第60話 襲撃
イストは多少周りから甘やかされて育ったきらいがあった。
なんといっても姉のルストの美しさは村始まって以来と言われていたから、その妹のイストも、もてはやされないはずがない。
早くに父を亡くしたこともあり、周りの皆が父代わりとなってくれた。
もちろんーーー。
顔をぶたれたことなどあるはずがない。
彼女にとってタルネは友だちでもあり尊敬できる相手。
ただ、それ以上に自分に対してだけはいつも優しく、何よりイストの言ったこと、やりたいことを最大限に応援してくれる稀有な存在だった。
それがーーー。
まさか自分に強烈な平手打ちを喰らわせてくるだなんて。
イストはショックのあまり、その場にヘナヘナとへたれこんでしまった。
タルネの怒りは頂点に達していた。
シュンは自分の心配を後回しに、イストの望みを優先して考えていたのだ。
優しいシュン。
それに対してイストのあの明らかな侮蔑する態度。
もちろんそのことを知らないイストが軽率な言動を発したとして、仕方がないこと。
説明すればいいだけ。話せばわかる…。
それでも…、タルネには許せない。
タルネにとってはシュンは女神様より大きな存在になっていた。女神様は自分が大蜘蛛に殺されてそうなとき、何をしてくれた?
命の恩人に対する侮辱、タルネの手が先に動いたのだ。
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(はっ、)
イストは一瞬呆然としたが、すぐに正気を取り戻した。
(タルネは?)
いない。
まさか、危険な森の中に一人取り残されてしまった。
あたりには複数の鼓動を感じる。
そこで、よし、やってやろうとポジティブに展開されるほどイストの頭は脳天気ではなかった。
(どうしよう…一斉に襲われたらもうダメだわ、帰り道…どっちかしら?)
すくっと立ち上がると、背伸びをして歩くイスト。
モンスターに少しでも姿を大きく見せる。それだけで簡単に襲っては来ない。
でもそれは、昼のモンスターの場合の話だ。
グルルルル…!!
(来た…!)
イストは集中した。やらないと、やられる。
まずはあたりを見回し、背中を預けられる場所を探す。
前後から襲われたらひとたまりもないからだ。
少し先に巨木を見つけたイストは、それを背にし、振動光を足元に置いた。
鼓動の数を数える。
(1、2、3、4…)
(…いけるかしら?)
ブゥン…。
頼りは自分のリズムだけだ。




