兄弟じゃなくても、血もつながってなくても、ずっとずっと、大切な家族
倒れたフミヤ。3人のその先は、永遠の別れか、永遠の絆か?
敏也が、旅立ってから2ヶ月たった。
相変わらず、フミヤの家には笑い声が絶えなかった。
それもそのはずだ、敏也は、休みの日になると、必ず家に帰って来ていた。
毎週、子供の事を自慢する敏也を見て、2人は嬉しそうな顔をしていた。
ある日、フミヤが仕事を終え、家に帰ろうとすると、ケータイが鳴った。
着信:敏也
「もしもし?」
「フミヤ?仕事終わったか?今から、少し会わないかな?」
「うん。いいよ」
30分後、フミヤと敏也は会った。
近くのコンビニの駐車場で車を止め、話をした。
「どう?順調なの?」
と、フミヤが聞くと
「順調だけどさ…子供がね」
と、寂しそうに言った。「子供さ、来月に産まれる予定なんだ。でも、もしかしたら早産になるかもしれないって。
早く産まれると、その分危険があって、障害持ったり、最悪な場合、死産とかなるらしい…
まだ産まれてないのに…小さい命で一生懸命に生きようとしてるのに…
俺、何も出来なくて…」
そう言って、にぎり拳を作り、強く握った。
しばらく、黙ってるとフミヤは優しく
「運命を信じたら、どう?」
と言って、敏也を見た。
「運命?」
すこし 泣き声でくり返した。
「そう、敏也の子供は、元気に産まれて来る運命。そう信じれば、元気に産まれて来るよ。」
敏也は、下を向き静かに聞いていた。
突然、フミヤは上を向き
「信じれば、運命も変えられる。byフミヤ君」
そう言った。
「何?それ」
急な事で敏也は、笑いながら聞いた。
「今、考えた。敏也の子供は、きっと元気に産まれてくる。敏也に似て元気に育つ。なんせ、敏也の子供だからね。しぶといよ。きっと」
今までの不安が消されたかのように、敏也は笑い、
「しぶといって…人を化け物扱いしやがって」
と言って、2人は大笑いをした。
それから、1ヶ月ぐらい経って、敏也は奥さんにつきっきりで、フミヤの家になかなか、行けなかった。
その日、フミヤは朝から出かける準備をしていた。
「フミヤ〜夕方には帰って来るんでしょ?」
「うん。買い物して、すぐに帰って来るよ。」
フミヤは、敏也の産まれてくる子供の為に、色々と買う予定だった。
玄関へ向かう時、突然、めまいがして壁に勢いよく手をつけた。
「フミヤ、大丈夫?」
すがのは、心配そうに聞いた。
「大丈夫。昨日、飲み過ぎたかな?少し気分が悪い。でも平気」
と、Vサインを送った。
「じゃあ、行ってきま〜す」
と、いつものように明るく、子供っぽく出掛けた。
その頃、敏也は病院にいた。奥さんが陣痛が来て、産まれる所だった。
廊下を行ったり来たりしながら、ずっと、頭の中でフミヤに言われた言葉をくり返した。
(信じれば運命も変えられる。信じれば運命も変えられる。)
祈るように、くり返した。
気が付けば、もう夕方五時になっていた。
まだ落ち着かず、廊下を歩いていた。
ふと、上を向いた瞬間、元気な産声が聞こえて来た。
「よっしゃ〜」
と、敏也はガッツポーズを取った。
一方、フミヤは買い物を終え、1人街にいた。
「そろそろ、帰ろっかな」
と、荷物を抱え、歩いた時ケータイが鳴った。
着信:敏也
(もしかして…)と思い、急いで取ると、元気な声がした。
「フミヤ〜フミヤ〜」
と、ずっと名前を呼び続け笑ってた。
「何?何?」
フミヤは、分かってたが、わざと聞いた。
「え〜、西城敏也、二人目産まれました〜!」
と、言うと2人同時に、
「ばんざ〜い」
と喜んだ。
「マジ、おめでとう。こっちも嬉しい」
と、フミヤは心から喜んだ。
「ありがとう。元気な男の子。この分だと健康な体だって」
また、2人は
「ばんざ〜い」
と言って喜んだ。
「今から、フミヤの家に行って来るよ。すがのに報告してくる」
と、敏也とフミヤは家で会う約束をして電話を切った。
嬉しそうな顔で、ケータイを見つめてるフミヤ。
急に、意識がなくなり、フミヤは道路の真ん中で倒れた。
