03 いざここに平凡神子パーティー結成っ!
「……そういえばさ、キィはわかったけれども二人共名前なんて言うの?」
私はここで今更ながらの真実に気づいた。
以前からの知り合いのように自然に話をしていたけれども、騎士と槍使いの二人の名前知らないって。
それに二人も気づき、胸元に手をあて深く頭を垂れた。
おっ、やっと神子っぽくなってきたじゃん。
「俺は王宮騎士のロンドと言います。四種の神器であるグランツ(大剣)を召喚し、神子様のパーティーに選ばれました。よろしくお願いします」
「それで俺がフォルスっす! 狩猟をしながら田舎の自警団に所属していました。武器は四種の神器であるソル(槍)。よろしくっす!」
どうやら一人は王宮騎士、もう一人は猟師だったようだ。
「ロンドとフォルスって私に対して酷くない? なんか扱い雑っていうかさ。キィはちゃんと扱ってくれるんだけど? 一応、光の神子なんだけど」
「あぁ、すみません。なんか神子様は妹のようで、初めて会った気がしなくて」
「まぁ、たしかに」
それは平凡同士だからなのだろうか。
私には大学生の兄がいるが、兄のようだという感じでもない。
うちのお兄ちゃんは釣りとパソコンが趣味という、インドアなのかアウトドアなのかわからないような人物だ。大人しいというか、若干ネガティブな性格。
そのため私と二人合わせて割るとちょうどいいと両親にも言われる始末。
「ですが、神子様だって酷くないですか? 最初のがっかり感めっちゃ顔に出てましたよ」
「ごめん。てっきり異世界召還と言えば、イケメンパーティーと逆ハーレムと相場が決まっていたからさー」
「そんなのがあるんですか?」
「まぁ、私の世界では一般常識並みだよ」
ただし、漫画や小説の中限定だけれども……という注意書きがつくが。
「あとはチート能力!」
「なんですか? チートって」
「主人公が、めっちゃ強い事。男バージョンもあるよ。オプションが、ハーレムとチート! しかも主人公は顔も性格も平凡。そう言えば、他国では勇者も召還しているって言ってたよね? まさか、その適合者が……」
自ら導き出したその答えに、テンションがだだ下がり。
そのため言葉尻がだんんだんと弱くなっていく。
どうやらそれは彼らも同じだったらしい。
「居たら殺意湧きますよ……なんですか、その羨ましい状況は」
「そうですよ。そんなに都合良く行くわけないじゃないっすか~」
「だよねー」
なんて三人で笑っていたけれども、みんなの顔が険しくなっていくのは言わずもがな。
恐らく頭に過ぎっているのだろう。「居るんじゃね?」という思いが。
世の中不平等。ということはいる可能性の方が高い。
「ねぇ。もし旅で遭遇したらどうする?」
「「勿論邪魔します」」
「即答か」
気持ちはわからないでもないが、邪魔するのはさすがにマズイだろう。
うちらと違ってあっちは真面目に魔族討伐の旅をしているんだし。
だがしかし逆ハーレム神子と出会ったら、私はどうするのだろうか?
絶対にねたましくなるはずだ。
……やばい。心がすさんできた。
「皆さん! 辞めて下さい。どうしてそんなに逆ハーレムとかハーレムとかにこだわるんですか?」
その時だった。突如としてキィの声が割って入ったのは。
しかも大理石でできているため、やたら響く。
「好きな人が一人居たらいいじゃないですか」
内容は予想通り真面目だった。
「愛する者が一人居たらそれはとても幸福な事ですよ」
そう言いながら、彼はローブで隠れた首もとに右手で触れている。
それは掌を丸め、何かを握り締めているように。
「まぁ、確かに正論だけどさ。でもさ、モテるのとモテないのではどっちがいい? って訊かれたら、モテる方を取るでしょ」
「だよな~」
「というか、もしかしてキィって好きな人いるのか?」
「え? マジで?」
ロンドの指摘にキィは「えぇ」と微笑んだ。その笑顔が凄まじく輝いている。
「へー。ならさ、もしかしてそれロケットペンダントか何か?」
「え?」
私はキィが今しているように首元を押さえ、そう探れば彼は目を大きく見開いた。
どうやらその様子から、行為は無意識だったらしい。
これは絶対にあるな。何か。
「いえ……これは……って、貴方達何をしようと!?」
さっとそこから手を離し、顔を背けるキィに対しロンド達が両サイドから挟むようにし、
ローブをはだけさせそれを確認しようとしている。どうやら奴らも感づいたようだ。
中学生か! とツッコミたくなったけれども、私も気になるから放置で。
「おっ! 神子様の言う通りにあったぞ」
「ちょっと待って下さい。ちゃんと見せますから。お揃いのネックレスが壊れてしまいます」
「「「お揃いっ!?」」」
さすがにそれには全員の声が重なる。
てっきり片思いと決めつけていたが、どうやら両思いらしい。
と言うことは彼女いたのか!
「……あの、何か」
「なんでもないわよ、リア充め。それより見せて」
「はい。ですが何故みんな刺すような視線で僕の事を……?」
「気にしないで」
その言葉にキィは首を傾げつつ首元からそれを外し開くと、掌へと乗せ私達へと見せてくれた。
それを見て、私を初めキィ以外のパーティーは全員言葉を失ってしまう。
「マジかよ……」
「嘘だろ」
「すっげー美人さんじゃん」
そこに映っていたのは、十人中十人が美女! と叫ぶであろう美女の姿が。
線が細く、ガーネットの瞳を細めて笑っている。
絹のように綺麗な長い髪はローズクォーツ色で、研磨された石のように艶やか。
――何故だ! なぜこんないかにも平凡な男なのにこんな上玉がっ!
それを見て私のやさぐれ度が上がったのはいうまでもない。
「ねぇ、こんな美女残して旅って大丈夫? もしかして上司に言いづらいの?」
「いえ。ご心配には及びません。彼女は誰の物にもなりませんから」
「へー。大層な自信じゃん。愛されているねー」
と、言えばあいつは微笑んだ。
このリア充め! いいよ、私だって今度イケメン王子様捕まえてのろけてやる!
でもその前に聞かねばならぬ事があった。
「ちょっと、どうやって出会ったの? 幼馴染みとか? 今後参考にするから教えて」
「え? 参考ですか……? なりますかねぇ。ただ運命の出会いがあったんですよ。そこで僕が一目惚れしちゃったんです」
「そこ大事でしょ? 運命の出会いって何処に転がっているの? ねぇ!」
「目が血走って怖いですよ……神子様。どうしてそんなに食らいついて……」
「当然でしょ。詳しく!」
「詳しくとおっしゃられても……仲間……いや、仲間だったが正しいのでしょうか? 彼らと共に旅をしていたのですが、その時に出会ったんです」
「旅か……」
ならばこの先の私達の出会いでも、出会う可能性が大だな。
いろんな国々に行き、いろんな人出会うだろうから。
よし、女子力も上げて行こう! とやる気に満ちた私だったが、それはどうやら周りも同じだったらしい。
「なんかやる気出て来た。キィに彼女ができたなら、俺にだって!」
「そうだ、俺にも!」
とロンドとフォルスも盛り上がっていた。