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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
欺かれた華。
12/20

2no.4

ウォルターの執務室で眠りこけたから数日、また眠れない生活をしていた。



「寝るの大好きなのに…」



夢の中では暇さえあれば寝ていた月。今までと、まったく逆の生活になってしまった。




『寝ないならその分知識をつけたらどうですか?』

とウォルターから押し付けられた嫌がらせのような本の数。

彼なりの優しさに甘えて、月は知識を付けることに没頭した。





青と白で建て連なる精鋭軍の城。

王政軍は赤と白の城。

王がいる城は純白な白で色付けられていた。



青と白の敷地内で唯一ある隠れ的穴場の野原がある。


上層部だけしか使えない野原だけに、他の兵達とは鉢合わさない。

唯一そこだけ、行動の自由を許可されて喜んだ月は、暇を見つけてはその野原に本と一緒に足を運んだ。


ゴロンと横になると、暖かいそよ風が頬を撫でる。




「もう春か……ん?」



カサカサと微かに聞こえた音に、上体を起こし辺りを見回す。



「!…、子、ども…?」



大きな木から顔を覗かせた女の子。

怯えたように目を潤ませ木の後ろに隠れてしまう。



「どうしたの?…おいで?」



なるべく優しく声をかけると、ウサギの様に再び顔を出す。


怖がらせないように静かに近づき、目の前にしゃがむと子どもはぎゅっと木にしがみつく。



「あのね、ミチルね、…あのね、分かんなくなっちゃったの…」



支離滅裂な言葉に、思わず吹き出した。



「大丈夫…お姉ちゃん怖いことしないから安心して?ミチルちゃんが怖いなら、ここから動かないから」



鈴の様に笑いミチルの目を見て話す。



「ミチル、まいごになっちゃったの…ママとパパといたのに、いなくなっちゃったの…」



安心したのか、ボロボロとこぼれ落ちる涙に月が微笑みながら拭き取る。



「大丈夫よ、一緒にパパとママ探そっか」



コクンと揺れる小さい頭に心が和む。




「お姉ちゃん、ゆえ、っていうの。よろしくね!」



差し出した手に重ねられた小さな手を、優しく引っ張る。



「ゆえ…?」


「…言いにくかったら、お姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいな」


「お姉ちゃん!」




応えるように綻ぶ笑みを浮かべれば、ミチルも子ども特有の笑みを綻ばせる。



「どこで、パパとママとはぐれちゃったか覚えてる?」


「うーん……、わからない…」



本題に戻ろうと訊いてみると、涙を溜めはじめるミチルを慌てて宥める。



「ウォルターさんに訊くのが早いかな。…ミチルちゃん、今から背が高くて、目が切れ長で、鼻が高くてパリッとしたお兄さんに会うんだけど、優しい人だから怖がらないでね」


「誰のことでしょう?」


「…!……、あ、はは…なんで?」




こてん。と傾げ、苦笑いと唖然を織り交ぜる。

聴き心地の良いその声を間違えるはずもなく、案の定振り返ればウォルターが片眉をあげて立っていた。




「あなた以外の気があったので来てみたんですが…」



言いつつ、隣のミチルに視線を移す。



「戸惑っていた様だから……来るのを待つより私が出向いた方が早いかと」



サッと月に戻された視線に苦笑いが零れる。



「さすがウォルターさん…お見通しですね…」


「あなたに限っての事です……お名前は?」



知ってか知らずか、ウォルターの言葉は甘い言葉に聞こえる。

頬が緩みそうになっていると隣でビクっと揺れる小さな肩に、笑みが零れた。



「だいじょーぶよ、お名前、自分で言えるかな?」



ふわふわの癖っ毛頭を撫で、ミチルをあやす。



「みちるです…4さいです」



自然と敬語になってしまうのは相手がウォルターだからだ。

手で4を作ってウォルターの前に出す。



「そうか。家の名前は分かりますか?」


「いえのなまえ?…あお、青いやね!」


「!…ゲイル・アルトの娘か」



ちぐはぐな会話で進んでいくが、はたから見てもちぐはぐな2人。




「はぐれたんですね。…両親の元まで連れて行きましょう…あなたも来なさい」


「ええ、もちろんです。ウォルターさん、よく青い屋根で分かりましたね…行こうかミチルちゃん?」


「青い屋根の家で4歳の娘持ちなんてそんなにいないですからね」



だいぶ大人しくなってしまった女の子を連れて、ウォルターの後を追う。



「おにいさん鳥さん!」


「足元を見なさい転びますよ」


「ピヨピヨ言ってきれいだねぇ!」


「ほら、段差です」


「鳥さんはなんでお空をとべるんですか!」


「ジャンプして下さい」


「そっか!ジャンプしてとぶんだ!」


「くふっ…」



ミチルには大きい段差を飛び越えさせようとするウォルターと、ウォルターの話を全く聞いてないミチル。

終いには疑問を完結してしまう始末。


クスクスと笑う月にウォルターが厳しい視線を飛ばした。



「あなたも手伝いなさい」












「ーーお手間をかけしました」


お礼を言い、再度何度も頭を下げるミチルの父親に月もウォルターの後ろで何度も頭を下げた。



「!」



どしん、と体当たりをされて下を見るとミチルが足に抱きつくように腕を回している。



「おねえちゃんありがとう、またミチルと会える?」



純粋な目に困り、ウォルターを見上げる。



「……、あの野原ならかまいません」



2人から向けられる不安の視線に耐えかね、諦めた様にウォルターが答える。



「わ!ミチルちゃん!今日会った草原ならいいって!」


「そうげん!そうげん!」



手を合わせて喜ぶ2人にゲイルまでもが、苦笑いを零す。



「ゲイル、」


「分かってます。彼女の事は他言無用で」


「……頼みます」





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