風が冷たい道で、1人倒れ、その周りはみるみるうちに人が集まって来た。敏也は、職場のしょうこさんからの連絡を受け、すがのと一緒に病院に行った。
病室には、しょうこさんと町田さんがいた。隣には見知らぬ女性が立っていた。
「フミヤは?」
と、聞くと、しょうこさんがベットを差し
「眠ってるよ」
と、微笑みながら言った。女性の方が、敏也達に近づき、軽く頭を下げ
「すがのさんと敏也さんね?フミヤの姉です。少しいいかな?」
と言って、2人を廊下へ連れて行った。しばらく、沈黙が続き、フミヤの姉が口を開いた。
「急性白血病っていうみたい。」
ショックだった。2人は、膝の上で強くにぎり拳を作った。
「あの子さ、小さい頃に両親を無くして、叔母の所に私と引き取られたの。
叔母は厳しい人でね、フミヤは泣く事さえ許されなかったの。(泣く子は、嫌いだ。人を不幸にする)って言われてさ、まだ小さいフミヤには厳しい言葉だった。
それから、フミヤは泣く事を止めて笑い続けた。人に甘える事もしなかった。
でも、いつしかさ、笑顔すら出さなかった。きっと疲れていたんだね。
…去年さ、久しぶりにフミヤと会ったの。そしたら笑ってた。その時に、君たちの話を聞いたよ。会うたんびに、君たちの話をしてさ、幸せそうだった。半分嬉しくて、半分ヤキモチ妬いてた。どんなに頑張っても笑わなかったフミヤが、人と暮らすだけで笑えるようになってさ。人に甘えて幸せに生きて良かった。本当にありがとう 」
そう、フミヤの姉は言って、2人を見た。
すがのと敏也に熱いものが込み上げて、その瞬間涙が止めどなく溢れ出した。
(俺達が幸せをもらってるのに…バカだ)
涙を流しながら、敏也は思った。
「私、これからフミヤのために、ドナーを探そうと思うの。その間、家族として、フミヤをまかせてもいいかな?」
敏也とすがのは、涙を拭き、
「まかせてください」
と強く言った。
何度も助けてくれたフミヤ。今度は2人で守る。もう、泣かないって、2人は心の中で自分自身と約束した。
それからしばらくして、フミヤは感染症を起こさないように無菌室に移された。敏也とすがのは、毎日のように病室に訪れてた。
普通に喋って、普通に笑って、涙は、フミヤの前では流さないようにしていた。
フミヤの入院生活は、思った以上に厳しかった。
毎日、いろんな薬と点滴で、フミヤも嫌気が差して、食事もろくに取らなかった。
「また、残すの?」
すがのが、心配そうな声で聞くと、下を向き、ゆっくりとうなずいた。
「全部食べないと、体力つかないよ」
「だって、俺の嫌いな物ばっかりだもん。たまには、カレーとハンバーグが食べたいよ」
また、いつもの子供のワガママが始まった。
ハァ〜と、大きくため息をつき、食事を片付け始めた。
(きっと、これ以上何を言っても、同じ事の繰り返しだ)そう思いつつ、気にかけていた。
ベットで、つまらなさそうに、天井を見ながら、フミヤは
「あ〜あ、いつになったら外に出て遊んだり、敏也の子供を見に行ったり出来るかな?」
とグチをこぼした。すがのは、ドクンと胸が高鳴りつつ、
「もう少しの辛抱だよ」
と言い聞かせた。
「うん」
と、フミヤは笑って見せた。
それから、何日が過ぎ、敏也とすがのはお互いに忙しい日々を送ってた。
すがのは、朝も夜もバイトをし、少しでも入院費を手助けしようとしていた。
敏也も、産まれた子供や奥さんのために、病院に行く事もあるがフミヤの所に顔は出さなかった。
さらに、一週間が過ぎ、久々にフミヤの所へ敏也とすがのは行った。
沢山のお菓子やマンガを持って、いつものようにガウンとマスクに着替え、病室に入ると、2人は一瞬時が止まったかのように思えた。
「あっ久しぶり〜!」
いつもの笑顔。いつものフミヤがいた。だが、頭には毛糸の帽子。2人は何があったのか気付いた。
「ん?あっこれ?似合う?初めてはげちゃった」
あまりに明るい声だった。
「似合うよ」
と言って、フミヤに近づいた。
フミヤは、薬の副作用のせいで髪が抜けていた。
また、久しぶりに見るフミヤは、少し青白く、小さな体がさらに小さく見えるほど痩せていた。
薬のせいだろうか、病気だから?
