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【短編集】短い歌の恋  作者: 葛の葉


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6/9

雨の音 忘れるくらい笑ってた きみとの時間 放課後はまだ

よく当たる予報を見た母が朝、「折り畳み傘持ちなさいよ」と言ってくれたおかげで私は今日、勇気を振りしぼる算段をしている。


好きな人がいる。

四月一日生まれの同級生。

四月一日は、学年を選べるって話を彼がクラスメイトとしていたのが聞こえてきたことがある。


「一個上の学年だったかもしれないんだから、敬えよ俺を。お兄ちゃんって呼んでみな」


そういうことを言っても許されちゃう明るい雰囲気と、屈託のない笑顔。

彼が笑うと、その場に光が差したみたいに眩しくなる。


「お兄ちゃん…」


小さく呟いた声は、彼にも届いてしまった。

なんとなくお互いに赤くなって、周りから囃し立てられたけどそんなの気にならないくらい自分自身が恥ずかしかった。


お兄ちゃんが、欲しかった。

一人っ子で、両親は共働きで、小学生の頃には夕ご飯を一人で食べる機会も多くなった。

両親はたくさんの愛情と優しさを注いでくれているのは分かっていても、物理的な寂しさは拭えない。こんな時、頼れるお兄ちゃんがいたらなって考えたことは何回もある。

そうやって、お兄ちゃんへの憧れを少しずつ膨らませていたのだ。


昼くらいから降り出した雨は放課後まで降り続いていた。

彼は日直で、放課後もみんなより遅くまで残っていることは予想できた。

日誌を書いているところに、ずっといたら怪しまれるかなと思って図書室で時間を潰してから教室に戻る。


「あれ、まだ残ってたんだ?」


すぐに声をかけてくれて、それだけで胸がきゅうっとなる。


「うん、図書室にいて…」


「なぁ、聞いてくれる?日誌の最後に、日直の感想書くところがあるんだけどさ。

そこでみんな絵しりとりしてんの知ってた?」


「え、知らない」


「見てみ」


手招きされて、彼の隣に立って少しかがむ。

本当だ。前回私が日直をした日から少し後に始まってる絵しりとり。


「でさ、昨日のやつ」


そこには、ぶたなのか猫なのか、それとも何かのキャラクターなのか、全然判別のつかない奇妙な絵が描かれている。


「一昨日の絵から推測しようにもさ」


そう言って、ページをめくる。長くて節くれだった指が大人っぽくてドキドキする。


「一昨日の絵もよくわかんねぇの」


俺、何描けばいいんだよ!!と頭を抱える彼を見て、思わず笑ってしまった。


「ちょっと、何描けば良いか一緒に考えてくんない?」


彼の前の席を指差されて、そこに座る。

後ろ向きに座って日誌を覗き込んだら、彼との距離が近くて心拍数が跳ね上がる。


結局、1週間前の絵から推測をして、きっと前日の絵はカピパラだろうということになり、彼が描いたのはラーメンだった。


「ねぇ、しりとり終わっちゃうけど」


「うわ、まじじゃん」


二人で涙が出るほど笑った。こんなに楽しい放課後は初めて。ますます好きだなぁって、そう実感していると


「お、雨上がったな」


窓の外を見て、彼がポツリと言う。


「え…」


絶望的な気持ちで私も窓の外を見た。

勇気を振りしぼって、「傘あるから一緒に帰ろう」って誘いたかったのに。

しゅわしゅわと音を立てるようにして、心の中の勇気がしぼんでいくのを感じた。

活躍するはずだった折り畳み傘が、ただの荷物になってしまった。


「やった、じゃあラーメン食いに行こう!」


目をキラキラさせて彼が言う。

戸惑っていると、立ち上がった彼がさらに続けて「一緒に帰ろ」と笑った。


私が、言いたくて言えなくて勇気すらしぼんでしまった言葉。嬉しくなって、思わず笑顔になった。


私たちの放課後はまだ、もう少しだけ続く。



『また明日って言うだけの勇気はちゃんと

持っているけど 今はまだ』

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