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絆の証と生きる理由

3人暮らしが始まって、笑いが絶えない家!

しかし、別れは必ず来る。それは、幸せな事か?それとも…

再会した敏也とすがのは、まだ喫茶店にいた。

タバコに火を付けながら、すがのは

「へ〜懐かしいね」

と言った。

「あの日から、もう三年になるんだね。早いね」

2人は、コーヒーのお代わりを頼み、またフミヤの事をしゃべり出した。

「すがのも、初めはフミヤの所にいなかったんだよね?」

「うん。でも、気づくと一緒に暮らしてた。不思議とさ、一緒が当たり前に思えたんだよね。フミヤがいなかったら、この子も私も今頃いなかったと思う」

そう言うと、子供の写真を見つめた。

すがのとフミヤは、偶然に道で再会した。

その頃のすがのは、荒れていた。毎日酒を飲んだり、男と遊んでは金をもらったり、寝る場所は毎日変わっていた。

そんなときに、道でフミヤと再会し、昔と変わらない姿を見て懐かしさのあまり、よく家に遊びに来ていた。

「フミヤ〜明日さ、男連れ込んでいい?」

「えっ?」

ふみやは耳を疑った。

「友達が来るの?」

そう聞くと、すがのは化粧をしながら、鏡ごしに

「ダメならいいけどさ、ホテルにでも行くし」

と言った

フミヤは、ハッと何かを思い出し、すがのの肩をつかみ

「何でもするよ。辛い事があるなら全部変わってあげるからさ。だから、エンコーだけはダメだよ」

と心配そうに言った。

すがのは、口を開け、その様子に驚いた。同時に、いつも子供みたいにはしゃいでる、フミヤの顔とは違うもので何だか、おかしくて笑い出した。

「はいはい、わかったよ。エンコーなんかしてません。単なる遊びだよ」

と、フミヤの頭をなでながら言った。

フミヤ安心した顔に戻り、

「そっか〜よかった。でも一人で考えないでね。いつでもここに来てね」

と、心配な顔に変わり、すがのを見た。

すがのは、

「うん」

と言うと、立ち上がり

「やっぱ行って来るよ」

と言い、玄関に向かった。

「うん。わかった。行ってらっしゃーい。」

と、手を振りながら、すがのを送った。

玄関のドアを閉めると同時に、すがのの目から涙が落ちた。

すがのにとっては久し振りだった。

こんな事していたら、たいていの人は、怒るか、軽蔑の目で見ていたのに…

フミヤは、

「ひとりじゃない」

って言ってくれた。

「行ってらっしゃーい」

すがのの頭の中で、この言葉が繰り返される。

すがのは一人の男性と会うと、ホテルへ向かった。

ホテルに入ろうとすると、何かが引き止めて入れない。

「どうしたの?中に入ろうよ」

(このままでいいのかな?)と考えた。

しばらく立ちつくすと、男の手を払い、

「やっぱいいや。ごめんなさい。もう帰る場所見つけたから帰らなきゃ」

と言って、ホテルを離れた。

男は

「何だよ。」

と言って立ち尽くしていた。

すがのはすぐに、タクシーに乗り、フミヤの家へと向かった。

ゆっくりドアを開けると、台所にフミヤが立っていた。

「あっ!おかえり〜。早かったね。見てみて、今日はカレーだよ。フミヤ特製の牛肉入りカレーで〜す」

と言って、カレーの箱を見せた。

すがのは笑いながら、

「ただいま」

と言った。

そして、2人で準備してから、カレーを食べた。

急に、すがのは食べていたスプーンを置き、

「フミヤ、ありがとうね。私ヤケになっていた」

フミヤは、口いっぱいにカレーを含みながら

「ん?」

と首を傾げていた。

すがのは、ゆっくり口を開いた

「私さ、高校の頃に病気になったの。

その時に、卵巣を一つ取って、子供が出来ないかもって言われたんだ。

初めは、ショックで、毎日何も考えられなくて、気付けば色んな男と寝ていた。それでも出来なくて、どんどん、それが当たり前だとおもいようになったんだ。でも、心の中でさ、一生子供は出来なくて、結婚も出来なくて、ずっと一人ぼっちだと思ってた。死にたいって思ってたんだ。