2人は、拳をにぎりしめながら、精一杯笑った。
ベットの横にあるイスに座り、改めてフミヤを見ると、目が腫れて目の周りはキラキラと少し光ってた。
(泣いていたんだ。)そう思うと、ますます涙が出そうになり、敏也は思わず
「ゴメン。トイレに行ってくる。」
そう言って病室を出た。
「私も、洗濯して来るね」
すがのも出た。
2人で病室の外からフミヤを見つめ、
「何で、強いかな?」
敏也は、つぶやくように言った。
しばらくして、また2人で戻った。
今度は明るく、
「ただいま〜」なんて、冗談を言って入った。
フミヤはベットに眠りながら、
「家じゃないんだから〜」
と笑ってた。
そして、3人は意味のない世間話をして楽しい時間を過ごした。
急にフミヤは、パッと起き上がり、2人を見つめ優しく微笑んだ。
「ねぇ、オレさあ、二人にお願いがある」
「何?」
と言って、2人はフミヤに近づいた。
少し、下を向き話し出した。
「俺…死ぬ時、二人の所で死なせてね」
病室が一気に静かになった。風の音が3人を包み、すがのと敏也は何を聞いたのか分からなかった。
「…バカ。急に何を…」
すがのの言葉をかき消すように、フミヤはしゃべり出した。
「俺、知ってるよ。病気の名前、白血病でしょ?
テレビや本で聞いた事がある。でも、辛くないよ。敏也もすがのも今、幸せだし、それだけで悔いはない。
二人の笑顔が好きだし、2人が幸せなら俺も幸せだしさ。
だからせめて、2人の所で笑って死にたい」
笑顔なのに、その手は強く布団をにぎり締めていた。
(何で、笑えるの?何で辛くないなんて言えるの?)
そう考えると、すがのの目から涙がこぼれた。
「あっ!ゴメンゴメン。急だよね?泣かないでよ。ほらほら」
そう言いながら、フミヤは変な顔をして、笑わそうとした。しかし、すがのの涙は止まらなかった。敏也は、そっと、フミヤの頭に手を乗せゆっくり笑うと、抱き寄せた。
「フミヤ、人ってさ、二種類の人間がいると思う」
「ん?」
不思議そうに敏也の話を聞いた。
「人はさ、幸せをあげる人と幸せをもらう人がいるの。
フミヤは、俺やすがのに沢山幸せをあげたよ。それだけじゃない、俺の子供や奥さん。フミヤのお姉さんにも幸せをあげたんだよ。
今度はさ、逆になろうよ。フミヤがあげた幸せの分、俺達が幸せをあげるから、笑わしてあげるからさ。
もう、強がんなよ」
涙が溢れ出しそうになりながら、ゆっくり言った。「フミヤ」
すがのも、敏也とフミヤを包み込むように抱きしめた。
「そうだよ!これから、沢山幸せになるんだからさ、甘えていいんだよ。辛いときは叫んで、苦しい時は泣いて、助けを求めていいんだよ。死ぬなんて言わないでよ。」
2人の話を聞きながら、フミヤの肩はわずかに震えていた。
「また、約束しようよ。辛いときは甘えて、苦しい時はたすけてもらう。そうしながら、一緒に生きていこうよ。もう、死ぬなんて言わないでさ。
俺は、すがのとフミヤがいるから生きれる」
そう言って、敏也は2人の前に小指を出した。
「私は、フミヤと敏也がいるから生きれる」
そう、すがのが続き、次に、フミヤが小指を出し、
「俺、本当は辛かった。このまま病院にるのかな?と思うと寂しかった。
毎日、寝る時に、明日も生きれるかな?って不安だった。けど、2人と笑っていたかったから、強くならなきゃって思ってた。
甘えたら、弱音吐いたらダメになりそうだったから…
でも、今から甘えてもいいの?」
