第58話 馬車にて
パイスに連れられて、シュンとライドンは乗用席から後ろに移動した。
馬車の後ろはただの荷台かと思いきや、なんと寝室になっていた。
3×4メートルほどの空間で、簡単な寝袋が積んである。
「すごい…キャンピングカーみたいだ」
つい口に出るシュン。
「キャンピング…なんだって?
すごいだろ、この馬車のレンタル料は1日16万クランだからな」
「げ…どうなってんだよ、イーサップは
そんなに儲かってんのか?」
「ふっ、金に糸目は付けないから急いで来いって話だったからな
まあ実際にイーサップは魔石の回収量はクロニアを越えて王国トップになってるしな」
「二人ともいいか、イーサップまで70キロ近くある
ビブラハーネスを付けた4頭引きでもまあ12時間以上かかるだろうから、寝る時間以外にもたっぷり修行できる時間があるよな」
(ビブラハーネスってなんだ?
馬たちの足につけてる補助器具みたいなやつのことかな…)
「パイス…知ってると思うけど、おれたち朝からあのステラの修行に付き合わされてたんだよ…
おれなんか4回も失神してて……」
言い終わる前にライドンの声は寝息に変わっていた。
「パイスさん、ライドンは今日やり過ぎたんだと思います」
「おれにはしっかり修行をつけてほしいです
お願いします!」
「おう、そのつもりだ
まかしておけ」
優しくライドンを抱えて寝袋の上に乗せるパイス。
「そうだ、イーサップにはお前たちと同じくらいの年頃のすごい兄妹がいるらしいぞ」
「マーシャの話だと…こいつより有望なんだってさ」
チラリとライドンに目をやるパイス。
「えっ、それは、会ってみたいです!」
「そうだな、特に兄貴の方は拍は覚えたてなのに300近くのレベルだそうだぞ、
まいるぜ、お前ら世代はさ…」
(す、すごい…!)
パイスはやれやれといった感じで首を横にふったが、その表情はすごく嬉しそうな感じだ。
「シュン、お前は8ビート以外にも
16ビートやゴーストノートはできるんだろ?
どれくらいのことができるんだ」
「待ってください、今やって見せます」
ブゥン……!
「…おい、なんだこの綺麗な白いドラムセットは…!
しかもお前なんかうっすら輝いてるけど、まさか」
シュンは照れ笑いを浮かべた。
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あたりは一面の闇だった。
振動光による明かりはせいぜい自分の数メートル周りしか照らさない。
漆黒の中をタルネはひとり歩いていた。
普段激昂することなどまずない、
むしろ人生で初めてかもしれない。
ーーータルネにも悩みはある。
当然だ、十代半ばでなんの悩みもなく悠々と生きている若者などどこにいる?
タルネは語らない。
自分の事を語ることに意味を感じていなかったから。
興味がなかったと言っていい。
でもそれは助けが必要ないわけじゃなかった。
タルネは求めていた。自分をぶつけられる誰かを。
そんなタルネに初めての相談相手ができた。
それほどに尊敬できる者と出会えたのだ。




