第37話 指導
「ライドン、あなた、このところサボってるって噂あったわよ
ほら、やってみなさい」
BPM100
ドンドドタンタタツドツタタンドタ
ツッタカタタタタドタツドツタ[タドドドドド]3
(え、そんな難しいのやるの?)
シュンにはとても無理なリズムだった。横を見ると、ライドンの表情も曇っている。
「行くぞ!」
ドンドドタンタタツドツタタンドタ
ツッタカタタタタドドド…
前半のリズムも、上手くやってるようには見えるが、完璧にコピーできているかと言われればヨレて聞こえた。
「グゥ…」
明らかにダメージを受けているライドン。
「やっぱりまだまだね、あなた
下のやつだとつるんでる暇あったのかしら?」
このセリフは、二人にとっても堪える一言だった。
「まだよ」
ステラの体は青い光に包まれて見えた。
心なしか耳元のリングも輝きを増したように映る。
ブゥン…
次の瞬間、ステラの体の左前面に金属の円盤が出現した。
(あれ、これってシンバルじゃ)
その形は確かにシュンの知るシンバルとよく似たようなものだった。
しかし、彼の世界にあるような綺麗な円形ではなく、所々凹みもあって、手作り感が見て取れた。
「あんたむかつくわよね、たいした実力もないくせに、シンバルだけは綺麗な音鳴らしちゃって」
「あ、やっぱりシンバルなんだ」
一瞬シュンの方をチラリと見て一言吐き捨てたかと思いきや、またライドンに向き直るステラ。
BPM150
ジャンタンドドタンドタツドジャンドタ
ジャンタジャンタジャタタカタカタカタカドンジャ
「ステラ、それは厳しいよ」
「早くやりなさい」
ライドンはシンバルをイメージしようとするが、形が出てこない。
仕方なく、その高音をドゥンバで再現しようとするものの簡単ではなかった。
トンタンドドタンドタツドカン…
「うぅっ」
膝をつくライドン。
「修行が足りないのよ」
さすがのパイスも、それを横目に冷や汗をかいていた。
「ステラ、それ指導の域を超えすぎだろ
まぁいいか」
「シュン、今度はお前から来てみろ」
「は、はい!
えーと… 」
シュンにできる事はごくわずかだ。
もちろん、彼にもエイトビート以外のパターンはいくつもできる。
でもそれは、この緊張感のある場面で確実に結果を出せるものかと言われると難しかった。
(まずは自信のあるエイトビートしかない。テンポもできるだけ速く
パターンは2〜3種類で何とかやり過ごしてみよう)
BPM145
ドンタンドドタンドンタドンドタン
ドンタンドドタンドドタドンドタン
シュンには精一杯の攻撃だ。
しかし、パイスはその攻撃をコピーしようともしない。
ビィン!
空間の中で何かが弾けたような音がした。
「シュン、お前の攻撃は返すまでもないんだよ
今俺がドゥンバを出して、臨戦体勢を取ってるだろ?
俺の周りにうっすら光が見えるか?」
よく見ると、パイスの周りに薄っすらと黄色い光が見えた。
「確かにモンスターは、メトルの森あたりだとある程度こっちの攻撃を待ってくれるやつも結構いる
だが、そうでもないやつもいるぞ
こないだの大蜘蛛みたいに」
ドキリとするシュン。
「こっちが臨戦体勢を作ることで、うっすらバリヤーが張られている状態になる
そうすると物理攻撃にも耐性ができる」
「いいかシュン、律動師っていうのは、ただ太鼓が叩けて、モンスターを倒し、タスクがこなせるってわけじゃない
実際の人間同士の戦闘にも使えて、明らかな戦闘能力として国からも支援されてるんだ」
初めての情報に驚くシュン。
拳をぐっと握り込んで見せるパイス。
「律動連盟の掲げている世界の平和と均衡の実現というのは、ただ女神様を信仰してればいいってわけじゃない
今も実力でそれを成し遂げているってことなんだよ」
フッとドゥンバを消すパイス。
疲れた様子もなく、にこりと笑う。
「俺とお前では実力差がありすぎたな
ひとまず今日はこんなもんでいいだろ、
お前は合格だよ」
「え、何もしてないのに」
「ボスはお前が欲しくて仕方がないんだよ、不合格になんてしたら、俺が大目玉を喰らっちまう」
ホッとしたシュン。
実はこの後のパイスの攻撃が怖くて内心はビビってたところだ。
「シュン、
ゲームをするときは、慣れてる律動師なら基本的にフィルインで戦うものなんだ
お前はできるフィルインもあまり多くないんだろう?」
シュンは一瞬だけ視線を落とした。
ただ状況を受け入れるように、小さく頷く。
とても否定できない。
「よし、これからは毎日俺のところに来い。
まずは、フィルインの種類を増やせ
そしてリズムだが、まずはエイト一辺倒はやめないとな」
「俺のところにいるうちにゴーストノートと16のうまい使い方だけできるようにしないと」
「え、それって」
「ジルに習うつもりなんだろう?
あいつは俺みたいに優しくないからな
先にある程度実力を付けておけよ」
「普段の呼吸から大事にしているんだ、奴のストイックさはヤバすぎるぞ
そうだろ?」
ふと、ライドンの方を見るシュン。
「シュン、肩を貸してくれよ」
「あ、ごめん」
肩を貸すシュン。
「呼吸だよね、おれ全然できないんだよな
それがあったら、ステラにも勝てるんだけどな」
「殺すわよ」
刺すように見下ろしながら言うステラ。
(こんな人いるんだ…)
シュンは大蜘蛛とはまた違う恐怖の対象を1つ増やした。
「じゃあ後は戻って筆記試験だけだな」
にっこりと微笑むパイス。
よもやシュンが筆記試験で苦戦するとは1ミリも思っていない。
(…やばい…そうだった……)




