表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/121

第95話 ガリ勉委員長  《挿し絵あり》

「では始めなさい」


それぞれが畑の周りに散らばっていった。

シュンも急ぎ足で目の前の一画へ進む。


(まずは、耳をすまして、鼓動を聞いてみよう

要は、モンスターと同じだ)


トンツタタン、トンツタタン


なんとなく鼓動は感じるものの、小さすぎてよく聞き取れない。

土の上に耳を近づけてみる。

わからない。

みんなどうしているんだ?

横を見てみると…シュンは唖然とした。


ネリは既に3つほど芽を出させていた。

青々と、つやのある若葉が小さく開き始めている。

目が合った。ネリはこちらを見ている。


「シュンさん、土に耳を近づけても意味は無いですよ

それなら土の中に手を入れてしまった方が、鼓動はよくわかりますよ」


「え?ありがとう。」


まさかのアドバイス。

戦闘ではないとはいえ、競争だって言われてるのに。

指示通り、シュンは土の中に手を入れてみた。


トンツクタン、トンツクタン


…げ。

まずい、これはいきなりの三拍子か?


トンツクタン、トンツクタン


取れない。このリズムは本当に苦手だ。

隣では興味深く、ネリがこちらを見ている。


「これは白茄子ですよ

三拍子は苦手ですか?」


「あ、うん

実は三拍子がどうしても取れないんだ」


少し上を見て何か考えるネリ。


「シュンさん、苦手だったら先に他の野菜をやってもいいかもしれませんよ

とりあえず1つでも結果を出した方が心は落ち着くかもしれないですから

でも、どちらにしろ三拍子はやらなきゃいけないですよね

今これをこなしたいですか?」


言いながらネリは既に5つ目の芽を出し、最初の1〜2本はすで20センチほど茎が伸びていた。


「うん、何とかこのリズム習得したいんだよね」


シュンは藁にもすがる思いで、ネリに助けを求めた。


「いいですよ、

何か三拍子のメロディーは知ってますか?」


「三拍子のメロディー……

すぐには出ないけど、そうだな

学校で習ったエーデルワイスとかなら歌えるけど」


「エーデルワイス?

初めて聞く名前ですね

とても美しい響きです

歌ってみてください」


「エーデルワイス

エーデルワイス

かわいい花よ♪」


「こんな感じだけど」


ネリは楽しそうだ。


「いいメロディーですね。

なんだか好きになっちゃいました

じゃあ今度は歌いながら三角形を宙に描いてみてください」


挿絵(By みてみん)


言いながらネリは7つ目の芽を既に出している。


(まるで、指揮者だな)


指揮棒を振るように三角形を描きながらエーデルワイスを歌う。


「うふふ、そしたらね

この白茄子のリズムは、3度に1度は低音がなります

三角形の最初の1点の時に、低音を意識しながら描いてみてください」


三角形の上の頂点。

そこに低音が鳴るイメージで…。


ドンウンウン

ドンウンウン


空中に三角を描くシュン。


「できましたね

そうしたら、今度は3番目に高音を鳴らしてみましょう」


ドンウンタン

ドンウンタン


エーデルワイス

エーデルワイス


ドンウンタン

ドンウンタン


「あれ…?なんかできるかも」


シュンはスネアとハイハットとバスドラムを顕現して見せた。


ドチタドチタ

ドチタドチタ


「は!なんですか?それは?」


驚きのあまりひっくり返る委員長。


散らばっていたみんなも、慌ててこちらへ飛んでくる。


「お前それ何なんだよ、すごいなぁ」


デコイは男の子らしく大興奮している。


口をあんぐりと開けたまま、眉にしわを寄せて動かないスーノ。


ライドンはニヤリと笑みを浮かべ、その様子を見ている。


「あ、ドラムセットだよ

おれはこれしかできないから… 」


三人はそれについて、とにかく話をしたそうだったが、ジルがそれを遮った。


「さ、あなたたちの仕事はこれじゃないでしょ

最初に言っておけばよかったわね

まぁ、シュンはこういうやつなのよ」

「はい、散って散って」


ジルはみんなを作業へと促した。

見てみると、


ライドンは既に10本以上苗を出している。

デコイは6本

スーノも5本目を出させているようだ。


ネリは…

15本は苗を作っていた。

シュンに教えながら…


「ネリ、君こそ何者なんだ?

