2no.2
武器庫の破壊。
突如現れた、呪われたシノムン一族の当主。
水の特殊能力……、存在しない氷属性魔法の所有者。
スコルの声が響く中、月は既に今の状況に滅入っていた。
ねっとりと無遠慮に刺さる視線が、どうしても腹の虫を擽るのだ。
「(お姉ちゃんに会いたい…)」
今までなかった視線に、夢の中を思い出しては心が苦しくなる。
「……ほう、シノムンの当主か。かつては王族ですら関与出来なかった一族だが……今やその地位も地に落ちた。残っているのは卑しい血だけか……。今更何を企んでる」
無遠慮な視線を押す様に送られる圧力。
傲慢な男の傲慢な態度が、月の肌を撫で回す。
「……今も非干渉を求めます。そこの彼が述べて下さった通り、全て事実だけど……あなた方に危害を加える気は有りません。武器庫の破壊も不可抗力です。私が壊したくて壊した訳じゃないもの……」
精一杯の虚勢を張れば返ってくるのは、予想通り多数の野次だ。
「王に向かってなんという口を! この化け物が!」
「ッ!」
ドクン。
先程から纏わり付く視線に言いようのない疑問を持っていた。
いやらしくも、蔑むのでも、恐れるのでもないその視線。
「(なるほどね……化け物を見る目だったのか)」
ポタリと落ちる『化け物』の雫。
波紋の様に広がるそれに、無意識に肌の表面に見えない氷の膜が走る……自分を守るように。
「『化け物。』いい愛称だ。君にしっくりくる……そうは思わんか? 一族も今や君だけだ……恐るるに足りぬ。だが、困ったことに野放しにも出来ぬ。よって君は我が軍に監視をさせる。カテゴリーは『化け物』だ」
追い風を受け、気を良くした王が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「……『化け物』とは、年頃の女性に対して随分な言い方ではなくて?」
ターコイズ瞳に鋭さが混じる。
「人ならざる者、相応しい言葉だと思うがね。呪われた一族、特殊能力、武器庫の破壊、生身なのに無傷。そしてその異類の目。私達、人間からして君は『化け物』だ」
「……なるほど……(この胸糞悪い年寄りめ……夢に視なくて正解だわ)」
握った拳に爪が食い込むが、氷の膜によって傷付く事はない。
……それが『化け物』の代弁をしているかの様に。
「さて、双方に尋ねようか……」
黙る月にさらに気を良くした王が、左右に座るスコル達に視線を移す。
「では、まず王政軍から」
王の背後に立ち、牢屋から雑に月を連れて来た男が発言を許可する。
「はっ。王政軍代12代団長シード・ドレーより、化け物を王政軍で引き受け能力の検証後解剖し、速やかに処理することを王の安全の為、国民の為の最善策だと考えた上で提案させていただきます。王…相手は知能を持った『化け物』。速やかに処理するのがいいでしょう……」
提案とは別に王にだけに呟くその様はまるで胡麻スリ。
『化け物』と言えばご機嫌がとれるのだろうか。
「精鋭軍代38代団長スコル・ウォッチより。彼女は精鋭軍で引き受け、生活を保護し、彼女が持つ力を王の為、この国の為に、あらゆる敵から彼女の力をもって精鋭軍とともに護り尽くすことを提案いたします」
「何を言うか!」
スコルの提案にシードが食ってかかる。
「お前はこの化け物が王を護ると盾になると言うのか! 戯れ言をほざくな!!」
声を荒げるシードに、王は至って冷静な視線を流すだけ。
「……精鋭軍スコルよ、」
「はっ!」
「お前はこの『化け物』が、王である私に跪くと申すのか?」
「……この娘には後ろ盾もなければ拠り所もありません。例え、跪かなくても生きる為、その力を使います。ならばシノムン当主の力……王に付けば、必ずやこの国にいい風を吹かせるでしょう。……魅力的ではありませんか?」
真っ直ぐと王を見つめ、言い切るスコルに王の目が光る。
「ほほう。面白い、言い切ったな」
「……闇との戦いにも大きな力になると考えております」
決めての一押し。
「トニーよ……」
後ろに控えている男…トニーの名を呼び、右手を挙げた。
「では。……ウォルターに監視を任せることで、一旦は精鋭軍に一任しよう。だが、その『化け物』に不審な動きや役に立たなければすぐに王政に引き渡す様に」
「「はっ!」」
「尚、審問は続けます、双方出席するように。以上!」
シードが何か言いたそうにしていたが、トニーの決定は王の決定だけに押し黙る。
「(あたしがいなくても話は進んだんじゃないかな…
嫌なこと言われ損した……)」
月は震える腕を後ろに隠した。