敏也とすがのは、フミヤの小指に自分達の小指を絡ませ、
「愛してるぜ」
と、声をそろえ、フミヤへ笑ってみせた。
その瞬間、フミヤは何かが切れたかのように泣いた。
大切な家族との合い言葉で幸せを感じながら、泣き続けた。
それからというもの、フミヤは食事もちゃんと取り、病気とは思えないほど元気だった。
久しぶりにフミヤの病室には姉がいた。
「何か変わった事はない?」
少し心配そうな声で聞きながら、フミヤの洋服をたたみ込んでる、姉に、笑いながら
「何もないよ」
ずっと読んでた本を閉じた。
「それ、おもしろいの?」
本を見ると、題名に[願い]ってあった。
「うん。小学生の本だけどさ、願いが叶うなら何でも頑張るって話なんだ
あ〜俺の願いも叶わないかな?」
そう言うと、窓の外を見た。そとは、風が吹いていて、少し暖かく、いつもならはしゃいで遊んでるフミヤだが、今は、一歩も出られなかった。
「へ〜、フミヤにも願いがあるんだ」
フミヤをからかうように、フミヤの姉は言った。
「あるよ。でも今は無理だね。外に出られないもん」
すねた顔をして、うつむき始めた。
「願いは何?」
「ん〜とね、もう一度海に行きたい。敏也とすがのと3人で。初めて行った海でバーベキューしたり花火したりさ。夜まで騒いでさ。楽しそうだな」
フミヤの姉は、フミヤの頭をポンポン軽く叩くと、
「頑張って治そうね」
と、笑いかけた。病室の外では、敏也とすがのが、その話を聞いていた。
「海か〜。一回だけだったもんな遊んだ事。もう一回は、ケンカしていたし」
「うん。連れて行きたいね。元気になるかもしれないしさ。」
しばらく考えると、敏也は急に
「よし、行こうよ。フミヤの主治医に頼んで来る。」
そう言うと、主治医のもとへ走った。
フミヤの主治医の部屋に着くと、深呼吸をしノックした。
「どうぞ」
ドアの奥から返事がすると、ゆっくりドアを開けた。
「おっ!君は、フミヤ君の友達じゃないか。どうしたんだ?」
そう言うと、医者はそばにあったイスに、こしかけるよう手を指した。
「あの、お願いがあるんですが…」
恐る恐る聞いてみると、
「ん?」
と、優しそうな顔で敏也を見た。
「あの…フミヤを1日だけ外出させてほしいんです。あいつ、海に行きたがっているんです」
しばらく、医者は黙り厳しい表情になると、
「ダメだ」
と言った。
「君達がフミヤ君の事を思ってるのは、よくわかった。だが、私は医者だ。患者にとって、何が危険なのか分かる。」
敏也は、無我夢中で頭を下げた。
「お願いします。フミヤの願いなんです」
「ダメだ。万が一病状が悪化したら、大変な事になるんだぞ!」
次に敏也は、土下座をして、頭を床につけた。
それを見た医者は、敏也の肩に手を置き、
「君は、すばらしい子だ。友達のために、そこまでするなんて…
しかし、ダメだ。フミヤ君は、日に日に悪化している。この分だと、いつ亡くなるかわからない。それでも、全力でやるつもりだ。外出は今は無理だ」
少し厳しく、敏也に言った。
床には、敏也の涙がいっぱい落ちていた。
「フミヤは…死なない」
「でもな…」
医者の言葉を割るように、強く叫んだ。
「信じれば、運命も変えられる。…そう、フミヤが教えてくれたんです。
フミヤが、助からない事はわかってます。でも、あいつとまだ生きたいんです。…俺の…俺の大切な家族なんです。お願いします」
また、深く頭を下げた。
