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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
欺かれた華。
15/20

2no.7

馴染んできた扉をウォルターが開けると、少しやつれた月が立っていた。


辟易と言うよりも、どこか怯えていて憂慮の面持ちの。



「…行かなきゃダメですよね」


「?…何かありましたか?」



口を噤んでしまった月を催促せず、言い出すまでウォルターは待った。



「…予知を視ました。………この前に話した、床におびただしい量の血があった夢…この建物ではなく、もっと古い、廃墟みたいな所でした…人も倒れていたのですが、ボヤけて視えないんです……」


「…大体はわかりました。顔色が悪い」



最も大事なことは言ったはずだ、とウォルターが月の言葉を止めた。



「……」


「教えてくれてありがとうございます」



月の頭を胸に寄せれば小さく横に振られる。


微かに震える身体を撫でてやることしかできない。






「ーーー聞いているのか!」


「あ、ごめんなさい…」


「馬鹿にしてるのか!貴様の為の査問だろうが、ったくそろそろ自分を認めたらどうだ」


ーーーー化け物は化け物にしかなれないのだ!




と続いた言葉は月には届かなかった。

只ひたすらに”自分を認めろ“と言われた言葉が、脈を打った。



「(あたし、自分のこと何一つ認めてないや…)」


ウォルターに言った。『ーー自分自身さえ…』



夥しい血の予知。

違う。これはあたしではない。この世界ではない。違う、違う。と駄々を捏ね続けた。



前を向けば、杖を構えてこちらに怒号しているシードがいる。


杖など怖くない。知らない世界。



「(あたし、もう本当に家族にも弟にもお姉ちゃんにも、会えないんだな…本当に夢だったんだ。いないんだ。ここで生きていかなきゃいけないんだ…)」


「…ずいぶん今日は大人しいな。興醒めだ」



ギィと音が鳴り、意識を戻すと王が立ち上がっていた。



「今日の査問は終わりです」


トニーが告げると王はサイドの扉から出て行く。


「帰りますよ」


月は肩を掴まれ、ウォルターに出口へ足される。



「(分かっていたけど、本当にこの人は良くしてくれてるんだ。ウォルターさんやスコルさんが悪人だったら、きっと居場所もなくて死んでたのかなあたし…)」



周りの優しさが、査問によってより思い知らされるなんて皮肉なもんだ。



「なんて小さな人間なんだろう…」


吐息程度に零し、手を引いてくれる大きな後ろ姿に涙が浮かぶ。



「(あたしも、認めなきゃ……)」



その日の夜、月の部屋の明かりは消えた。








夜が明けようと薄く光がカーテンから差し込む。


「…なんだ?」


眠っていたウォルターを襲う纏わりつくねっとりした気。



「…!」



何かに気付いたようにその場から消える。




「月さん!!」



バンッッッッ!!

と派手に音を立てて月の部屋に入る。



「くそっ、遅かった」


真っ暗な中、ベットに横たわってる月の周りに氷の氷柱が月に向いて浮いている。



急いで月の体に防護壁を作り近寄ると、大量の汗と荒い呼吸で踠いてる。

時折呼吸が止まるのは拒絶反応を表しているから。



「月さん、月さん!」



呼びかけながら月の額に手を当てて呪文を唱える。



「!…はっ、はっ、」



氷の氷柱が床に落ち。水を得た魚のように呼吸をする月に、彼女が戻って来たことをウォルターが安堵する。



「ウォルター、さん…初めて名前で呼んでくれましたね…」



薄く開いた目で笑う彼女に心が苦しくなる。



「なぜ…」



こんな事に…と続けたかった言葉をウォルターは飲み込んだ。


明かりの消された部屋は、月が眠ろうとした証。

眠るという事は予知夢を受け入れようとした努力。

拒絶反応で呼吸が止まったのは心から予知夢を受け入れてない証拠。


全てが彼女なりの覚悟だからなのだと分かっていたからだ。



「予知夢を視ようとしたのですが…途中で拒絶反応が出てしまったみたいで…」



困ったように笑う月にウォルターは見えないようにシーツを握った。



「無理をするなとは言いません。ですが、する時は私が見える所でして下さい」



なるべく優しく、汗で額にへばり付いた月の髪を取る。



「よく私が分かりましたね」


「…伊達に年をとってはいませんよ」


「ふふ、苦しかったので助かりました。…前に見た予知夢の続きを視ようとしたんです」



髪をとったウォルターの手を月が摑まえる。



「ですが、予知夢に私が喰われてしまいました」


少し震える手でウォルターに笑いかける。



「私の能力なのに情けないですよね…」


「貴方はまだ3歳と同じですよ。3歳児が能力を操っていたら私達はたまったもんじゃないですよ」



まっすぐ見つめられる薄い青の目に月の心が綻ぶ。



「そうでした。私まだ3歳児なんでしたね…ふふ、…いろいろフォローお願い致します」



笑いながら心で泣くとは彼女の今を表す言葉だと、細めた目でウォルターは思う。







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