でも、フミヤがいたから、一人じゃないって気付いた。

だから、もう少し強くなるまで、ここにいていいかな?」

涙ながらにすがのは言った。ふと、フミヤを見ると、カレーがのどに詰まったのか、水を勢いよく飲んでいた。

すがのが

「聞いていたの?」

と聞くと、

「ふぅ〜、死ぬかと思った」

と、またカレーを一口食べると、

「じゃあさ、俺が、すがのの子供になるよ」

と言って、スプーンをすがのへ向けた。

「は?」

あまりにも突然の事で(この子は、本当に話を聞いていたの?答えになってないじゃん)

「あの、普通は、そんな時は、俺がいるよとか、俺が守るとか言うんじゃない?男としてさ」

拍子抜けしたすがのは、カレーを食べ始めた。

(まったく、本当に子供なんだから)

フミヤは、それでも微笑みながら

「だって、子供だったらさ、甘えられるし、すがのを笑わしたり出来るじゃん?一緒に住むんだし、家族になるわけだしさ」

口にカレーをいっぱい付けながら、すがのを見た。

ティッシュを取り、フミヤの口を拭いてあげると、すがのは

「そうだね。フミヤをほうっておけないしね」

と言って笑った。

「よし、じゃあ、すがのに子供が出来るまで、いっぱい甘えて、いっぱい笑わそうっと。あっ!オモチャやお菓子も買ってね。」

フミヤがそう言うと、2人で見つめ合い笑い合った。

すがのは、笑いながら、目にたまった涙を拭きながら、(ありがとう)と心の中でつぶやいた。フミヤとすがのと敏也が一緒に暮らし始めて、一カ月。

もう、誰もが見ても仲の良い三人になっていた。

カラオケに行っては騒ぎ、ボーリングに行って、家事の分担を決めたり、プリクラを取ったりして、毎日にぎやかだった。

3人で寝る時も川の字になって、一人が寝るまで色んな話をしていた。

「ねえ、次の土曜日さ、次の日、俺も敏也も休みだし、朝まで遊んでいようよ」

フミヤは天井を見ながら2人に言った。

「土曜日?何で?まっ用がなかったらいいけどさ」

敏也は、フミヤを見ながら言った。

「土曜日、約束ね」

と言うと、フミヤはすぐに寝息を立てた。

2人は、土曜日が何の日か知っていた。でも、フミヤには内緒で知らないフリをしていた。

土曜日はフミヤの誕生日だ。3人とも楽しみだった。

けど、楽しみというものは急にダメになるものだ。

朝、敏也は電話が鳴って起きた。

地元の友達からだ。友達が結成してるバンドのライブがあるので、手伝いしに来て欲しいとの事だ。その日が、フミヤの誕生日だ。

初めは断ったが、どうしてもという事で、しぶしぶ承諾した。

すがのに、説明してフミヤには内緒にした。そして、金曜の夜。敏也は次の日の準備をしていた。明日は、仕事が終わってすぐに、ライブハウスへ行かなきゃならなかった。

フミヤは、その様子を見て、不安を抱き

「敏也、明日の約束覚えているよね?」

と聞いた。

敏也は、ギクッとして、フミヤを恐る恐る見た。

少し、泣きそうな顔をしながら、敏也を見つめるフミヤを見て、胸が苦しかったけど意を決して言った。

「ごめん。明日さ、大事な用があるから無理になった」

フミヤは、眉間にまゆをよせて、下を向いている。

すがのも実は、最近始めた、夜の仕事が入っていて、それをフミヤへ言った。

しばらく、重い空気が流れ、フミヤがつぶやくように喋った。

「どうせ、こんなだと思った。俺の約束なんか全然頭になかったんでしょう。どうせ、俺より、しょうもない用が大事なんでしょ?」

いつもは、笑ってばかりのフミヤが、怒ってるのは初めて見た。

けど、敏也はムッとして、少しきつい口調になった。

