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二度覚醒したモブの逆転無双 ~万年Fランク探索者の俺は、二度の覚醒を経てSランクをも超越し、鬼バズる~  作者: 豚汁


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白石美月

 アラームが鳴る前に目が覚めた。

 今日も深くは眠れていない。

 ベッドに横になってはいたものの、頭の中では昨日の衝撃的な出来事が何度も再生されていた。


 スマートフォンを手に取ると、時刻は午前5時47分を示していた。

 指先でアプリを開き、日課であるダンジョン探索者専門のニュースサイトを確認する。

「エクスプローラーズ・デイリー」というサイトで、探索者界隈では最も信頼性の高い情報源として知られている。


 毎朝新しいダンジョンの情報、探索者の昇格ニュース、事故や事件の報告などが更新される。

 普段は流し読み程度だったが、今日は違う。

 心臓が激しく鼓動している。


 画面をスクロールしていくと、予想していた記事が目に飛び込んできた。


【速報】東京都下F級ダンジョン、原因不明の崩落により永久封鎖


 文字を見た瞬間、胃の奥底が冷たくなった。

 指先が微かに震えながら、記事をタップして詳細を読み進める。


 昨日午後7時頃、東京都下のF級ダンジョン(登録番号:F-1847)において、前代未聞のダンジョン崩壊が発生したと、管理局が発表した。

 現地調査の結果、ダンジョン内部の構造が完全に破綻し、人が立ち入ることが不可能な状態になっているという。


 管理局の発表によると、昨日午後6時30分頃から地上で異常な振動が観測され、午後7時過ぎに入り口から大量の粉塵が外部に噴出。

 緊急調査チームが派遣されたが、内部は瓦礫と地下水で満たされており、探索不可能と判断された。


 ダンジョンの自然崩壊は探索者制度開始以来初めての事例で、専門家も困惑を隠せない。

 東京大学ダンジョン学部の田中教授は「ダンジョンは通常、自己修復機能を持つため自然崩壊は理論上起こり得ない。何らかの外的要因が作用したと考えられるが、現時点では原因を特定できてない」とコメントしている。


