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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
時は満ちた。
6/20

no.5


「うっ……っ、はっ、は……はぁ〜〜」




ピシピシとまだ痛む身体。

拷問の様に続いた痛みが治まったのは、あれから2時間を回った頃だった。



小さかった身体は丸みを帯び、ふっくらと強調された胸に、くびれたウエスト、引き締まってるが柔らかいお尻……そして漆黒の様に黒く長い髪。





「夢みたいな体型なだけに複雑……」



今までの自分の体型はこんなに理想ではなく、ムチムチした体型だった。


白く日に焼けてない肌に滲む血を流そうと、ベッドから降りる。

部屋を見渡して、それらしい扉を開ければバスルームが出てくる。着ていた服では体に合わなく、シーツを巻いたまま足を踏み入れた。





『漆黒の黒髪にターコイズの目』



ふと月が大きい鏡を見れば、そこにターコイズの石をはめたかのような異類の目が映った。

綺麗だが動物の様で、何処か人離れした瞳に人間ではなくなった気がして心が冷たくなっていく。




「ふっ……」



面白くないのに笑えてくる。




『闇の帝王』


『とても長い純血の歴史を持ち、神に近い未知の力を持つと恐れられたシノムン一族』


『絶大な魔力』


『子供に服従の呪文をかけ、一族を襲ったのじゃ』


『君の姉が傷つきながらも、幼い君を抱いて儂の前に来たのじゃ』


『3歳だった君に昏睡魔法をかけた』





知らないはずの出来事。

だが知っている血塗られた歴史。

渦巻くのは矛盾。



否定したい。

だが流れた血を思うと否定できない。

逃げたい。逃げれない。




温かいお湯を当てれば、透明な水に自分の血が混ざり落ちる。




「……あたしの人生、3年を除いた17年全てが空想だった訳か」



温かいお湯に濁る呪われた血に、嘲笑う。



「出来上がったのは、空想の世界で構築された人格だけ。……会えなくなるならもっと、ずっと一緒にいたかったな、……もっとお母さんに甘えとけば良かった。弟にもお姉ちゃんにも………ふふっ、やだなー。分かってたらお姉ちゃんと2人暮らしとかしたかったな。……もうどうしようもないのに、……作られた家族だったなんて……それでも会いたい」











湯から上がると、そこにあったかのように置かれている衣類。

なんとなく、もう少しゆっくりしてから着ようかと、タオル1枚を巻いた状態で脱衣所から出て来た月は絶句した。






「ウ、ウ……」



部屋の外に繋がる扉のすぐ横に、眉間にシワを寄せた黒衣の彼が立っていたのだ。




「ウ、ちょ……、…すみません。すぐに着替えます!」




ウォルターさん! とは言えずに途端に謝り、慌てて脱衣所に戻り、赤い顔のまま衣類を身に付ける。


耳まで赤くした月は少しだけ扉を開けては、少しだけ身を乗り出した。




「あのっ……、先程は失礼致しました…」



扉から覗くように顔を出し彼を伺うと。気まずそうに目を逸らし、えっ、と月が声を出す前にグイっと差し出されたカップからは、毒々しい色とあまり欲が湧かない薫りがする。




扉から姿を表した月は、襟が白のシャツタイプになった黒のAラインワンピースに身を包み、足元も黒のブーツを履いている。髪が少し湿っているが、この際気にしないでいた。





「体調が良くなります」



目の前のに押し出されるカップの中身に、毒でも?

と問いたいが、眉一つ動かさない真剣なウォルターに聞けるはずもなく、差し出されたカップを素直に受け取る。



「サ、……サディステックなお色ですね……」



素直に受け取れたが、素直には飲むことは出来ず口から零れた本音。



「心配しなくても中身は栄養剤です……血を流したにも関わらず、湯を浴びれば具合だって悪くなりますよ」


「っ、そう、ですよね…」



完全に言い当てられ、グウの音も出てこず黙黙とカップを口元に運ぶ。

確かに血を流しふらつく足でお湯に当たったせいか、気分が悪かった。




「……、……」




煽るように口を開けば、ドロリとした物が喉を通って行く……が。



「お腹が……いっぱい、です」



17年も物を通していなかった胃は、ドロドロした物を2口も飲めば直ぐに満杯になった。



「苦しいかもしれませんが、冷めるともっと不味くなるので……」


温かいうちに頑張って飲んでください。

体が楽になるはずです。



とまで言われれば、要りませんとは言えない……。


時間をかけてでも飲まなければならない手の中の液体に、気分がさらに落ちる。

だが、作ってくれたウォルターを前にそれは失礼かと月はグッと耐えた。



「ありがとうございます。わざわざ煎じて下さったんですよね……残さず飲みます」



多分。とは言わずにお礼を言ってから、本当の要件はなんだとばかりに月はウォルターを見上げる。



「?」



思いもよらぬ彼の驚いた表情に、何か粗相をしたかと首を傾げる。




「なぜ、私が煎じたと?」


「え……? な、なんででしょう……?」




何気なく言った言葉だけに、月は戸惑った。


ただ、手の中にあるカップの中身はウォルターが一から煎じた物だ。と言う事だけは何故か確信を持てる。




だって……


「あなたは薬学に長けてるし、薬の研究もしてるじゃないですか……?、!! …なんで、あたし…知ってるのでしょう…?」



自分で言っておきながら自分で困惑する。

ウォルターは一言も自分が煎じたとも、薬学に長けてるとも話していない。

だがそれを言い当てた彼女がシノムン家だと言う事を思い出し、ウォルターはそれ以上問い詰めることを止めた。




「ダンさんが別室であなたを待っています」


「ダン…?」


「さっきの爺さんですよ」




あたふたとしていた月も、ダンが呼んでいる理由が分かると、下がる気分を今度は耐える事ができなかった。



「行きましょうか。案内しますよ」





催促する彼にあからさまに耳を垂らす。

下を向けば、手に持っている暖かい飲み物が目に入り喉が鳴る。


これ以上彼を待たせるのも悪いと、中身を一気に煽る。悲鳴を上げる胃を、無理矢理抑え込み全て飲み干す。



「ご、馳走様でした」



っう、と泣きながら渡すカップ。



「頑張りましたね」



差し出したカップにウォルターが手をかざすと、水がつがれた。

優しく言う彼に無償に泣きたくなったのは秘密。


心でお礼を言いながら口の中の後味を水で流し込んで部屋を出る。



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