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紳士の年の差と魔法と私  作者: 一条 いちか
欺かれた華。
11/20

2no.3


「無理をさせてすまなかった」


「……大丈夫ですよ」



本当に、『大丈夫』……?




「私の首を繋げるには、仕方のないことですし」


……仕方ないで片せられる?



「これからの事についても話しておきたいのだが……いいかな?」




スコルの執行室に戻って来ても疼く腹の内。

疼く『それ』に蓋をして、紅茶をいれるスコルに頷いてソファーに座る月。

その背もたれにウォルターが腰掛ける。



「あの様子では……今回のところは精鋭で保護できるが、王政は納得いってないだろうな」


「暫く隠した方がいいかもしれませんね。……それ以上砂糖を入れてメタボリックシンドロームになったら、毎日私のスパルタダイエットが始まってさぞかし楽しいでしょうね」



ウォルターの黒い発言に、スコルは砂糖を入れる手を止めた。



「うむ。砂糖の入れすぎはいかんな。だが、ウォルター。それだと怪しまれて足を取られる。……そうだな、しばらく月には私かウォルターと一緒に行動してもらいたい……。今在籍している兵に紹介するのはもう少し落ち着いてからにして、とりあえず入隊の2ヶ月後までは奴らがどう出るか見てみよう」


「いいでしょう。……聞いてましたか?」


「……」



ウォルターの声が月に届かない。

遠くを眺める様な目に、孤影悄然としてたたずむ。



「月……?」


「ーーえっ?」


「どうかしたの? 怖い顔でぼーっとしてたよ?」



疲れた? と顔を覗き込んで来るスコル。

慌ててウォルターを見ると、眉間の皺を深くしていた。



「……すみません」


「スコルさん、話しは纏まりました。寝不足みたいですし、連れて行きます」


「あ、あぁ」



早急に腕を掴まれ、ウォルターに連れ出される。

牢屋から連れ出された様に手荒ではなく、優しく歩調を合わせて。



「……」



案内されたのはウォルターの執行室。

彼に似合った黒のソファに足される。



「少し堪えましたか?」



降りかかる彼らしからぬ優しい声が、無償に可笑しくて微笑む。



「ふふ。……そんな優しい声、初めて聴きました」



想定外に続く虚勢の言葉に、ウォルターは眉間にシワを寄せた。




「……予言者、災いと祝福をもたらす者。……手を差し伸べし者には幸福を齎す。手を振り払いし者には破滅を。水の神の加護を受けし者に天と地を……」




呪文の様に一点を見つめ語る月に、ウォルターの表情が硬くなる。


やがて、月はウォルターに視線を移しへらりと笑う。



「……私に対しての予言です」


「先ほど黙っていた時にでも視たのですか?」


申し訳なさそうに月が頷く。


「スコルさんの話、途中から聞きそびれちゃいました」


「構わない。それを私に伝えたのは何故です?」


「……ウォルターさんには知っていて欲しかったんです。いずれ、『あたしの情報』があなたの命の役に立つ時が来るかもしれないから」


「……」



言わずとも、未来を匂わす発言に顔を顰めた。



「……どこまで視た?」



過去最大級に深く寄った皺。

今までと違い露骨に顔を歪ませた。



「取り敢えず、ウォルターさんが不器用で捻くれ者って事かしら?ーーでも、優しい」



悪戯っぽく笑う彼女に嫌味の一つでも返そうとしたが、続けられた言葉に思わず言葉が詰まった。



伏せられた視線。

優しく綻ぶ月の口元。



「突如現れた私に、よくして下さってありがとうございます」



重なるターコイズにいつもの強さはなく、頼りなく揺れている。



それなりに波乱万丈な月の17年。

例え夢の中だったとしても『人』として送ってきた。


それがたった一日、目を覚ました事によって向けられたのは『化け物』を見る目。


恐れ、興味、軽蔑、欲に塗れたいやらしい目。

まるで汚いゴミでも見るかような視線。



月は護る様に自分に腕を回した。



「……私がいる事で多くの血が流れる……。紛れもない事実です」



月の眉根が悲痛に歪められた。



「何を視た?」


「……、」


「……いろいろと不安にもなるでしょう。これから査問も続く。きっと辛い日々になる……」



ソファに腰をかけてる月に合わせるように、前にしゃがむ。

そっと目を合わせる優しい対応に、月は困った表情を見せた。



「言えない程、私は頼りないですか?」



いつもより優しく細められる彼の目に、口調に、月の胸が熱くなる。



「視たの。……床にこびりつく大量の血をーー」


小さく漏らした、不吉な予知。



「……予知ですか?」


「……たぶん。他の事は霞んで良く視えないのに、血だけは繊細に視える。ーー、これから流れる血は私に関わったから……私自体が呪いなんです。…、でも、…あたし、あなたに嫌われたくないっ…、」




小さく零れる本音。

俯いて泣いてる様にも、笑ってる様にも見える細い肩。



「…嫌いになるもならないも……そんな事を気にしていたんですか」


「……」



頭を撫でる優しい手。

受け入れてくれたように感じて、思わず笑みが零れた。



「あたしには重要だったんですよ?」



少し濡れた目で綻ぶ。


ふわりと笑顔の残像だけを残し、月は前屈みになって倒れた。




「っ……、」


既でのところで受け止めたウォルターが慌てて起こすこと、月は虫の息の寝息を零す。



「泣いてるかと思いました」



涙を流さない彼女。

強がったり弱ったり笑ったり。

毒の様に唐突に舞い込んで来た腕の中の温もり。

零れ落ちないよう、そっとソファーに離す。



「、……何の用でしょう?」




月以外の気配に振り返ると、扉の前にダンがいた。



「お主にしては面倒見が良いのぉ」


「戯言を……。それを仰るためにわざわざここへ?」


「いや、お主に忠告をと思ってな……。月は凡ゆる者を魅力する。人知れぬうちにな……。己の使命を忘れてはいかんぞ」


「……言われなくても」




霧のように散って行くダン。




「……」




ウォルターは、背後に眠る温もりに振り返らずに部屋を出た。








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