第53話 護りの光
その音は寺院全体に鳴り響いた。
もちろんその日の参拝者50人ほどは、全員が何事かと驚愕した。
周りをたまたま通り掛かった人たちも思わず足を止め、眉をひそめた。
並の大きさの音ではない。
それは爆発音にすら匹敵する轟音だった。
多くの者が反射的に耳を塞ぎ、
その後もしばらく耳鳴りが消えることはなかった。
「シュン、あなた一体何を…」
「いや、これは…」
ドラムセットの周りに、いくつものマイクが設置してあった。
シュンは思い出した。なぜそんなにライブハウスのドラムが気持ちよかったのかと。
ライブハウスでは、生音じゃない。
耳をつんざくほどの激しいボリュームが出るのだ。
もちろん、マイクロフォンの構造やスピーカーの仕組みなどシュンが理解できているはずもない。
だが、ここはそういったものを必要としないイメージの強さが、全てを物語る世界だった。
「思い出しました、この気持ちよさ
ドラムのブランド名はラディックでした」
シュンのドラムセットの胴の部分には、ラディック《Ludwig》とロゴが入っていた。
そして今まで曖昧だったドラムの色も、白に綺麗なラメ入りに統一されていた。
「音の大きさもそうだけど、何なの?そのクリアな鳴り方は?」
ステラが驚いたのは、大きさもそうだが、現代の音響技術によって洗練された雑味のない美しいトーンだった。
「…多分PAさんがEQをいじった後の音を僕がイメージしてるからなのかもしれません」
タンッ!タンッ!
今度は控えめな音でスネアをサウンドチェックするシュン。
「やっぱりライブはこうだよな」
ワナワナ…ステラは信じられないといった表情だ。
「シュン、あなた体が…」
ふと、イストがシュンの異変に気づく。
「あ、それってパイスが言ってたやつじゃないのか?」
ライドンが嬉しそうに口を挟んだ。
そう、シュンの周りには、黄金色に輝く光がわずかに浮かび上がっていた。
「それが護りの光よ、今は少しだけどね
でも、あなたって何なの?ものの半日でこれができちゃうってどういうことよ?」
さすがのステラも脱帽だった。
片手で額を押さえながら、ふうと息を吐き出した。
「軽食を用意してあるわ、一旦休みなさい
ここの皆さんにも説明して差し上げないといけないからね」
四人の顔に笑みが戻った。
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「シュン、そっちに行ったぞ」
「オーケー、対処する」
ドンッッタンッッドンドンタンッ
空気が震える。
シュンのリズムは森全体の生き物に影響与えるかのようだった。
メトルの森のモンスターたちでは、もはや相手にならない。
ライドンは小さな嫉妬抱いていた。
(こいつたった1日で別人になりやがった
今までは女神様の加護があったから特別な目で観てたけど、もう実力的にもライバルと認めるしかない)
「ギャウッ!」
この森では中級クラスのモンスター、キラーウータンでも、今のシュンにかかってはイチコロだった。
「すげえ…」
複雑な感情だったが、相棒としてここまで頼れる奴になってくれたのは、ライドンには嬉しいことだ。
「あっちはどうなってるのかな?」
「わからないけど、イストのやる気はすごかったからなあ」
二人ずつのタックで別れて討伐をするメンバー。
ステラ的にはやはり連盟の正規律動師と外のプレイヤーを一緒にタスクに向かわせるのは嫌だったらしい。
「もうほとんど片付いてしまったな」
「そうみたいだね」
ほとんどのモンスターは、彼らには相手にならなかった。
「おーい、終わったの?」
「あ、イストだ
そっちも終わったのか?腹減ったよ」
あたりはもう日が落ちかけて薄暗くなっている。
「シュン。あなたの音どこにいたって聞こえたんだけど
何なの?すごいわね」
「シュン…かっこいい…」
一皮むけたシュンは誰が見ても、頼りがいのある男に成長していた。
森から出るとステラが待っていた。
「あれ?ステラここまで来てくれたんだ」
ちょっと嬉しいライドン。
「あなたたちまだ動ける?」
「え、なんですか?」
「ライドン、シュン、二人ともすぐにイーサップに向かってちょうだい」
二人は目を見合わせる。
「今からですか?」