医者はゆっくりと、窓の前に立ち、
「フミヤ君は、不思議な力を持ってる。私も、いろんな事を学んだ。[信じれば、運命も変えられる]か…」
また、敏也の前に行き、敏也の肩に手をおくと
「わかった。一週間後の日曜日だけだぞ。ただし、危なくなったら病院に連れて来る事」
敏也は、涙を拭って笑顔で
「はい!」
と言うと、真っ先に部屋を出た。
一方、フミヤの病室には姉に変わり、すがのが付き添っていた。
フミヤは、すがのが来たのも分からず眠っていた。
洗濯ものを洗いに行こうとした時、
「すがの?」
フミヤが目を覚ました。
「起きちゃった?」
と聞きながら、フミヤに布団をかけ直した。
「うん。あっ…今ね〜夢を見たよ。すがのと敏也もいた。
海でね、敏也と敏也の子供と、俺と、すがのと、すがのの子供もいた。」
「そっか」
そう言うと、洗濯しにドアに近づくと、
「すがのの子供、可愛かったよ。男の子でさ。だから、すがの元気な子供産んでね。絶対に産まれるよ」
笑顔で話してるフミヤに
「はいはい」
と、そっけなく言ってドアを閉めた。
ドアの前で、ふみやの言葉が込み上げて来て、すがのは泣き崩れた。
そして、精一杯声を出し
「誰か…お願い…フミヤを助けてください…お願い…」
すがのの願いだけ、静かな廊下に響いた。
外出許可を、敏也から聞いたフミヤは、一週間頑張った。
苦い薬も飲み、食事も全部食べた。
病気という事は、3人は忘れていた。
そして、当日、朝からすがのと敏也は、バーベキューの準備などして忙しかった。
昼になり、フミヤを迎えに行くと、元気なフミヤが待っていた。
「どう?体調は?」
「全然平気。」
そう言って、Vサインをした。
「よし、じゃあ行くか?」
3人は、車に乗り目的地へ行った。
しばらくして、見慣れた町が見えてきた。
車内では、フミヤがはしゃいだり、敏也がクネクネと車を運転したりして、いつものうるさい3人に戻ってた。
そして、目的地の海に着き、3人は
「せ〜の」
と言って、同時に外へ出た。
誰もいなく、風が冷たく波の音だけが聞こえた。
「着いた〜」
そう言って、走り出すフミヤ。砂浜の途中で急にしゃがみ込んだ。
驚いて、2人はフミヤに駆け込み、
「大丈夫か?」
と覗きこんだ。
「うっそ〜」
って言って、砂をすがのと敏也に投げ出した。
砂まみれになりながら、2人はフミヤをつかみ、くすぐり始めて3人で笑いころげた。
バーベキューをして、ボールで遊んで、いつの間にか、薄暗くなった。
花火を始めていると、フミヤが
「少し、休憩」
と言って、近くの石にもたれるように座った。
最後に、とっておきの花火を点火しようとすると、フミヤが突然
「すがの、敏也、ありがとう。愛してるぜ」
と言って、小指を出した。
それに答えて、すがのと敏也も小指を出し
「愛してるぜ」
と言った。
花火に火をつけると、3人で見ていた。フミヤは、ゆっくり目をつぶり、
「愛してるぜ」
とつぶやいた。
花火が消えると同時に、敏也のケータイが鳴った。
フミヤの姉だ。
「もしもし?」
「敏也君?見つかったのよ。ドナーが!フミヤ助かるのよ」
少し、泣き声で大きな声が、すがのと敏也に聞こえた。
笑顔でフミヤを見ると、うっすら笑みを浮かべたまま、眠ってるフミヤがいた。すぐに、近づき名前を呼び続けても、体を抱きしめても、フミヤは二度と目を開ける事はなかった…
フミヤの葬儀は静かに行われた。
