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第30話 レゾヌス遺跡 4

「タルネ、どう無理なんだ?

リズムで示してもらえるか?」


ライドンが納得できない表情で問いかける。

タルネは無言でリズムを書く。


(これは確かに…ちょっと無理がある)


リズムのかたちは明らかに4つの音が重なり合ってる箇所を含んでおり、ひとりで表現するのは限界に見えた。

シュンのドラムなら足を使う分、理屈の上ならできるかもしれない。


でも、そのリズムは常人の域ではない。

テンポはミディアムだが、左足を安定して踏み続け、右のキックは16分を連発。

左右の手も動かし続けながら、しっかりフィル。


これはジョンボーナム級のテクニックがないと表現しきれないのでは?とシュンは判断した。


四人の間に沈黙が流れた。

地下の室内は今もドウン、ドウンと小さく揺れている。

まるでそこに挑む人間を急かすかのように。


それでも、やるしかない。


ドドドドタドドドタドドタンタドタ


意を決したライドンがドゥンバでなんとか再現を試みるも、どだい無理な話だった。

ーーみんなは気づいてない。

タルネの書き出した記号は、おそらくハイハット。シュンは直感していた。


(このリズムを書いた人はおそらくドラムをやっていたとしか思えない…

古代人たちはドラムセットを持っていた…?)


とはいえ、自分がそのリズムをできるわけじゃあない。

何か方法はないか…。

シュンの脳裏に浮かんだのは先輩が教えてくれた指導だった。


ーーーーーーーー


強い西陽が、校舎の窓を斜めに染めていた。

廊下の床に伸びる光は、ゆっくりと形を変えながら、放課後の時間を告げている。


校舎二階の視聴覚室。

部室のドアは少しだけ開いていて、そこから夕方の光が差し込んでいた。


放課後の部室は、いつも少しだけ湿った匂いがした。

古いTAMAのドラムセット。

使い込まれたタムホルダーは、同じ角度にしか調整できない。


シュンはスツールに腰掛け、膝の上でスティックを転がしながら、譜面を二人の先輩に差し出した。


『……このリズムなんですけど』


先輩の一人が譜面を覗き込み、無言のままエアーで軽くハイハットを刻み始める。


『これができないか』


『そんなに難しいやつじゃないな、

シュン、お前足のコントロール苦手だろ』


先輩はおもむろにシュンからスティックを取り、自らハイハットを刻み始める。


『ハットはさ、おれがやるから足と左手だけやってみろよ』


『わかりました』


シュンは半信半疑で試してみた。


ひとりではとても成立しなかったリズム。

だが、右手を抜き、他の動きに意識を集中させると――

なんとか付いていくことができた。


練習の末、結果的にシュンは苦手だったそのリズムをひとりでも見事に叩き切ることができたのだった。


ーーーーーーーー


(苦肉の策だけど、これしかないかも)


「みんな聞いてくれ、この中音と高音はおれがやる

低音だけ、ライドンやってくれないか?」


「なるほど

二人なら、やれないこともないな」


楽器を出現させ、演奏の体勢に入る二人。


「1、2、3、4」


ドドドドタドドドタドドタンタドタ


リズムの基本は変わらない。

だが間に差し込まれるハイハットとライドシンバルの高音が、欠けていた輪郭を埋めていく。


「あと少しだ、シュン

心を合わせよう」


「わかった」


二人は合奏を試みた。

意識を集中してお互いのリズムに寄り添っていく。

それは極上の時間でもあった。


しばらく演奏するうちに二人の息が完璧に合ったと思われる瞬間が訪れた。


そのとき、


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…。

石壁が、ゆっくりと動き出した。


「やった!」


思わず目を見合わせ、ハイタッチする二人。

イストも勢いよく飛びついてきた。


「すごい!できちゃった!」


石壁の奥には地下へと続く階段があった。

発光草を用意するライドン。

しかしーー。


「なんだろう、奥の方が」


階段の奥が薄ぼんやりと光っている。

発光草がなくてもなんとか目が効くほどに。


恐る恐る四人は階段を降りていく、向かうほどに光は強くなり、中の様子がわかってきた。


「これは、電気じゃないか」


「シュン、なんだそれ?」


ハッとして口を押さえるシュン。


「いや、なんでもない

何か見たことがあるような気がして」


「この発光体がか?お前すごいな」


「いや、わからない

そもそもおれは記憶喪失だし」


なんとか誤魔化したいが、その余裕もない。

さらに中の雰囲気を見て唖然とするシュン。

まるで理科室、何かの実験をしていたように見える。


上の階では大きなガラスケースで書籍や標本からもコレクション部屋と言われたらそうにも見えたが、今回は違う。


「薬を作ってたんじゃないかしら」

「練っていたような跡がある、薬師の人が作りそうな入れ物もあるけれど

でも不思議なかたち」


ビーカーのようでもあったり、フラスコのようでもある。

シュンには明らかに薬品を開発したようにしか見えない。


「この光、音と通じてる」


タルネが気づく。

おそらくさっきから鳴り始めたドウンという部屋鳴りと連動している。


四人は、この場所が明らかに異常だと悟り始めた。

背中をなぞるような、恐怖に似た感覚。


「……」


誰も言葉を発しなかった。

ただ、吸い込まれるように歩みを進める。

多くの器具が無造作に置かれた室内を通り過ぎ、

部屋のいちばん奥へ進むと、不気味な黒い扉があった。


黒い扉は、周囲の光を吸い込んでいた。

いや、吸い込むというより、光が逃げているように見えた。

息を吸うたびに、胸がわずかに締めつけられる。

この場所そのものが、人間を拒んでいる。


「ボス……幹部……入室」


タルネが読み上げた。

この扉は、誰でも受け入れる場所ではない。

入室を許される者は、ほんのひと握りのようだ。


「だめ…このリズムは

本当に」


タルネは、声を震わせながら言いかけた。


その瞬間、これまでうっすらと鳴り続けていた鼓動がいっそう大きくなった。


ドガァンッ!ドガァンッ!


「なんなの?この音!?

嫌!気持ち悪い!」


「周りを警戒しろ!何か来るぞ」


四人に焦りが走る。

そのときーー不意に周囲の床が軋み、鉄棒が次々と出現した。

一瞬で、檻のように四人を囲い込む。

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