変態変
ツイッターで会話してたら「イケメンの汗ってキラキラ輝いてますねきっと」ってことで書いてみました。
「ここにイケメンが流した汗を集めたコップと、デブが流した汗を集めたコップがあるわ」
私は友達の前に二つのコップを差し出した。
友達はマジマジとそのコップを見つめている。
食卓に面と向かって座った私と友達。明るい木目のテーブルに並ぶ透明なコップ。その中には透明な液体――汗がとろんと入っている。
日頃からイケメンとの生活を妄想して体をくねらせ、イケメンはトイレに入らない。お風呂に一緒に入って体に付いた汚れを舌で丁寧に舐めとってあげたい。と、恥ずかしげもなく言ってるような変態、もとい友達だ。間違いなくこのゲームに乗ってくる。
そう、これはゲームだ。
「そしてこれが、この二人の写真」
更に写真を取り出して並べる。
一人は友達が好きな若手イケメン俳優の写真だ。
従姉妹の高校生が同じ学校だったから、頼み込んで採取させてもらった。もちろん採取は私が。従姉妹の子にイケメンの汗の採取なんてさせられないわよね。こんな変態なこと。一昨日のことだったけど、とても良い体臭がしたわ。イケメンは汗もキラキラ輝いているものなのね。
イケメン君は笑顔が魅力的と売り出されているにしては、青ざめて引きつった顔しかしていなかった。調子が悪かったみたい。そんな時なのに悪いことしちゃったわ。今度菓子折りでも送ろうかしら。
もう一人は私の知人のデブの写真。
私のためにと喜んで汗を流して、それを採取させてもらった。昨日のことだったけど、いくらシャワーで流してもこびりついた体臭が取れない気がするわ。ほんと、内臓脂肪の肉肉しさがうなりを上げて襲ってくるみたいだった。いつもにへらにへらしてる顔が更に丸まって豚饅頭みたいだった。
友達はマジマジとそのコップを見つめている。
どうやら自分が何をさせられようとしているか気付いたみたい。私も別に隠そうとはしてないけれど。
「というわけで、あなたにはどっちのコップの汗がイケメンかをテイスティングしてもらいます」
テイスティング。香りを楽しみ、飲んで舌の上で転がして、飲み干す。そうしてどっちの汗がイケメンのものか当ててもらう。見事当たった暁にはイケメンの汗を飲み干すことができる。
鼻の奥から喉の中。更には胃袋。その先にある器官まで。
自分の中にイケメンから排出された汁が広がっていく。それはもはやイケメンと一心同体になったも同然。むしろ自分がイケメンになる感覚だろう。想像するだけで涎が出てきちゃった。
マジマジとコップを見つめている友達に対して、さあ、とコップを勧める。
「さあ、どうぞー」
どちらも少しとろっとした感じで匂いも私には嗅ぎ分けできない。でも、この友達ならきっとできるはず。期待を込めた眼差しを向けてみたら、テーブルに座って初めて口を開いた。
「どうして、いきなり、日曜の、朝九時から、呼び出された挙句に、こんなことさせられるの? 私、なんか悪いことしたっけ?」
何が気に入らないのか、一言一言状況を強調して言ってくる。でも、不安げな視線は本当に怖がってるみたい。妙な誤解されても困るし、ちゃんと言う。
「ほら。前に『お風呂に一緒に入って体に付いた汚れを舌で丁寧に舐めとってあげたい』とか言ってたじゃない。そんなにイケメンの汚れが好きなんだから、汗を舐めただけでイケメンを見分けられるんじゃないかなと、ふと考えたのよ。考えちゃったらもう確かめるしかないなって」
やっぱり自信がないからかしら。汗を取らせてと頼んだ時のイケメンの子の顔にどこか似てる。私の目に狂いはないと思うんだけど。
友達はため息を付いたら立ち上がって、コートを着込んでから部屋を出ていこうとした。どうしたのと尋ねようと口を開く前に、きりっと睨まれて言われた。
「汗飲めとか、変態すぎ。もう少し自分の言動考えたほうが良いよ」
汗飲めとか。
変態すぎ。
言動を。
考えろ。
変態が私に変態と言って部屋から出ていく。あまりにもさらっと出ていかれてしまい、追いかけるタイミングも逃してしまった。
「こりゃ……大変だ……」
とても酷いことを言われた気がするし、大事なものを失ったような気もする。
慌てていないはずだけど、頭が回らない。やることを順序立てて、せいり、しなければ。
とりあえず目の前にあるコップの中身を飲み干す。イケメンのほうを。
「……不味い。もう一杯」
もう一つ。デブのほうを飲み干す。
「……こっちのほうが美味しい」
ほっと一息つくと頭の中に散らばっていたものが整理されていく。手に持ったコップ。いなくなった友達。イケメン。デブ。
立ち上がってコートを手に取って、家を出る。
やることは決まった。
「あのデブはもう起きてるかな?」
口で言ってるだけの人。無自覚の人。いろいろいますよね。




