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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
欺かれた華。
14/20

2no.6



「ウォルターさん、よく眠れる薬ってないですか?」


遅い時間でも明かりのついてるウォルターの部屋は、予知を見る月にとって逃げ場になっていた。


案の定、査問の期間は日に日に短くなっていく。

寝れない頭はうまく処理できず、鬱々たる月の様は見るも痛い。



「薬は癖になるから、お勧めできない…ここでもいいなら、私が起こしてあげますよ」


「お仕事がまだあるでしょ?ご迷惑はかけたくないので…」


「そうですか、では気絶なんてどうです?」


手刀の構えをする。

たまに寝ない月にウォルターが腹黒い顔をするようになった。



「え、や、うーん、もはやそれでもいいかな」


「馬鹿なこと言ってないで、ソファ使って寝なさい。異変を感じたらすぐ起こします」


「え!いや、大丈夫です」


「電気も消しますよ」


「はい、お言葉に甘えて寝させて頂きます…」



仕事をしていたのに、本当に電気まで消しそうな気配がしてソファに座る。



「私ので申し訳ないですが無いよりはマシでしょう。寒かったら言ってください」


もっふもふな毛布を渡されお礼を言う。



「(ウォルターさんの匂い…)」


包み込まれる暖かさと安心感に抗えず眠りにおちて行く。




ランプの明かりが揺れるなか、書類から小さく呼吸をする塊に目を移す。



「…」


大の大人が根を上げる査問に月は耐え続けた。

『なぜ生きてる?』と問われ続ける心理破壊まがいな攻めにも、泣き言ひとつ言わないでいた。



「可愛げのない…」


責任の有無が問われる精鋭軍が不利になりそうなら、矛先を自分に向ける様に気を遣う月にウォルターが出来ることと言えば、甘やかせることくらいだ。


歯がゆい…いい歳した大人がオロオロするばかりだ。



「せめて良い夢を…」



静かに寝息を立てる月に、手を振りかざすときめ細かい魔法の粉が散る。










パチ、



点いていた明かりが消えている気がして目を開けた。

暗くなった部屋を、ステンドが控えめに照らしている


部屋の主を探そうと体を起こす。



「起きるには早い時間ですよ」


「!ウォルターさん…」


「まだ寝ていなさい」



お向かいのソファで同じ様に寝ているウォルター。



「毛布、ありがとうございます。あの…部屋に戻るので、ウォルターさんゆっくり寝てください」


「誰かと同じ空間で寝るのが久しぶりなんです。だからまだ寝ていなさい」



目を細めた笑い方に、ウォルターの優しさを感じて再び横になる。



「ウォルターさんって、趣味とかあるんですか?」


「薮から棒になんです?」


「いえ、そう言えばウォルターさんの事って、あまり知らなかったなって思って」


「こんなおじさんの趣味なんて聞きたいですか?」


「ふふ、でもウォルターさん、おじさんに見えませんよ?」



大人びた月の笑顔。




「……怖くないんですか?」


「え…?」



落ち着いたウォルターの声に月の心の臓が揺れる。

射抜くような目…嘘など付けないよう、月の真正面から。



「…怖いですよ、何もかも。…自分自身さえも、」



僅かに揺れた月の細い声にウォルターは手を伸ばしたくなった。



「でも、運はいいみたいです!こうやって暖かくしていられるのも、ウォルターさん達のおかげです。…本来なら牢獄にいてもおかしくない身。それを思えば、なんてことないです」


「(あぁ…まだ、この子の心は眠ったままだ…)」



虚勢を張り続け、何一つ信用しない、何一つ頼らないーー自分さえも…。


何一つも、この世界を自分の目で見ていない。




「…そうですか。趣味はまた今度教えてあげますよ…今は寝なさい」


「査問が終わったら教えてくださいね」


「いいでしょう。その代わり、また寝れなくなったら私の執務室にくるのが条件です」


「ウォルターさんもスコルさんも甘やかし過ぎです」


「おじさんはそんなものですよ」


「ふふっ、お休みなさい。お仕事お疲れ様でした」



査問なんて嘘のような暖かいひと時は、自分を見直すのにいい機会を与えてくれる。



「(このままじゃいけないのは分かってるんだけどなぁ…)」



誰かが側にいるというのは心地よいもので、月もユラユラ揺れる視界に抗えず再び眠りに落ちた。






「ん…」


浮上する意識を引っつかんで微睡む。

頬を撫でる感触に毛布を手繰り寄せた。



「…ん、…」


「お昼ご飯を食べ損ねますよ」



優しい声に、微睡んでいた意識が一気に覚醒する。



「すみません!完全に寝ぼけてて!」



ワタワタと前髪やら顔やらを触りながら慌てる姿に、ウォルターが笑う。



「隣が私の部屋になってます、好きに使ってください。先に食堂に行ってます、支度が整ったら来なさい」




ポンポンと頭を撫で執務室を後にしたウォルター。



「……寝すぎちゃった」



隣の部屋に繋がる扉を開けると、ウォルターらしいシックな部屋だった。



「男の人の部屋って感じ…」


ウォルターの一面が見れた気がして、少し嬉しくなる。





食堂に行くとスコルもすでに来ていた。


「おはよう。今日はよく寝れたかい?」


「はい。むしろ寝すぎちゃいました」


「はは、それは良かった。今日は何もないからゆっくりしてるといい」


「あなたは仕事が溜まってるので、仕事して下さい」


ほのぼのしてるスコルにウォルターが釘をさす。



「ワカッテオリマス」



平和なお昼が過ぎ、野原に向かうとミチルが寝そべっていた。



「ミチルちゃん」


「あ、おねえちゃん!きょうはなにしてあそぶ?」


「そうだねぇ〜。ミチルちゃんお花の冠とか作った事ある?」


「お花で?ない!おしえてくれるの?」



にぱっと小さな歯が見える。



「幼女には癒し効果があるのかしら?ロリコンの気持ちが分かる気がする…」


「?ろりこんってなぁに!」


ニコニコと笑っているミチルに取り繕って、花冠の作り方を教える。



「ミチル練習して、おねえちゃんにお花のかんむりさんプレゼントする!」


「プレゼントしてくれるの?嬉しい!あたしもミチルちゃんにプレゼントしちゃうぞぉ」


「きゃああ」



ミチルを押し倒しお腹をくすぐれば、特有の笑い声が響き穏やかな空気が漂う。



「お姉ちゃんはここで待っててね!ミチル上手にできたら来るね!たのしみにしててね!」


「……」


会えなくなることに寂しく思うが、ミチルの楽しそうな笑みに月は負けを認めた。



「わかった!とても楽しみにしとくね」



ならば今日のうちにいっぱい癒されようと、ミチルを腕に抱きしめた。






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