「しょうがないだろ。こっちだって忙しいんだからさ。毎日毎日、一緒ってわけには行かないじゃん。ったく、いつまでも子供じゃないんだから…少しは、大人になれよな」

フミヤは急に立ち上がると

「大人だって、明日ぐらいは一緒にいたいのに。じゃあもういいよ」

と言って、家を飛び出した。

すがのは、

「フミヤ」

と呼んだが、あっという間にいなくなった。

「ほっとけ、少しは大人にした方がいいよ。もう二十歳だぜ」

と、まだイライラが収まらず、カバンに荒々しく着替えを詰め込める敏也。

すがのはカレンダーをふと見て、花丸で囲んである土曜日を指でなぞりながら、

「本当に楽しみにしていたんだね」

と、つぶやいた。

ふと、手を止め、自分達がした事に後悔し始めた敏也は、下を向き黙ってた。

そして、一時間が過ぎた時、すがののケータイが鳴りだした。

着信:フミヤ

急いで取ると、フミヤじゃなくて、フミヤの友達だった

「あ〜もしもし?フミヤの友達のゆうきと言いますが、フミヤからの伝言で、しばらく帰らないとゆうことで〜す」

敏也が、すがのからケータイを取り上げ

「フミヤに代わってください」

と言うと、

「OK」

と言った。

「…もしもし?」

少し、小さな声でフミヤの声がした。

敏也は謝ろうとしたが、なかなか言えず黙ってた。

「何?今日から少し、ゆうきの所にいるから、用がないなら切るよ」

そう、ひねくれた声でフミヤが言うと、また敏也は怒った。

「おいっ!いつまで子供みたいにひねくれてんだ。そんななら、いつまでも、バカみたいに怒ってろ!」

怒鳴りつけると、すぐにケータイを切った。

(また、しまった)ハァ〜っと、ためいきを付きケータイを、すがのに渡した。すぐにまた、ケータイが鳴り、次は、すがのが喋った。でも、フミヤ代わらなかった。

「とにかく、少しの間泊まらせますんで、何かあったら連絡します」

ゆうきは優しい口調で言って、ケータイを切る。

敏也は、ハァ〜っとまた、ためいきを付き、またカバンに着替えを詰め込み始めた。

一方、ゆうきの家で、体育座りをして、ひねくれているフミヤは、

「どうせ、何とも思ってないよ」

と愚痴をこぼしてた。

「頭冷やしたら帰ってよ。ったく、意味が分からないよ。他人と住んでいて、本人が出てくるなんて。聞いた事がないね」

と、フミヤに説教じみに言うと、

「他人じゃないよ。家族だからムカつくんだ。」

フミヤは、そう言うと、ウトウトし始めて眠りについた。

「ったく、怒っても笑っても、まだ子供だから」

そう言いつつ、フミヤに布団をかぶせ、テレビを見始める、ゆうきだった。フミヤが出て行って、3時間が経った。11時を回り、敏也とすがのは、そろそろ寝ないと、明日仕事に行けないと思い、布団に入った。

いつもは、3人で寝ていて、真ん中にフミヤがいて、せまく感じるのに、今日は広く感じた。

し〜んと静まり返った部屋で、2人は眠れずにいた。

「静かだね」

と、すがのが言うと、

「うん」

と、そっけなく敏也は返した。

また静まった部屋で、敏也とすがのは、3人暮らし初のケンカを身にしみながら眠った。


次の日、フミヤと敏也は仕事で、イヤでも顔を会わした。

でも、一言も喋らなかった。

今日という日が長く感じた。

昼になり、フミヤと敏也は交代で休憩に入った。

フミヤが休憩し、次に敏也が入った。

休憩室に入ると、すぐにバイトの町田さんが入ってきた。

「おつかれ〜!今日、フミヤおとなしいね」

そう言うと、コップに麦茶を入れ始めた。

「そうですか?」

と、敏也が言うと、町田さんは、敏也の向かいに座り

「そういえば、今日フミヤの誕生日じゃないか?

