第78話 レントにて 2 《挿し絵あり》
「おいライドン、いつまでそんな顔してるんだよ
飯のときぐらい少しは美味しそうな顔しろよ」
さすがにイラッとしたカークがライドンを詰めた。
「カークは奴から何も言われてないだろ、おれの問題なんだからほっといてくれ
まあ、飯はうまいよ ありがとパイス」
ライドンは切り替えがうまい方じゃない。ましてあんなやり取りがあった後で何事もなかった顔ができるほど器用じゃなかった。
「ライドンくんよ、あんたさ
だったらあいつに勝てるのかよ
ダルフの話だと奴ぁパイスと同レベルの実力と見ていいぞ」
「ふん
じゃあ聞くが、拍の実力があるんだったら、周りにどんな態度してもいいのか?
侯爵様のお家柄だったら、そいつを笠に着て、周りの人間をどう扱ってもいいってのか?」
ライドンも意外に正論を言ってのけた。
「カークは相手が自分より強いとわかってたらどんな態度されても平気なのか?
強い奴には、いつでもしっぽ振ってられるのかよ」
「おれは相手がどんなやつでも気に食わなかったら負けるとわかってようが勝負するつもりだよ」
「ありゃま、ライドンくん、なかなか語るね」
二人の応酬にパイスもやれやれといった感じで口を出す。
「カーク、もういい
しかし聞くところによると、そいつもそれ相応の修行を積んでるはずだから、その過程においてある程度謙虚になってていいと思うけどな」
「もともとの性根が腐ってるんじゃないか?
家柄的なものかもしれないよ」
「ふむ、スリルガン家となるとクロック王家とも《はとこ同士》みたいな関係性だからな
あれだけ格式が高い家柄だと、まあ幼少期から使用人や周りの取り巻きたちから慇懃な扱いを受け続けてきてもおかしくはないかな」
「貴族の家なんて、そんなもんなのかもな
改めてテンポスでよかったよ
テンポスには、貴族みたいな連中は1人ものさばってないからな」
ライドンは鼻息荒く、メインディッシュをがつりと口へ運んだ。
腹にすえかねていた気持ちも、これだけ悪態をつけば少しは収まるというものだ。
「ちょっと、いいかしら」
そのとき、横のテーブルから声がかかった。
突然の高い声に、皆の目線がそちらの方向へ向く。
そこにいたのは、うら若き女性だった。
かなり高貴な身分と見えて、上等な"なり"をしている。
仕立ての良い深藍の上着に、動きやすそうなロングスカート。
派手ではないが、縫い目や留め具にまで気品が漂っていて、明らかにシュンが今まで見てきた庶民の服とは違う。
真っ赤な髪の色のボブヘアーで、目の色も赤みがかっている。
大きな目にくりっとかわいい鼻をしている。耳には小さな耳飾りをつけていた。
「あなた、テンポスの律動師なの?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
ぶっきらぼうに返すライドン。
「そう、じゃ、何かスリルガン家とは関係があるのかしら?」
「ないよ、なぜおれたちが」
「ふぅん、さも気高いお家柄なのかと思って」
「そんなわけないだろ、お貴族様と一緒にするなよ」
「あ、そう」
バシャッ!!
少女は突然持っていたコップの水をライドンの顔面に向けて浴びせつけた。
「なにをする!」