敏也は、一人火葬場の外で、今焼かれたフミヤの煙を見ていた。
「敏也」
振り返ると、目を真っ赤にしたすがのがいた。
「こんなに言ったら変だけどさ、キレイだね」
「うん。きっとフミヤは、幸せな天使になったんだね。
人に幸せをあげて、使命を果たして帰ったんだね」
2人は、じっと涙をこらえて、フミヤの最後を見ていた。
「敏也君、すがのさん」
フミヤの姉が、そっと2人を呼んだ。
ポケットから、二つの封筒を取り出すと、一つを2人に渡した。
「これ、フミヤからの手紙。あの子、ずっと病室に隠してたみたい。
さっき、フミヤの主治医から預かって来たの。」
敏也は、中身を開けゆっくり読み出した。
「すがのと敏也へ
急に手紙出してゴメンね。この手紙を2人が読んでる頃は、俺はいないと思う。
だから形にしておきたかった。
初めて、3人で行った海。何か、初めて行ったのにさ、ずっと前から知ってるような気がしたよ。
そして、ケンカをした誕生日。
敏也が頑固だなんて、正直驚いた。海ではしゃいでいる、すがのと敏也。バカみたいで、おもしろかった〜。それからさ、いっぱい楽しい思いをして、本当に幸せだった。敏也が、前に言った(人間には、幸せをあげる人、幸せをもらう人がいる)って言葉。嬉しかった。こんな俺でも、幸せを一緒に感じてくれる人がいるんだなってさ。
一緒に、笑って泣いて、ケンカして、また笑って…家族っていいなって思った!もしまた生まれ変わっても、2人と出会ってみせるよ。
だからさ、お願い…ずっと笑ってね。辛い時には甘えてね。それが俺の、本当の願いだよ。
俺は、すがのと敏也がいるから生きられる。
すがの〜敏也〜、世界で一番、愛してるぜ
フミヤ」
ほんの少しの手紙だけど、2人は嬉しかった。
また、一生懸命に書いたんだと思うと、今までガマンしていた涙が、一気に溢れ出した。
そして、もう一つの封筒を開けると、二つのペンダントが入ってた。
小さな石が入ってて、裏には、
「My family Sugano&Toshiya-Fumiya」
と刻まれていた。
そっと握りしめ、2人は声を出し泣き続けた。
もう一つの家族の死。あまりにも、悲しくて辛くて、そしてキレイで、泣き続けた。三年後、現在。
また、こうして話をしている敏也とすがの。
すがののケータイが急に鳴った。
「もしも〜し、うん。今喋ってる。うん。じゃあ出てくるね。」
時計を見ると、夕方になっていた。
「ゴメンね。もっと話たかったけど、うちの人が迎えに来てるの」
「うん。また今度、ゆっくりと会おうね。家族みんなでさ」
そう言いながら、2人は喫茶店を出た。軽く握手をすると、敏也は車へと歩いた。
小さな子供を抱いた、同じぐらいの人と、すれ違うと、そっと後ろを振り向いた。
その子供を抱きながら、すがのは
「フミヤ〜、いい子にしてた?」
と、幸せそうな顔で見ていた。
それから、1ヶ月。敏也は、家族4人で、夜の海に来ていた。
目の前には、愛する妻と可愛い子供がいる。自然と敏也は笑顔になってた。
「お父さ〜ん。見てみて、お月さんだよ。まん丸だね」
そっと、空を見ると、いつか見た満月と同じように月が出ていた。
「お父さんも、リュウの事好き?」
何気なく、リュウは聞いた。
「好きだよ。」
敏也はリュウを抱えながら言った。
「じゃあ、お姉ちゃんも、ママもみんなも?」
そうリュウが聞くと、そっと、小指をだし月に向けて、叫んだ。
「めっちゃ、愛してるぜ〜」