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【短編集】短い歌の恋  作者: 葛の葉


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9/9

光差す仮面へ向けた手を伸ばす古い仮面を捨てたばかりで

男と別れたから、洋服と下着と靴をまとめて捨てた。

夏と秋を一緒に過ごしただけなので、量はそれほどでもない。

明日からは実践的な戦闘服で狩りに出る。

新しい恋人を見つけるという名の狩りに。


実践的な戦闘服はシンプルだ。

片方の肩が落ちるデザインのゆったりとしたニット。ボトムスはスキニーデニムか、膝が隠れるくらいのタイトスカート。ヒールは高すぎず、アクセサリーは装飾のないシンプルなものを。


誰の好みにも当てはまり、そこから誰の好みにも寄せていける。

それが私の戦闘服だ。


家庭的な女、さっぱりした女、守りたくなる女、セクシーな女。

彼が望めば、そうなるのは簡単。

でもなんで。彼の好みのはずなのに。なんでいつも振られるのは私なわけ?


週末に合コンを控えた水曜日の夜。

新しい下着と戦闘服の調達のために、仕事を終えて夜の街に出た。

しばらく途切れずに恋人がいたせいで、繁華街で一人の夜を過ごすのは久しぶりだ。

アパレルブランドが豊富に入っている商業施設に入り、まず下着を買った。

セクシーなものと清純なものを2セットずつ。

ふっと一息ついたところで、中学生の頃に好んでいたブランドの前を通りかかる。

今では考えられないようなオレンジと黄色のパーカーや、胸に大きく花のプリントをされたロングTシャツ。ダサいな。と思って嘲笑するように息が漏れた。


「よかったらご覧になられますかぁ?」と、甲高い声で接客してくる、おそらく私より若いであろう店員に会釈だけ返し、そそくさとその場を離れようとした時、店内の大きな姿見に私が映った。


『戦闘服』

自分でそう名付けたシンプルでいて少しセクシーな装い。

次のターゲットを落とすための、媚びた服。

不意に客観視してしまい、「うわぁ」と声が出る。

うわぁ、ダセェ。

引き攣った笑顔を貼り付けて、急いでその場を離れた。


見てしまった。私は見てしまった。

誰のためでもなく、媚びるためだけの自分を。

似合うかどうかなんて考えてなかった。

考えてなかったから、こんなにシンプルな服にさえ『着られている』と、そのことを知ってしまった。

もう何年もこんな風に装ってきたのに。


どうしたら良いのか分からなくなって、手近にあったソファに倒れるように座り込んだ。


どのくらいそうしていただろう。館内に『蛍の光』が流れ始めた。

結局、洋服を買わないままに退店せねばと重い腰を上げた時、目の前に飛び込んできたのは、エナメルが美しいピンヒールの黒いブーティーだった。

フォルムにひとつの無駄もなく、ちょうどくるぶしのところに来るレザーのカッティングが素晴らしい。シンプル、だけどセクシーで。

これは私のためにあつらえられたものだとすら感じる。


(また、シンプルでセクシー?結局、男に媚びるための戦闘服に目を奪われているの?)

心のどこかで自分自身が警報を鳴らしている。

でも、そんなのもうどうでも良くなるくらい。

私は、この靴に恋してしまった。


「あの、ショーウィンドウのブーティーって試着できますか」


『蛍の光』は流れ続けている。


これは、私自身の卒業の歌かもしれない。

私はこの靴を履いて、自分自身が好きな自分になる。なれる。そう確信した。


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