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本日は雨天なり
「あ、雨」
隣で呟いた彼女の声に僕は窓を見た。
ざあざあと大きな音と共にバケツを返した様な雨粒が灰色のビル群に襲いかかる。
「じゃあ、私行くね」
「…うん、わかった」
僕は彼女を見ずに言った。
玄関のドアがガチャンと冷たい音を立てて閉まり、カツカツとヒールの甲高い足音が遠ざかっていく。
5年一緒だった。
一緒に買いに行った色違いのマグカップには一口もつけられていない紅茶が残されている。
茶葉は彼女の大好きなメーカーのダージリンだ。
紅茶に小うるさい彼女はいつでも自分で入れていた。
暮らし始めの頃、僕は茶葉の違いも味もわからなかったので、入れる度にああでもないこうでもないと手を出されては叱られて、何度も入れ直しをした。
僕はゆっくりと窓から部屋へと目を移した。
さっきまでと変わらない。
テーブルにおかれたマグカップ、整頓されたキッチン、埃一つないテレビ。
そして、空っぽになった彼女の本棚、消えたベッド、主人のいない、空っぽの部屋。
僕は窓越しに空を見上げた。
雨は当分止まない。