no.1
「ーーウォルターー! ウォルター!」
バタバタと駆け回る音が廊下に響き渡る。
「なんですか、うるさい」
青、水色……透き通るような瞳が入った切れ長な目。
灰色かがった黒髪。
加えて長身の男が、立ち並ぶ扉から不機嫌そうに出て来た。
彼がウォルターだ。
「探したよウォルター。……武器庫に襲撃したのは女の子だったよ。今は意識不明、倒れていた周りには彼女を守るように氷の檻が張られているいるらしい」
同じく長身の男が読み上げる情報に、ウォルターは耳を疑う。
「………氷? そんな属性はない。スコルさん……私を馬鹿にしてるんですか?」
切れ長い目を細めると、スコルと呼ばれた男が慌てる。
「ちょっと落ち着いて! 君を馬鹿にするはずがないでしょう!」
「……」
ジットリとした目で、ウォルターは自分より背の高いスコルを見る。
「わかりました。行きましょう」
色素が薄いのか、金色に輝くスコルの頭を眺めてからウォルターは急ぐ様に歩き出す。
その速すぎる歩みに、苦笑いしながらスコルも遅れまいと並ぶ。
「連絡は回してますか?」
「各班長には言ったけど、後はそれぞれが回してるんじゃない?」
「……はぁ、団長のくせに相変わらず適当ですね」
「細かい事は、優秀なウォルター君がやってくれますからね」
「……来月からの給料、反転して頂きましょう」
毒を吐きながらも、すれ違う隊員に労いの言葉をかけた。その時、問題の建物から襲撃された割には靄の様に白すぎる煙が上がっているのを一瞥する。
「!」
更に足を早め到着してみれば、惑星の墜落後の様に見るも無惨に武器庫は破壊されていた。
「ひどいな……」
近付くにつれ、心なしか冷気が漂う。
「報告されていた氷とは、このことですね」
「その、ようだね……」
もはや役割を果たさない武器庫の中に入れば、納められていた武器はガラクタ同然に破損し、そこら中に散らばっていた。
そして、その周りを武器を持って囲む兵。
異様な雰囲気を醸し出しているのは、ただ茫然と囲んでいる兵だけではない。
先程言った、散らばった鉄くず、それらが意図して避けたかの様に、一定からは散らばっていない。
それどころか、ゴミ一つ落ちるのも許さないとばかりに空気が違うのだ。
「! 彼女か…」
その異様な中心に、シン……と横たわる薄青いワンピースを着た3、4歳の少女。
確認しようとウォルターが足を踏み出すと、靄が意志を持った様に形成した。
「っ!……氷の檻」
細工の施された氷の檻の中で、少女の胸は上下に揺れる。
まるで鳥籠の小鳥の様に。
檻に護られて安息に寝ているのだ。