第54話 異変
ステラの表情はいつものようにイラついている感じだが、今はその中に若干切迫したものも感じられた。
あたりはもう薄暗く、これから夜になろうという時間帯だ。
ステラは片手に振動光と言われるランプのようなものを持っている。
そのおかげで、あたりは、10メートルほど明るくなっているが、とにかく出かけるには遅すぎる時間だった。
「何かあったんですか?」
「あったに決まってるでしょう
あんたたち、二人とも連盟の正規律動師なんだから、さっさと命令を聞いて働きなさい」
何かのっぴきならない事情がありそうな雰囲気だった。
「聖拍院まで行って、パイスが待ってるわ」
「ステラさんは行かないんですか?」
「さあね、私まで借り出されるようになったら、非常事態かもね」
何が何だかわからないまま、2人は夕闇の中を駆け出していった。
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「あ、パイスさん」
「おお、こっちだこっち」
テンポス聖拍院の前には、大きな馬車が止まっていた。
4頭引きの作りで、遮眼帯をつけた馬たちはそれぞれシュンの知るサラブレッドのサイズよりひと回り大きい。
さらに足には見慣れない器具がついており、以前見た振動計の作りとよく似ていた。
馬の力を補助するものなのかもしれない。
老齢の男が御者のようだった。
乗用席が4名分ほど、その後には白地に綺麗な装飾の入った4メートルくらいの荷台が取り付けられていた。
よく見ると車輪にも似たような器具が取り付けられており、やはり補助具のように見えた。
パイスはその横で二人を待っていたようだ。
「パイスさん、何事ですか?」
「とりあえず行きながら教えるから乗れよ」
「わかりました」
シュンが車体に足をかけ、勢いよく中に入ると、同じテンポスの制服を着た男が先に入っていた。
年の頃は、20代後半から30歳位に見える。黒髪に短髪、前髪が上に跳ね上がっている
色白で、大きな目をぎょろぎょろさせていた。
顎がシュッと尖っていて、鋭い印象の顔だった。
「よっ、シュンだったな
俺はカークだ よろしくな」
「あ、シュンです
よろしくお願いします」
「丁寧なやつだな
パイスからいろいろ話は聞いてるよ
お前の楽器見るの楽しみにしてるよ」
よかった、優しそうな先輩だ。
シュンはちょっと安心した。
ライドンとパイスも乗り込んでくる。
当然カークとは顔見知りだ。
「これからこの4人でイーサップに急行する。
夜道の馬車だ 非常に危険だが、そうも言ってられない事態でな」
すぐさま馬車は走り出した。
悠長に待たせてなどくれない。
すごい1日になったな、とシュンは思っていた。
驚くことに馬車の乗り心地は非常に良く、ほとんど揺れを感じなかった。
この世界は、振動に関することだけとんでもなく進んでいるみたいで、シュンにはそれがおかしかった。
「何があったんだ?」
ライドンは興味津々に聞いた。
「ああ、詳しくはわからないんだが、救援要請だ」
「イーサップに新しく発生したモンスターポイントがあるだろう?
あそこなのかまた別の場所なのかはわからないのだが、ちょっと考えられない数の個体が突然出現したそうなんだよ
しかも一体一体がかなり強力らしい」
(え、それって…)
シュンは、嫌な予感がした。