なんでこんなにできちゃうんだ?」


「あ、うちは農家なんです

だから、子供の頃から野菜に親しんでたし、拍を覚えてからもこればかりやってたから」


「もしかして小さい頃から拍を使えたの?」


「わからないですが、拍とは気づかずに小さい頃からなんとなくやってました

私はまだ14歳ですから、ほんの何年か前ですけど」


「14歳…小さいとは思ってたけど、それでこんなにできるのか」


まさか2つも下の女の子に手ほどきを受けるとは思っていなかったシュン。


「シュンさん見てください、

あなたのリズムで1つ、白茄子の芽が出そうですよ」


「あ、本当だ

ありがとう!ネリのおかげだ」


にっこりと笑うネリ。

ネリの周りには20本目が出ている。


(凄すぎる…トップを取るのは、とりあえず諦めよう)


エイトビートの野菜が3種類

ゴーストノートの野菜が2種類

低音の16ビート、

低音と高温のコンビネーション、

BPM 180以上の高速リズム、

高音の大小のコントロールを求められる野菜。


いろいろな野菜を経験することで、たくさんのリズムを習得していくシュンたち。


これはタスクというよりも、トレーニングでしかないなとシュンは感じていた。


特にアップテンポのゾーンと高音のコントロールにおいては、シュンに有利だった。


ドラムセットはリムショットもあればハイハットを使ったオープンクローズもできる。


みんなが持っているドゥンバと比べると、その色彩は多彩と言えた。


みんなはシュンがリズムを出すたびにチラリと見た。

初めて見る楽器だ、気になるに決まっている。


「はい終わりよ

みんなこっちに来て数を教えて」


ネリ95本

デコイ56本

ライドン 52本

スーノ43本

シュン22本


それぞれ全員が10種類の条件をクリアした。


ネリの結果は突出していた。

1時間で95本ということになると、確実に1分で1本以上は芽を出させたことになる。


「ネリはこの様子だと農家だと引っ張りだこね

律動師にしとくにはもったいないんじゃないかしら?」


もっともなことを言うジル。


「さぁ、昼食よ

簡単なものがあるから、みんな食べましょう」


この世界ではみんなお昼はあまり食べない。

せいぜいサンドイッチだったり、ハムだったり、ちょっとしたものを食べるだけ。

それでもお昼は休憩時間として有意義に使うようにされている。


そして、テンポスでタスクをしているときに感じたが、基本的に仕事はみんな午後3時位には終わっているようだ。

しかも周りのお店を見る限り、せいぜい週4回しか働いていない。

農家においても、日の高いうちに仕事は皆終わるそうだ。


理由はわからないが、クロック王国は現代の日本と比べると、よほど税の徴収が少ないみたいだ。

おそらくそれでみんなの仕事が少なくて済むらしい。

まずクロック王国は貴族の数が少なく、王族を養うのに、それほど金がかからない。

治安維持などは、国にも軍や警察はいるものの、律動連盟が私的に権限を持って動けるので、そちらの維持費もそこまでかからない。


その他、行政に関することも結構律動連盟に投げていた。

それだけいろいろボランティアをやらされているにもかかわらず、律動師たちは日々のタスクだけでもかなり潤っている。

ただ、それはクロック王国においての話。

他国がどんな様子かは、シュンはわからない。


「頼む、お前のそのドラムセット、もっとしっかりと見せてくれ」


デコイとスーノとネリは、興味津々でドラムセットから離れない。

その後ろからジルも改めてよーく観察している。


「ジルさんも気になるんですか?」


「あ、うん、まぁね

ステラがどうしても欲しいって言ってるのよ

まぁそういう私も欲しいんだけどね」


ジルも正直だ。

ここはテンポスから離れているが、それでもみんな正直者だ。


「こんなもの本当にどうやって作っているのかしらね

皮だってこれ獣皮じゃないでしょう

皮を押さえているテンションも、何の素材なのかもさっぱりわからない

これは、異星人説が現実化してきたわ」


「はぁ…確かにぼくもこれがどうしてこんなになってるのかさっぱりわからないですから」


ズコ。ずっこける四人。

ライドンはいつも通りといった顔でニコニコしていた。


「エルトリアがこれを生産する技術を持っているのであれば、何とか知りたいな」


「エルトリ…なんですか?」


首をかしげながら、ライドンに効くネリ

それをジロリと見るジル。


「あ、これは俺の空想の話なんだよ

なんか、ドラムセットいっぱい作りたいなって」


「そうですか」


(おれとライドンにしか話してないのか

もしかして、おれがドラムセット持っていたからしてくれた話なのかな?)


五人はすぐに打ち解けた。

ライドンもシュンの見る限り何度かいざこざは起こしているが、本来気の良いやつだ。


ジルはその様子を見て、満足そうな顔をしていた。


(この五人なら行けそうね

面白くなりそうだわ。)




※補足

リムショットとはドラムのフチ(この部分をリムと言います)を叩く技。

オープンリムショットは打面とリムを同時に叩く。

クローズドリムショットはリムだけを叩く。


ハイハットとはドラムセットの左端にあるシンバル。左足を使って操作したりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