あいつ、楽しみにしていたな。家族が祝ってくれるって」

敏也とフミヤが一緒に暮らしてるのは、内緒だった。

話せば、仕事がやりづらくなるからだ。もちろん、町田さんも知らない。

敏也は、テレビを見ながら、町田さんの話を聞いていた。

「せっかくさ、みんなで祝ってやるよって言ったのに、どうしても家族と過ごしたいからって断ってさ。

毎日毎日、あと何日とか言って、楽しみにしていたな。

何で今日は、テンション低いんだろう」

そう、グチの様に言いながら、麦茶を飲み始めた。

そして、フミヤと敏也は一言も話さないまま、仕事は終わった。

敏也は、急いでライブハウスへ向かった。

すぐに、友達の指示により、機材を運んだり、ライブグッズを売ったりして、気付けば夜の11時を回った。

「少し、休むよ」

と、友達に言って外へ行った。

少し、淋しそうな姿でタバコを吸っていると、ケータイが鳴り出した。

着信:すがの

電話に出ると、少し、笑った様な声がした。

「あのさ、私もう早めに仕事終わったからさ、フミヤの誕生日しないかな?」

敏也は、少し考え

「そうだね。ここも落ち着いて来たし」

そう言って、2人は近くの公園で待ち合わせをしてから、ゆうきの家に行ったチャイムを押すと、ゆうきが出て来た。

「フミヤいる?」

そう、すがのが聞くと、驚いた顔して

「いる?って、今日帰ったよ。家へ」

そう答えた。

2人は、とにかく家へ戻った。でも、フミヤがいないと確認すると、また外へ行き探し出した。

「ったく!もうすぐ誕生日が終わるのに、どこへ行ったんだ」

フミヤのケータイに電話しても取らないし、知り合いに電話しても

「知らない」

って返って来るだけだった。

2人は、車で探しながら悪い事を考えた。

事故?そう思うと変な汗が手のひらに、滲んだ。


その頃、フミヤは海にいた。あの3人で来た海だった。

ポケットに手を突っ込んで、ケータイを取り時間を見た。

あと、15分で終わる誕生日。一人で、つぶやくように歌った。

「ハッピ バ〜スディ〜トゥ〜ミ〜♪ハッピ バ〜スディ〜トゥ〜ミ〜♪」

ふと、空を見ると満月だった。

ずっと見ていると、すごくキレイで、いつの間にか敏也に電話していた。

敏也は、突然鳴り響いたケータイを取り、すぐにフミヤだとわかった

「もしもし、お前どこに…」

言いかけると、敏也の話を聞いていないのか、フミヤが

「敏也〜すごいよ。月がね満月だよ」

「はぁ?」

と言うと、かすかに聞こえた波の音で、海にいるのかと確信した。

もしやと思い、車をUターンし、フミヤがいる海へ向かった。

車を止め、すぐにフミヤを見つけると、ほっと安心した。

ゆっくり近づくと、フミヤは2人に気づき、空に指を指してジャンプしながら

「見てみて、満月だよ」

2人は月を見た。フミヤも月を見ながら

「すごいよね〜!俺いつか、月に住んでみたいな。いつか3人で行って暮らそうね」

すがのと敏也は、顔を見合わせて、どっと笑った。

フミヤも、それを見て笑い出した。

ふと、3人が目を合わすと、同時に3人とも頭を深く下げ

「ゴメン」

と声をそろえた。

