第76話 アーネス 《挿し絵あり》
「おい
どういう意味だ?貴様
子守りだと?図体だけデカいやつがほざくなよ」
こうなってしまうとライドンは狂犬そのものだ、喰らい付いて離さない。
「待て、ライドン」
ダルフがたまらず止めに入る。
「先に喧嘩を売ってきたのはあっちだろ?舐めやがって」
はっとしたように思い出すアーネス。
「お前…ライドンか?
ジルから聞いてたよ、全然修行しない不真面目なやつなんだろ?」
「怒るなよ、お前らじゃ通用しないのは事実なんだから」
「このやろう、まぐれで活躍できたからっていい気になるなよ
侯爵様がどれだけ偉いか知らないが」
ライドンは口も達者だなあとシュンは思っていた。
「ふっ、そうさ、
侯爵家のおれさまが平民の相手をしている時間はないんだ
ここに市長が来ていてな、会いに行くところなんだ、どけよ」
シュンとライドンの間をズイと抜けていくアーネス。
シュンは恐る恐るライドンの顔を見た。
ライドンの頭からは湯気がたちのぼり、顔は真っ赤に染まっていた。
眉は吊り上がり、今にも誰か絞め殺してもおかしくないような形相だ。
ダルフは申し訳なさそうにこちらを見ていた。
カークはニヤニヤしている。
「しかし、嫌なやつだな」
カークはそのままを言った。
「あんなやつで、仕方ない
でも強いんだよ、癪なことにな」
ダルフは軽く弁護している。
シュンは今まで見たことのない性悪男に衝撃だった。日本の高校生にはまずいない。
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その後は、戦後の処理の手伝いだった。
救済されたモンスターの放つリトラクスは放っておくと霧散する。
戦場には魔石にし損ねたリトラクスが薄く広がっている。
それを回収するのは律動師にしかできないことだ。
だが、ライドンはあからさまに集中力を欠いていた。
何をしても手につかない。
頭に血が昇ってそれどころじゃない、といった感じだ。
こればっかりはシュンにはどうにもできない。
パイスも持て余した様子だった。
カークが面白がってちょっかいを出すので、それもタチが悪かった。
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魔石回収も終わり、夕刻が近づく。
イーサップ聖拍院はいつもの様子を取り戻したかのように、傷病兵もいなくなり、落ち着き払っていた。
四人とも、そろそろ空腹だ。
「ダルフを呼んでこよう、この辺で美味い店が知りたい」
パイスは舌の肥えた美食家だ。美味いものには目がない。
「パイス、魔石回収はほぼ終わったんだな、ありがとう」
ダルフはこの間報告業務をしていた。
あれだけの戦いのあとだ、動けるものは皆仕事がある。
「ダルフ、このあたりの美味い店を教えてくれ
あるんだろ?」
「ああ、それが…
今日は休みだ、どこも
こんなことがあったからな
昨日はそもそも物流が止まってたし
仲間や親戚が怪我したりもあって、なんともな」
パイスは残念な表情だ。
でもそれも仕方ない、と切り替えた。
「あ、待て
ひとつだけやってるとこがあるな
でも…」
「高いぞあそこは
予算はあるか?」
「…え」
シュンは自分の懐を確認する。




