モテない俺とモテすぎる君
気晴らし程度に更新とか言っても、今書いてる話の更新率もいい方じゃないですな。まあ、自分のペースで頑張ります。
自慢じゃないが時田義男は生まれてこの方モテたためしが無い。まあ、その時田なる人物は何を隠そうこの俺なのだが。クリスマスは毎年、父と母と共に過ごし家族の絆を深める。バレンタインにはやはりおかんからの心の篭ったチョコレート(最近は永森の板チョコ)と二つ下の妹からの手作りチョコ(中学入学以来ここ何年か貰ってないけど)が俺に贈呈されている。
絵に描いたような非モテライフを送る俺には、下駄箱にラブレターとか、放課後に伝説の木の下で意中の子から愛の告白なんていう時間経過と共に美化され続けるであろうキラキラしたイベントなどあるはずも無く、のっけから自分の非モテアピールなどして一体俺が何が言いたいかというとだね。もう諦めた。
俺には向いてない。モテようと努力をした時期もあったが、その頃の自分に言ってやりたい。無駄な事に時間を使うなと。その時間をもっと何か有意義な事に使えと。恋愛だけが青春の醍醐味じゃないだろ。もっとほかに、あるだろ。絵を描いたり。運動したり。友達と旅行に行ったり。いくらでもさあ。
なのに俺ときたら。彼女がいる+青春-甘酸っぱい思い出=なんだか素晴らしいみたいな方程式を勝手にくみ上げた挙句。その解に至る前の途中式の段階で暗礁に乗り上げ。早々にクラスの女子から見限られてしまったのだから笑うしかない。
以来、俺が話すのは男ばかりあっちも男、こっちも男本当に男汁溢れる学生生活だよ。女子には俺が男色の気があるとの噂が流れているらしいが、誤解を解く気にもならないし、解いたところでその労力に見合った何かが俺に帰ってくるとも思えないので、放置しておく。
だから今も、俺も隣を歩いているのは幼馴染の美少女などではなく。幼馴染の美少年だ。顔のパーツを全てオーダーメイドでこさえたような丹精なお顔をお持ちの俺の幼馴染、池谷啓吾は先日見た映画について語っていた。
「ベターな話だけど、感動した。泣いたよ」
彼が熱弁を奮いっている映画の名前はドーバー海峡の中心で愛を叫ぶという映画についでだ。ドバチュウ等と一昔前に流行った携帯ゲーム機のソフト『手のりモンスター』、略してテノモンに出てきた某人気キャラの鼠テノモンのような略称のそれは、付き合いだした女の子が、映画の中盤以降に不治の病に冒されてしまい。話の最後で主人公が彼女の遺骨を指定の場所に撒きに行くという内容の話しだ。
何故俺が未だに劇場で放送されている映画の内容を知っているのかは想像に難くないだろう。
「俺も見たから分かってるよ。しかもお前と……その話映画見てから同じ話何回するんだよ?いい加減頭を切り替えなさい」
「いや、あの感動を忘れたくない。忘れちゃいけない。だから感動が定着するまでお前には俺の話を聞いてもらう」
「何だその目茶苦茶な理屈は。大体、恋愛もの映画を野郎二人で見に行くってどうよ?俺はお前から誘いを受けたときは、ドバチュウと一緒に上映されてる『今迎えに行きます』とか『ラストマサライ』とかのつもりだったんだが、何でまたドバチュウ?野郎と見るもんじゃねえよあれは……」
確かに俺も不覚にも涙が出そうになったシーンが幾つかあるのだが、その度に横に座る池谷の存在を思い出してなんとも複雑な心境になったものだ。当然周りは男女のカップルが多く、野郎二人で恋愛ものの映画を見ている俺達は傍目にどう見えたのか一抹の不安を覚える。正直一人で来たほうが100倍マシだった。
「別にいいじゃん。見たかったんだし。それに面白かったじゃん」
「まあ、そうだけどよ」
「それに知らない女の子と見に行くより気心の知れた奴と見たほうが……イテ!何で叩くの?」
池谷の言葉通り、俺はやつの事を叩いた。それも結構強い力で。俺は柔道の道場に通っているので膂力にはそこそこ自信がある。さぞ痛かろう。
「なんかあれだ。持つものが持たざるものに見せる余裕みたいなものにカチンと来た」
「どういう意味?」
「お前は自分がモテるのが当たり前だと思っているようだがな。モテる奴にはそれなりの理由と要素があるんだ。モテる奴の中でもお前は別格だ。色々な要素が揃いすぎてる。それは神さまが気まぐれで起した奇跡なんだよ!生まれた瞬間に宝くじに5回連続で当選したようなもんだ。このアンポンタンが!」
ただイケメンなだけならいざ知らず。腹の立つことにこの男。頭脳明晰、スポーツ万能、おまけに男女問わず人望厚いと、遠めに見ている分には非の打ちようが無い。
実際深く付き合ってみるとこの男それだけではなく天然で無神経ある事に気が付く。
でも、
「そっか。でもそれは気のせいだよ。俺は時田の方が凄いと思うんだ。きっとお前は本当に見る目のある女子に好かれてるよ」
こういう奴だから。嫌いになれないんだよな。
「まあ、見る目のある女子とやらが、目茶苦茶性格悪い奴かもしれんがな」
そんな俺の皮肉を隣の幼馴染は力強く否定してくれた。
「それはありえないよ。時田みたいな変わり者を好きになる子はきっと観音様みたいな子に違いないから」
ああ、今のは失礼だよ池谷君。君とは長い付き合いだけど。そういう事を言った後どうなるか君も分かってるだろうに。分かるよね?
俺は池谷の頭を今度こそ手加減せずに力の限り引っ叩いた。