それもまた、またおもしろくて、大笑いした。

そして、すがのが

「あ〜あ、笑ってたら過ぎちゃった」

フミヤと敏也も時計を見て

「あっ!」

と黙った。

すぐに、敏也は何かを思い付き、

「フミヤ、少しの間目をつぶっていて」

と言った。

訳も分からず、目をかたくつぶると、

「何?」

と聞いてみる。だが返事はない。敏也は、すがのと一緒に車に向かった。トランクを開けて、

「これをさ、ローソク代わりにして、ケーキを作ろうよ」

と提案した。

フミヤは、何が起こってるのか分からず、目をつむってた。「フミヤ、目開けていいよ」

と、2人の声がして、ゆっくり開けると、思わず

「おお〜」

と叫んだ。そこには、色とりどりのペンライトが20本。そして、ケーキの絵が砂浜に書かれていた。

「すげ〜キレイ」

と、目を輝かせながら見た。

敏也とすがのは、微笑みながら、

「せ〜の」

と言って、声をそろえた。

「フミヤ〜誕生日おめでとう〜!愛してるぜ〜」

そう、叫んだ。

フミヤは、Vサインをすると、ケーキの周りを走った。

「すげ〜すげ〜」

と、はしゃぐフミヤ。その様子を見て、笑ってる、すがのと敏也。

1日おくれの誕生日。初のケンカ。悪くない。3人はいつまでも笑い合った。

同じ空の下、同じ月の下で過ごしてる事を感じながら、いつまでも笑い合った。


フミヤの誕生日が過ぎ、季節は12月になった。

いつもと変わらない毎日を過ごしてる3人。

毎日、一緒が当たり前になって来た。

そんな中で、敏也は、少しずつ、彼女への気持ちや子供の事を、改めて思ってた。

その日も、仕事を終え、着替えをしてると、彼女からメールが届いた。

(話があるから、家に来て)

敏也は、少し、考え、フミヤに

「少し、用があるから、先に帰ってて」

と言った。

「うん。お酒、すがのと飲んでおくよ」

と言い、先にフミヤは帰った。

夜、フミヤの家では、すがのとフミヤで飲んでいた。突然、ドアが開き、敏也が帰ってきた。

寂しい目をして、2人を見つめる敏也。2人は(何かあったんだ)と思い、

「敏也?」

て聞くと

「なんちゃって〜!ただいま!」

と、いつもの敏也に戻った。

安心して3人で飲み始めた。

いつもの賑やかな部屋に、敏也のケータイの音が響いた。

一瞬、静かになり、すぐに敏也は取り、メールの内容を見ると、投げるように床にケータイを置いた。

「もう!楽しいのに、邪魔だよね」

と、笑顔で言った。でも、目から涙がこぼれ落ちた。

フミヤとすがのが、

「何か合ったの?」

と聞くと、みるみるうちに、敏也の顔が泣き顔になった。

すがのは敏也を抱きしめると、

「何かあったら、話して?」

と、敏也に言った。敏也は、しばらく、すがのの肩に顔をうずめ、そして、ゆっくり離れ涙を拭き、しゃべり出した。

「今日、彼女と会ったんだ。もう怒ってないって言ってた。けど、このままなら別れるって。それと、二人目が出来たみたいで、今7ヶ月だって。初めは、喜んだ。でも、この3ヶ月間、子供と彼女が、どんな思いだったのか聞かされた。パパがいなくて、淋しい思いをしてる子供。毎日、不安が絶えない彼女。

