第6話 経験値
街道へ向かって歩き出そうとした、その時だった。
「待って、シュン 大事なことを忘れてた。」
ユウナの声に、シュンは足を止める。
「ステータスの見方ちゃんと教えるわ、頭の中でステータス表示をイメージしてみて」
「うん、やってみる」
また半透明の不思議なモニターのようなものが出現した。
NAME:SHUN
AGE:16(16才)
RACE:OTHERWORLDER(異世界人)
LEVEL:120
「……レベル、120?」
シュンは眉をひそめる。
確か、最初に見たときも、それくらいだったはずだ。
「え、ちょっと待って」
思わず声が漏れる。
「さっきモンスター、二体も助けたでしょ、しかも結構大きいやつ
レベル上がったりするんじゃないの?」
ユウナは空中でぴたりと止まり、首をかしげた。
「……どうして上がってると思ったの?」
「いや、だって」
シュンは戸惑いながら言葉を探す。
「敵を倒したら経験値もらえて、レベルアップするんじゃないの?
ゲームとか、そういう……」
ユウナはくすっと笑った。
「そんな単純じゃないわ」
そして、少しだけ真剣な声になる。
「ねえ、シュン。あなた、さっきの戦いで“何を得た”?」
「え?」
「力? 技? それとも……何かが変わった感覚はあった?」
シュンは言葉に詰まる。
思い返せば、確かにドラムを叩いた。
世界と拍が合った感覚もあった。
けれど——
「……正直、よくわからない」
ユウナは頷いた。
「でしょうね」
「この世界のレベルは、数をこなした証じゃないの
拍を“どう理解したか”、あなたが変化したか——
そして、それをちゃんとリズムで表現するところまでできるのか、それが能力として映し出される」
シュンはもう一度、頭の中の数字を見る。
全く変わっていないレベル表示。
「……結構、過酷だな」
ぽつりと漏れた言葉に、ユウナは少しだけ微笑んだ。
「ええ、でも」
「だからこそ、本当に強くなった人だけが、ちゃんと上がるのよ」
シュンは深く息を吐いた。
(ゲーム感覚じゃ、やっていけない世界か……)
——その事実だけが、はっきりと胸に残った。




