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第63話 危機

前方の2頭の狼が一斉に牙を剥き、獲物を狙うように襲いかかってきた。

やはり彼らは狩りというものを知っている。

後方待機組も、獲物の退路を絶つように絶妙な間合いの陣形を保ち、隙を見せない。


だが、イストもこの森においては無力ではない。一定の経験値があると言えた。

まずはドゥンバの低音を一発ぶちかます。


ドウン!


それだけで、ある程度モンスターの動きは止められる。


後は、リズムを解析するだけ。

狼たちの鼓動はやや速い。

速いテンポが得意なイストには有利に働くように思えた。


ところが、テンポが速いというよりは、細かな刻みが必要な、テクニカルなリズムの作りだった。


トトタツタトトタツタ


なんとなくのリズムの形はわかるが、それを実際に合わせて表現するとなると容易ではない。


ドドタンドドタンタ


イストも力を振り絞って応戦した。

ドゥンバの低音が響き渡り、狼たちも最初は近づけずにいる。

しかしーー徐々に狼たちの麻痺の効果も薄れていく。


ついに1頭が腕を目がけて一直線に噛み付いてきた。


「!」


何とかそれをかわすイスト。

だが、服は破れ、二の腕からは赤い血がじわりと滲んでいる。


それでも、リズムを止めれば終わりだ。

痛みを押し殺し、イストは呼吸を整える。

視界の隅で狼たちが再び牙を剥き、爪を突き出す。

イストは震える腕を抑えつつ、再び挑戦を試みる。


ドドタツタ…


(だめ、合わない)


一旦慣れてしまうと、ドゥンバの低音も、もはや大した時間稼ぎにはならなかった。

森の静寂に響く重低音は、狼たちにとってはもはやただの振動にすぎず、動きを止めることはできない。


次々と至近距離に迫り、牙と爪を振り下ろしてくる狼たち。

イストの体力は確実に削られていく。

腕の痛み、裂けた服の擦れる感触、血の熱さが皮膚に沁み、息が荒くなる。


(もうだめ、どうしようもない)


「タルネーッ!!助けて」


泣き叫ぶリスト。だが、タルネの姿はそこにない。


「タルネーッ!!!!」


(死ぬわ、このままだと確実に

どうしたら…?)


拍の修行は、本来長い時間をかけてやるものだ。一朝一夕でできることなどない。

だが、今日の経験の中で、何でもいい。

何か1つでも悪あがきができることがないかイストは懸命に記憶を巡らせた。


(あ、倍音……)


(多少リズムがズレてても調整できちゃうなんて、そんな夢みたいな)


イストはもうボロボロだ。両の手足ともに傷を負い、体力は限界に近い。

そんなフラフラの中で、今までできもしなかった新しいスキルを手に入れられるのか?

どだい無理な話に思えよう。


だが、人間と言うものは、極限の状態になったときに、想像を超える高い集中力を発揮することができたりするものだ。


イストはひとまず狼たちの攻撃を交わしつつ、ドゥンバのイメージを改めてクリアに思い描く。

雑念は捨て、集中するのだ。


自然とイストは目を閉じていた。

優秀な律動師は、生き物の鼓動をそれぞれ明確に感じることができるため、視力がなくても問題なく生活できるという。


それを知ってか知らずか、イストは自然に、まるでダンスでもするかのように、狼たちの攻撃をかわしていた。


太鼓とは、手の力で打つものなのか?

否、それは違う。全身の神経で1つの音に集中するのだ。

イストは狼たちの攻撃を交わすことで、自然に足に意識がいっていた。そのことで、偶然ながら両腕は今まででは考えられないほど脱力することに成功していた。


ドゥオン…!


「ギャウンッ!」


突然の衝撃に吹き飛ばされる狼たち。


(……え?

今のって、あたしが出した音なの?)


ふと目を開けると、4頭のモンスターは、警戒心を浮かべた顔でこちらを伺っていた。  


(今の音、どうしたら……)


ドン…!


もう一度試みるも、不発だった。


(だめ、自分でコントロールなんてできっこない)


彼女の中で、あきらめの心と抗う心がせめぎ合っていた。

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