光差す仮面へ向けた手を伸ばす古い仮面を捨てたばかりで
男と別れたから、洋服と下着と靴をまとめて捨てた。
夏と秋を一緒に過ごしただけなので、量はそれほどでもない。
明日からは実践的な戦闘服で狩りに出る。
新しい恋人を見つけるという名の狩りに。
実践的な戦闘服はシンプルだ。
片方の肩が落ちるデザインのゆったりとしたニット。ボトムスはスキニーデニムか、膝が隠れるくらいのタイトスカート。ヒールは高すぎず、アクセサリーは装飾のないシンプルなものを。
誰の好みにも当てはまり、そこから誰の好みにも寄せていける。
それが私の戦闘服だ。
家庭的な女、さっぱりした女、守りたくなる女、セクシーな女。
彼が望めば、そうなるのは簡単。
でもなんで。彼の好みのはずなのに。なんでいつも振られるのは私なわけ?
週末に合コンを控えた水曜日の夜。
新しい下着と戦闘服の調達のために、仕事を終えて夜の街に出た。
しばらく途切れずに恋人がいたせいで、繁華街で一人の夜を過ごすのは久しぶりだ。
アパレルブランドが豊富に入っている商業施設に入り、まず下着を買った。
セクシーなものと清純なものを2セットずつ。
ふっと一息ついたところで、中学生の頃に好んでいたブランドの前を通りかかる。
今では考えられないようなオレンジと黄色のパーカーや、胸に大きく花のプリントをされたロングTシャツ。ダサいな。と思って嘲笑するように息が漏れた。
「よかったらご覧になられますかぁ?」と、甲高い声で接客してくる、おそらく私より若いであろう店員に会釈だけ返し、そそくさとその場を離れようとした時、店内の大きな姿見に私が映った。
『戦闘服』
自分でそう名付けたシンプルでいて少しセクシーな装い。
次のターゲットを落とすための、媚びた服。
不意に客観視してしまい、「うわぁ」と声が出る。
うわぁ、ダセェ。
引き攣った笑顔を貼り付けて、急いでその場を離れた。
見てしまった。私は見てしまった。
誰のためでもなく、媚びるためだけの自分を。
似合うかどうかなんて考えてなかった。
考えてなかったから、こんなにシンプルな服にさえ『着られている』と、そのことを知ってしまった。
もう何年もこんな風に装ってきたのに。
どうしたら良いのか分からなくなって、手近にあったソファに倒れるように座り込んだ。
どのくらいそうしていただろう。館内に『蛍の光』が流れ始めた。
結局、洋服を買わないままに退店せねばと重い腰を上げた時、目の前に飛び込んできたのは、エナメルが美しいピンヒールの黒いブーティーだった。
フォルムにひとつの無駄もなく、ちょうどくるぶしのところに来るレザーのカッティングが素晴らしい。シンプル、だけどセクシーで。
これは私のためにあつらえられたものだとすら感じる。
(また、シンプルでセクシー?結局、男に媚びるための戦闘服に目を奪われているの?)
心のどこかで自分自身が警報を鳴らしている。
でも、そんなのもうどうでも良くなるくらい。
私は、この靴に恋してしまった。
「あの、ショーウィンドウのブーティーって試着できますか」
『蛍の光』は流れ続けている。
これは、私自身の卒業の歌かもしれない。
私はこの靴を履いて、自分自身が好きな自分になる。なれる。そう確信した。