 幸い、崩壊時にダンジョン内にいた探索者はおらず、人的被害は報告されていない。

 同ダンジョンは当面の間封鎖され、詳しい原因調査が行われる予定だ。


 記事を読み終えると、深いため息が漏れた。

 部屋の空気が重く感じられ、胸の奥で罪悪感が渦巻いている。


 人がいなくて良かった、心からそう思う。

 もし他の探索者が巻き込まれていたら、俺は一生その罪を背負って生きていかなければならなかった。


 運が良かったとしか言いようがない。

 いや、運ではなく、F級ダンジョンが人気のない狩場だったからこそ、被害者が出なかったのだろう。




 *



 学校の昼休み。

 俺は一人で旧校舎の屋上にに向かった。

 屋上の柵に寄りかかり、校庭を見下ろす。

 風が頬を撫でていき、髪を軽やかに揺らしている。


 しばらくダンジョンに行く気分になれない。

 昨日の出来事が重石になり、当面は探索者活動を控えようと考えていた。


 そんな中、


「あ、あの!」


 突如、後ろから声をかけられた。


「え?」


 振り返ると、一人の女子生徒が立っていた。

 まさかこんな所に、俺以外の生徒がいるなんて。

 見覚えのない顔だったが、制服の腕章から後輩の生徒だということは分かる。

 おそらく一年生だろう。


 女子から声をかけられる経験に乏しい俺は、瞬時に緊張して体が硬直した。

 心拍数が上がり、手のひらに汗が滲む。


 彼女は俺の方に一歩近づいてくる。

 その動作は軽やかで、ためらいがない。


「鈴木輝明……先輩ですか?」


 声は透明感があり、よく通った。


「えっと、そうですけど」


 俺は戸惑いながら答える。

 彼女の容姿をより詳しく観察する。


 ショートカットの黒髪が顔の輪郭を美しく縁取り、色白の肌が日の光を受けて淡く輝いている。

 目は大きく、瞳には好奇心に満ちた輝きがある。

 口元には微笑みが浮かんでおり、全体的に人懐っこい印象を与える顔立ちだった。


 制服の着こなしも整っており、清潔感がある。

 身長は俺より10センチほど低く、全体的に小柄で可愛らしい印象だった。


「すみません! 無断で後ろをつけるような真似をして! でも、のっぴきならない事情がありまして……」


 彼女は少し後ろめたそうな表情を見せながら続ける。


「風の噂で、鈴木先輩が探索者をしていると小耳に挟みまして」


 探索者。

 その言葉を聞いた瞬間、俺の胸が締め付けられる。

 昨日の出来事が鮮明に蘇り、罪悪感が再び湧き上がってくる。


「あ、はい。やってますけど……」


 俺は探索者をやっていることを素直に肯定する。

 それは隠すことでもないし、探索者活動は合法的な職業として認められている。


 俺が肯定すると、彼女の目が輝いた。


「実は私も最近探索者を始めたんです! でも探索者の友達が一人もいなくて……」


 そう言いながら、彼女は寂しそうな表情を見せる。

 探索者になったものの、相談できる仲間がいない状況は確かに心細いだろう。

 まあ、俺はずっとソロでやってきたが。


「確かに、この学校で探索者やってるのは、俺か、姫月氷華さんくらいなものだからね」


「そうなんです! 姫月先輩はすごく強い方だって聞いてますけど、なんだか近寄りがたくて……」


 彼女は苦笑いを浮かべる。

 姫月氷華は学年でも有名なA+ランク探索者だが、どこか冷たい雰囲気がある。

 俺のような底辺探索者の方が、後輩からすると話しかけやすいのかもしれない。


「あっ、自己紹介が遅れました」


 彼女は慌てたように手を後ろに組み、名乗り上げる。


「白石美月です。16歳、1年生です。最近E+ランク探索者になりました!」


 E+ランクということは、俺よりも上の探索者だ。

 俺のようなF+ランクとは格が違う。


「E+か……すごいね」


 最近探索者になったばかりでE+ランクということは、ちゃんと才能があるということだ。

 万年Fランクだった俺とは違う。


「いえいえ、まだまだです」


 美月は謙遜しながら手を振る。


「それで、お願いがあるんです」


 少し緊張した様子で続ける。


「先輩、私と一緒にDランクダンジョンに行ってくれませんか?」


「お、俺と一緒に……?」


 Dランクダンジョン。

 俺にとっては未知の領域だった。

 これまでF級ダンジョンでスライムを狩ることしかしたことがない俺には、Dランクは別世界のように感じられる。

 Eランクダンジョンにすら挑戦したことが無いというのに。


「でも俺、Fランクだし……」


 俺は自分のランクの低さを理由に断ろうとする。


「Fランク?」


 美月は首を傾げ、不思議そうな表情を見せる。


「でも先輩のステータス……」


 彼女は俺を見詰めながら呟く。

 おそらく探索者が持つ基本的な能力、スキャンで俺のステータスを確認しているのだろう。

 俺も他の探索者のランクを見ることができ、美月の場合はE+と表示されている。


 しかし、俺のステータスは昨日の覚醒以来、異常な表示になっていた。


「EXって書いてますけど、これは私と同じEランク帯ってことじゃないんですか? 少し表記がおかしいけど。E+の上なのかな? でも初めて見る表記かも……」


 美月は不思議そうな表情を浮かべる。

 確かに、EXという表記は前例がない。

 探索者のランクシステムにおいて、想定されていない表示なのだろう。


「え、あー、そうかもね。E+の上、そうなのかもしれない……」


 俺は曖昧に答える。

 正確にはEXランクが何を意味するのか分からないが、美月がEランク系統だと勘違いしてくれるなら好都合だった。


 なんか上手いこと勘違いしてくれたな……。

 心の中でそう思いながら、俺は安堵の息を吐く。


「一人で行くのは心細いから、浅い層まで一緒について来てほしいなーって」


 美月は期待に満ちた表情で俺を見詰める。

 子犬のようなつぶらな瞳で見上げられると、断る理由を見つけるのが困難だった。


「う、うん。じゃあ……ちょっとだけなら」


 俺は結局、承諾してしまう。

 本当はダンジョンに近づきたくない気持ちが強かったが、彼女の熱意に押し切られた形だった。


「ほんとですか! 嬉しいです! ありがとうございます先輩!」


 美月の表情が一気に明るくなる。

 目を輝かせ、まるで子犬のように喜びを全身で表現している。

 しっぽを振り回しているかのような可愛らしさがあった。


「では、今日の放課後! 校門で待ち合わせましょう! 約束ですよ!」


 彼女は元気よく約束を取り付けると、軽やかな足取りで屋上を去っていく。

 ショートカットの髪が歩調に合わせて揺れ、後ろ姿も愛らしい印象を与えていた。


 俺は一人残され、屋上で立ち尽くしていた。


 そんなこんなで、俺は放課後、初めて後輩の女の子とF級以外のダンジョンに潜ることになった。

 昨日までの俺なら、こんな状況は想像もできなかった。

 底辺探索者の俺に、可愛い後輩女子が声をかけてくる。


 一緒にダンジョンに潜ろうと誘ってくるなんて、寝る前にする妄想のような展開だった。


 しかし、同時に不安も大きい。

 俺の力が制御不能であることを、美月に知られてはいけない。

 昨日のようなダンジョン破壊を起こしてしまったら、彼女を危険に晒してしまう。


 Dランクダンジョンには、ゴブリンやトロールといった、スライムより遥かに強力なモンスターが生息している。

 そんな相手に対して、俺の力が暴発したらどうなるか。

 想像するだけで恐ろしい。



 *



 放課後のチャイムが鳴り響く。

 教室内がざわめき始め、生徒たちが帰り支度を始める。

 俺もカバンに教科書を詰め込みながら、これから起こることへの不安と期待を整理しようとする。


 校門前には既に美月が立っていた。

 制服から私服に着替えており、探索者用の軽装になっている。

 薄手のジャケットに動きやすいパンツ、頑丈そうなブーツ。

 探索者としての装備も整っていた。


「先輩! お疲れ様ですっ!」


 美月は俺を見つけると、手を振りながら駆け寄ってくる。

 その表情は期待に満ち溢れており、興奮が伝わってくる。


「お疲れ様。着替えてきたんだね」


「はい! 準備万端です!」


 彼女は自分の装備を誇らしげに見せる。

 初心者用とはいえ、しっかりとした探索者の装備だった。

 俺の安物装備とは格が違う。


「それじゃあ、行きましょう!」


 美月は元気よく歩き始める。

 俺もその横を歩きながら、これから始まる探索に身を委ねることにした。

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