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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
欺かれた華。
16/20

2no.8


毎日のように行われる査問。


「どうして貴様は生きているんだ?貴様の存在意義とはなんだ?」


ずっと繰り返されるアイデンティティーへの質問。

真っ直ぐ立っているもの疲れてくる程、精神面をすり減らされる。



「っ…!」



見据えていた視界に砂嵐が舞い込む……予知だ。

月はぐっと手を握り、なるべく抵抗しない。



「(大丈夫、大丈夫…)」



先日までと違って映像はハッキリしていた。

毎度見ていた大量の血。


「(血…なぜ血があるの?そうなる前は教えてはくれないの?…映像が…)


途絶えた予知に呼吸が荒くなる。



「(拒絶反応ッ!)」



恐怖からウォルターに視線を投げると相変わらずの、落ち着いた青の目の瞳。




「(無理をするならウォルターさんの見える所で…大丈夫。少しくらい痛くてもウォルターさんがなんとかしてくれる)



大きく息を吸うと呼吸が落ち着く。




バンッッッッ!!!!



「!!!」



机を叩く派手な音に、肩を揺らして意識を戻せば、シードが息荒く立ち上がっていた。




「貴様ー!!!!ーーー!!!!」



怒鳴り声が上がり杖を向けているシードが目に入るが、意識は砂嵐に向けた。




「(!子どもの、死体…!)」



動いた映像に息を呑んだ。



思わずウォルターを見る。

ウォルターも月の異変に気付いており、様子を伺っていた。




「(次が来る…)」


移動するように砂嵐が映る。

そして映し出された映像には時間、場所、嫌がるミチルを魔法で眠らせ連れて行く男達……その後ろ姿に花が舞った予知は5分後を表していた。





「ッ!…ウォルターさんッ!!!!」




月の叫びに、その場が戦場となった。


立ち上がったウォルターに、トニーは王に防護壁呪文を。

同時に王政派の1人がウォルターに硬直の呪文をかけ、シードも杖を構え月に呪いを放った。



同時に襲い掛かる2つの呪い。

澄まし顔のスコルの隣のウォルターが手をかざし2人の杖を弾き飛ばすし、硬直の呪文を相殺し、月に保護呪文を施すことにより沈黙する。




「予知ですね?」


音もなく隣に立つウォルターに月が力強く頷く。



「5分後にミチルちゃんが連れ去られる!間に合わなくてもて手掛かりがあるはずです!」


「団長、私はゲイルの元へ!」


「私は月に!」



叫んで伝えた月に2人の対応は迅速的且つ冷静だった。


月の頭をひと撫でし音もなくウォルターが風のように消えると、スコルが月の隣に立つ。


背後に隠さないのは彼女が真っ直ぐに王を見据えているから。



そして、月の隣から一歩前に出て一礼する。



「無礼を失礼いたしました、王。これが彼女の予知です。…不安定でしたが査問のおかげで安定したようです」



笑みを隠すように袖を口元に持っていく。



「くっ、よくも…!!」



王政派が再度杖を構えたのを、スコルが弾き飛ばす。


「精鋭軍団長の私に杖を向けるとはいい度胸だね。シード…君は死の呪いを放ったね?」



温厚な彼からは想像もつかない程、はっきりしたテノールに威圧。



「……」


そのやり取りすら気にしないほど強く、強く、月は王を見た。




パキィ…



「何をする気だッ!!」


自身とスコルの前に氷の膜を張った月に、杖を持たないシードが王を庇うように盾になる。




「…どきなさい」


「ッ…」



しっかり芯のある月の声にシードが怯んだ。

シードが杖を呼び戻し構えるが、力の差は一目瞭然。肌で感じるピリピリとした感覚。



「杖など怖くない。…もう一度言います。私の前から退きなさい」



月が一歩前に出ると、気迫に押されるようにズルズルと前を開けた。



「王、これが私の力です」



見せ付けるように、氷の粉を散らす。


「…私は強い。精鋭軍は良い所です。彼達の元にいれば、私は良い子にすると約束しましょう」


「ふざけるなっ!!そんな口約束信じられるかぁ!!」



王政派が今にも呪いを放とうとする。

静かにそちらに目線を動かせば、恐怖から勢いが増す杖先の呪い。



「放ちなさい。そんなもの私の前では子どもの悪戯にもならない」


「これは死の呪いだぞ!!!」


「…だから?私の氷の前では貴方の呪いなど役に立たない」


「死んで私に詫びるがいい!!!」



真っ直ぐ飛んでくる赤い呪いは、月の氷の壁に当たると氷に広がるように赤が行き渡り幻想的な演出をしてくれる。



「美しいでしょう?あなた達に私は殺せない。私を殺せるのはウォルターさんだけ。私はウォルターさんには逆らえない。彼は私よりも強いもの。精鋭軍が私を殺す判断をすれば、それに従いましょう」



嘘のない目で王を見据える。



「…だから化け物を認めろと言うのか?」


「そうです。この美しい能力を持った化け物を国で飼ってはくださいませんか?」



パキィと床に霜が咲き乱れる。



「ハデスすら欲しがった、この呪われた血族を…王族が飼うのです」


「…ほぅ」



誰もが見惚れたであろう。


黒く長い髪に白い肌。そしてターコイズの瞳。飼ってと言いながら、誰にも平伏さない強さに。


誰も持ち得ない氷の能力。そして予知。

まだまだ知らないシノムンの能力。



「……、」



王の喉が上下した。





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