俺、自分の事ばっかり考えてた。

こんな奴、父親にも、男にもなれない。人間として、ダメな事をした…死にたい」

2人は黙って、敏也を抱きしめた。

そして、フミヤはゆっくり、

「死にたいって言うなよ。生きてよ。敏也は、ここにいて楽しくなかったの?」

と語りかけた。

「楽しかった。楽しくて帰れなかった。さっきのメールも、今日帰らなければ、別れるって。

でも、もう遅いよ。全て失って、生きれないよ。一人じゃ生きれないよ。」

と、泣きながら言った。

「敏也、一人じゃないよ。」

と、すがのが言った。

「そうだよ。俺もすがのも、ここにいるよ。きっと、彼女も子供も、敏也がいるから生きているんだよ。一人じゃないよ」

と、フミヤは強く抱きしめた。

「敏也は、うらやましいよ。私は、子供が出来ないかもしれないのに、敏也は二人目も出来て、幸せだよ」

すがのも泣き出して、フミヤは、2人を抱きしめた。

「俺が、2人の痛み、全部受け止めるよ。だから、2人とも生きて。現実から逃げてもいい。だから、俺のために生きて。

俺は、すがのと敏也がいるから生きれる。」

そう言うと、そっと、2人を離し小指を出した。

すがのも、小指を出し、フミヤの指にからめ

「私は、フミヤと敏也がいるから生きれる」

涙を拭きながら、言った。

2人は、敏也を見て微笑んだ。

敏也も、2人の指に指をからめ

「俺は、フミヤとすがのがいるから生きれる」

そう、つぶやいた。「愛してるぜ」

フミヤは笑いながら、言った。

すがのも

「愛してるぜ」

と笑った。

敏也も、涙を拭い、

「愛してるぜ」

と笑った。

3人は、少しの間、小指をからませ、笑い合った。


次の日、敏也は彼女を呼び出し、家の近くの喫茶店で会った。

初めは、お互いに喋らなかったが、敏也は小指を見て、勇気を出し喋った。

「オレさあ、このみ(彼女)やミカ(子供)に、悪い事をして来た。自分がイヤになって、少しの間一人の人間として、現実から離れていた。そんな時に、支えてくれる人がいたから、今また現実を受け止める勇気が持てたんだ。今更って思うけど、もう逃げない。このみとミカと産まれて来る子供と一緒に、生きていきたい」

と、このみに訴えた。

しばらく、沈黙が流れて、このみはゆっくりと笑った。

「何か、変わったね。前は、少し頼りない目をしていたけど、今は堂々としてるよ。今の方が、好きだよ。私も行ってみようかな?その家。」

と言った。

「今度、行こうよ。このみ達と一緒ぐらいにさ、俺の大切な人達なんだ」

「四人になったら、会わせてね」

と、このみは笑顔で言った。

2人は、喫茶店を出て、このみを送るために歩いていた。

「明日、帰って来るよ。そしたらさ、結婚してほしい」

と、このみと手をつなぎ、プロポーズした。

「…もう少し、ムードがあって欲しかったけど、めっちゃいい男になったから、OK!幸せになろうね」

2人は、愛を確かめ合うように、キスを交わした。

このみの家に着くまで、敏也は、すがのやフミヤの事を話した。このみも楽しそうに聞いていた。

そして、このみの家に着き、

「じゃあ、明日ね」

と、後ろを向き、帰ろうとした時、

「敏也〜!この子さ、男の子なんだって。あの、フミヤ君みたいに明るい子に育てようね。頼むよ!パパ」

と、敏也に向かって叫んだ。

敏也は、手をあげ、

「絶対、幸せな子供にするよ」

と言うと、フミヤの家に向かった。

12月の寒い日、一つの愛が、一つの愛を救った。


次の日、仕事を終え、敏也はフミヤの家で荷物をまとめていた。

「結構、あるな」

と言って、少し洋服をタンスに戻した。フミヤとすがのは、外で待っていた。

不思議と淋しさはなく、いつもと変わらなかった。

敏也が外に出て来て、荷物を車に詰め込んだ。

「よしっ終了!」

と言って、3人は、お互いに体を向けた。

「色々と、お世話になったね」

「こちらこそ!明日、職場で会おうね」

「子供、大切にね」

そして、小指を出し、3人ともからめ、部屋を見つめた。

「色々あったね!俺、ここで暮らして良かった。また来てもいいかな?」

と、敏也は少し寂しそうに言った。

「もちろんだよ。ここは、いつでも、敏也の家だよ。ずっと、家族だよ」

と、フミヤは言った。

3人は、からめた小指を部屋に向け、

同時に叫んだ。

「愛してるぜ」

こうして、たった3ヶ月の3人暮らしは、1人旅立ち、幕を閉じた。

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