋くらいは、ゆっくりできますよ。と言い残しウォルターが踵を返す。



「……」



一人っきりになった部屋でいざ、手をかざすと花火の様に霜が走る。


「っ…、なかなか、に、難しい…!」



先程のダンの部屋や階段の様には制御できず、部屋中に氷が張り付く。



「ちょっと無理っ……今日は諦めっ、」



体のリミットを外し、能力の解散、現実の認識。

鉛のように重い体に鞭を打つが、思ったようには動かない。


それでも少し休むとモヤモヤし始め、月なりの特訓を始める。



「くっ…」




新しい住人によって齎された灯りは、しばらく消える事はなかった。



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