第34話 回想 2
「えっ、ライドンの師匠だったのか!?」
「そうだよ、いきなりでびっくりしたよ」
「とは言っても、俺は安心してそのまま気を失ってしまったから、その後の事はわからないんだけどな」
ライドンは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。
「お前らを運んだのは俺だよ、感謝しろよ」
気づくと、ドアの近くの壁にもたれかかって腕組みをしている男性がいた。
「パイスさん、、、」
「野郎2人を運んだんだから、なかなか骨が折れたぜ」
そうは言うが、相変わらず筋骨隆々に鍛え上げられた体はその言葉に説得力を持たせなかった。
「あの、それで大蜘蛛はどうやって倒したんですか?」
「あれはやばかったよ、本当に」
「最初は、俺とステラの2人で助けに行く予定だったんだけどさ、
たまたまジルのやつが、こっちに用事があったから弟子の姿を見たいって、ついて来てくれることになったんだよ」
「クロック王国随一の使い手の申し出を無下に断るわけにはいかんからな」
(ライドンのお師匠さんは、そんな凄い人だったのか)
改めてライドンの実力が裏付けられたような気がしたシュン。
「でも正直なところ、二人だけだったら、お前らを助けられたか、ちょっと自信なかったぞ」
「ジルさんは本当に本当にすごかったの!
見たこともない楽器で、とんでもない連打を詰め込んで、手の動きが何にもわからなかった」
「本当に凄すぎたの!
私も、ジルさんみたいになりたいわ
ライドンはずるいわよ、あんなすごい師匠がいるなんて」
イストは興奮気味に語った。
「あんな蜘蛛の化け物、一瞬にして砕け散ったわ」
ドヤ顔のイスト。まるで自分の手柄のようだ。
「おい、それは言い過ぎだろう、
まあジルが凄かったのは事実だけどな
俺ができたのは足止めだけだったからな」
「しかもあのモンスターだけどな、元の姿に戻る様子がなかったんだよ
もちろんリトラクスも無くてさ」
「何やら奇妙なやつだった、
調べたいんだけど、あの後天井が崩れてしまってな…すぐには調べに行けないんだよ」
やっぱりあの様子は、この世界でも異様だったんだな。シュンはそう思った。
そして、あの黒い扉のこと…。
思い出したくないけど、頭からこびりついて離れない。
「そういえば、ジルさんにお会いすることはできないんですか?
助けてもらったお礼もそうですが、僕は律動師の修行をお願いしたくて」
「おい、まず俺に礼を言えよ」
パイスは食い気味に突っ込んだ。
その場は笑い声で包まれた。
「パイスさん、あなたは命の恩人です
本当にありがとうございます」
心から礼を言うシュン。
「なんだかむず痒いな
まぁ、いい」
「ジルは忙しいやつだからなぁ、昨日まではいたんだが、今頃は確かイーサップの街に行っているはずだ」
「というか、クロニアの律動師はレベルが高すぎるから、どいつもこいつも引っ張りだこで同じ街に何日もいないんだよ」
「お前ら、本当に運が良かったとしか言いようがない」
パイスは、聖拍院で初めて会った頃とは違い、どこか優しく温かい。
シュンは、自分が仲間として認められた気がした。
「ところで、なぜあのピンチのタイミングで来てくれたんですか?
どうやって気づいたんでしょうか?」
「ああ、俺たちは最初からボスの命令でダンジョンの入り口のところで待機してたんだよ」
…なんと、ボスの計らいだったのか。
「突然大きな鼓動がドォンドォンと鳴り出すから、こっちも慌てたんだぜ
それに…」
パイスはポケットをゴソゴソとやった。
「こいつをライドンにつけてたからな」
パイスは片手を挙げ、手の中にある小さなブローチのようなもの見せてくれた。
「これは…発信機ですか?」
「発信機っていうのはちょっとよくわからないけど、こいつは振動計と言って、ライドンの感情を測るものなんだ」
「こいつをライドンにつけて、心に急な動きがないかその都度チェックしてたんだよ。
中の方で馬鹿でかい音が響いて、ライドンの呼吸も荒くなってたから、こいつはまずいと思って、全員で突入したんだ。」
「そしたら鉄の棒やら回転刃やら、仕掛けがガンガン出てきて、すぐにはお前らの元にたどり着けなかったんだよ」
(なるほど、それならあのタイミングで、ちょうど俺たちを助けに来れたのも納得できる)
「あの蜘蛛野郎の鼓動は、ある程度の適応力とレベルがないと感じられないから、お前らにはどうやっても倒せなかったと思うんだよ」
(とんでもない相手と戦闘することになっちゃってたんだな)
シュンは身の毛も立つ思いだった。
「ところでな、シュン」
ふと真面目な顔になるパイス。
「なんですか?」
「ボスからお前が目を覚ましたら教えるよう言われてるんだ
ここはテンポスの聖拍院から目と鼻の先だ、起き抜けで悪いが連れて来てもいいか?」
「ボスがですか?
はい、大丈夫ですが」
「大事な話らしい、心の準備をしておけよ」
真剣な顔のパイスに気押されするシュン。
(なんの話だろう…?)




