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【短編集】短い歌の恋  作者: 葛の葉


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2/9

必要なものならすべてこの中に 溶けて混ざって私になれよ

阿呆みたいな質問だなと思った。


「俺と仕事どっちが大事なの?」なんて昭和かよ。

別にどっちでもなかったけど、声を発するのもめんどくさくなって下を向いてため息だけを吐いた。


窓の外は雨。

きっちりと髪をまとめ上げたのは、湿気で広がって欲しくないから。

彼のためのお洒落じゃない。自分自身への美意識だ。


無理をすれば、彼との時間を作ることは出来た。

けれどもう、無理をするつもりになれなかった。つまり、そういうことだ。

私たちは終わっていた。


なんとかこの場を終わらせようと優しい言葉をかけようとしたのに、掠れた声で出てきたのは「いいよ、もう」という、自分でもゾッとするほどの冷たい声だった。


ガタンと音を立てて彼が店を出ていく。

悪いことしたなと思いつつ、でももうどうでも良かった。


もっと、漂うように生きていたい。


何かを選択することは、何かを捨てることだと知っている。だけど、選択しても捨ててもゼロに戻るわけじゃない。

傷がついて、傷をつけて、経験値を増やして進む。

明日の私は今日の私ではない。


ブラックコーヒーをホットで頼んだのに、一口も飲まないまま冷め切ってしまった。

陶器のミルクピッチャーから、ゆっくりとミルクを垂らす。底面まで落ちて、白い斑点となって浮かび上がる。

かき混ぜないでそのまましばらく眺めた。黒い水面が、震えるように白を内包していく。


世界は、善悪だけでは出来ていない。

好きの反対は嫌いじゃない。

私の「好き」が「嫌い」な誰かがいたっていい。

それで一緒にいられなくなっても、そういう道もあったというだけだ。


黒も白も赤も青も緑も黄色もピンクも紫もグレーも。全部、私の中にある。ひとつずつ、価値観として培ってきた。今までも、これからも。


頬杖をついたら、腕のブレスレットがチャリ、と音を立てた。


漂うように、揺れながら。


窓の外の雨は、まだ止みそうにない。


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