第59話 諍い
誰も見たことがない楽器を操り、女神様と会話することができる不思議な少年。
最初は嫌な出会い方だったが、だんだんとタルネが惹かれるのも無理はなかった。
何より、あの戦いーーーー。
タルネの意識は一旦は消えかけていた。
それでも懸命に呼ぶ友の声。
なんとかうっすらと瞼を開いた瞬間、忘れられない光景が焼き付いてきた。
あの巨大な蜘蛛の口に両足をかけ、タルネを支えながら踏ん張り続ける青年がそこにいた。
まだ出会って数日のタルネを、自らの命をかけて守ろうとする姿がいかに衝撃的だったか。
シュンが蜘蛛に呑み込まれかけたときのタルネの絶望は計り知れない。
タルネがあのとき意識を失ったのは、毒によるものではない。失望と悲しみからだった。
病室で目を覚ましたとき、自然とタルネは真っ先にシュンを探していた。
タルネはイストが好きだった。
幼少期からほとんど口を開かないタルネを、周囲はどこか畏れ、進んで近づこうとする者は少なかった。
誰とでも分け隔てなく接するイストだけが、積極的にタルネに関わってくる存在だった。
そんなイストがタルネにとっては頼もしくもあり、心強くもあった。
そのイストにも、シュンは優しかった。
記憶喪失で自分の身も安心できない、心細い状況だろうに、それでもイストの欲しいものを心配している。
あの瞬間、タルネは決意した。シュンのことを支えたい、と。
タルネにとって人生は色の無いものだった。
神座の家系に生まれ、将来が決められた生活。
神座は代々女性。
二人の弟がいるタルネは、自分が将来神座となり、弟を側付きとして従えるようにと周りから諭されている。
そのことを何も疑うことなく生きていた。
でも、
自分が本当にやりたいこと、なりたいもの。
それを見つけたい。
自分の人生を謳歌してみたい。
心の奥底ではそう叫んでいたのだった。
しかし、社会がそうはさせない。
そんな中、シュンがタルネの価値観を変えたのだった。
シュンと一緒にいたい。
シュンの望む事を叶えてみたい。
その気持ちがようやく芽生えた瞬間だった。
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「タルネ、あなたね、
何を言ってるかわかってるの?
シュンなんてどこから来たかもわからないただの素浪人じゃない」
「………イスト」
「あなたは将来の神座なのよ?
それが、どこの誰かもわからないやつに…だめよ!」
「…………イスト」
「タルネはわかってないわ、自分がどんな存在か
相手はもっと選ぶべきよ」
「……………イスト、いい加減にして」
「シュンがなんなのよ、何者かもわからないんだから、あなたのことなんて置いてどこかへ行っちゃうかもしれないのよ!」
バシッ!!!




