第29話 レゾヌス遺跡 3
それは、到底この世界のものとは思えないほど、無機質で異質な機械だった。
上部は巨大な一枚のガラスに覆われ、その奥では淡い光が層を成して揺れている。
中央部には、ボタンのような突起がひとつだけ設けられており、
一定の間隔で、薄青く、脈打つように明滅していた。
その光は、単なる信号には見えなかった。
呼吸のようであり、鼓動のようでもある。
――まるで、こちらを待っているかのように。
「…なに?これ」
イストが思わず声を落とし、気味悪そうにタルネの背後に隠れた。
タルネは一歩も動かず、その機械を睨み続けている。
近づいてみて初めて分かった。
装置の側面には、細い目盛りが刻まれており、
針が一点の数字を指している。
(何かのメーターみたいだな)
タルネはひとまず、周囲に積まれた書物へ目を走らせた。
だが、どれも専門用語ばかりで、手がかりになりそうな記述は見当たらない。
部屋は、想像以上に広かった。
シュンの感覚では、スタンディングで500人は入るライブハウスほどの広さがある。
それだけの空間が、無言で彼らを包んでいた。
四人は手分けして、部屋の隅々までくまなく調べた。
壁、床、天井、扉――
だが、隠し通路も、操作盤らしきものも見つからない。
結果、行き止まりだった。
「……詰んだ、か?」
誰かがそう口にしたとき、
自然と、全員の視線が同じ一点へ集まった。
やはり…
この機械が、何かの鍵なのではないか。
タルネには、その機械が単なる光ではなく、
自ら鼓動を発しているように見えた。
規則正しいようで、どこか歪んでいる。
一定ではないが、完全な乱れでもない。
「……拍
女神様の鼓動だわ」
タルネは床にしゃがみ込み、
その鼓動を頼りに、リズムの取り方を書き出していく。
刻まれていくのは、少し複雑なリズム。
しかも、低音と高音だけではない。
音の高さ――音階までもが含まれているように思えた。
「……これ、ひとりのドゥンバじゃ無理だな」
ライドンが低く呟く。
音の種類が多い。
ドゥンバで再現するには、明らかに限界があった。
「待って」
シュンが、タルネが書いたリズムの形を覗き込みながら前に出た。
「…たぶん、難しそうだけど
ドラムセットなら再現できそうな気がする」
タムを使った複雑なフィルインだったが、シュンはやってみた。
ドンッッタンッッドンドンタンタタ
ツタタタタントトツトトトテテドゥドゥジャン
なんとか叩き切ると、
低く、重たい音が部屋に残った。
直後、機械が反応する。
薄青い光が一瞬だけ強まり、
その前に、半透明の画面が展開された。
空中に浮かび上がるのは、
ステータス表示のような、簡素な文字列。
「これは
→○○移動
→○○制御
→○○解析
みたいな意味と…思う
全部わからなくてごめん」
タルネが読んでくれた。
「……どうする?どれか選択してみる?」
シュンが、画面から目を離さないまま皆に問う。
一瞬、沈黙が落ちた。
引き返した方がいい、という考えが、
全員の胸をかすめたのは確かだった。
それでも、
ここまで来てしまったという気持ちと、
目の前の未知に触れてみたいという衝動が、
その臆病さを、少しずつ押し流していく。
まだ十代だ。
恐怖よりも、好奇心の方が、ほんのわずかに重かった。
「選択だけ、してみようか」
ライドンが言う。
「うん
制御と解析はよくわからないけど、移動っていうのはこの先に進めるってことよね?多分」
イストもだいぶ乗り気だ。
「やってみよう
タルネ、選択してみてくれ」
「うん」
タルネは一番上の項目を選択した。
そのとき、部屋全体がドンと鈍い音を立てて揺れた。
「っ……!」
振動が収まると同時に、
部屋の奥、何もなかったはずの場所から、
石壁のようなものが、せり上がるように出現していた。
どういう仕掛けだろう。
四人は、自然とその壁へ向かって歩き出す。
その間も、
ドン、ドン、と、一定の間隔で低い音が鳴り続けていた。
(……これ、崩れたりしないか?)
シュンの脳裏を、不安がよぎる。
だが、それ以上に――
あの石壁から、目が離せなかった。
石壁の前まで辿り着いた。
先ほどまで部屋に響いていた音は小さくなっている。
だが、その代わりに、
空間そのものが、脈打っているように感じられた。
まるで、長い眠りから覚めた生き物が、
ゆっくりと呼吸を取り戻していくような感覚。
今までとは、明らかに違う。
誰も口にはしなかったが、
四人とも、同じことを察していた。
これは――
踏み込んではいけない段階に入ったのだと。
石壁の中央部には、やはり文字が刻まれていた。
タルネが近づき、指でなぞるようにしながら、
読める部分だけを拾っていく。
「……リーダー……?」
「……資格のある者のみ、進入可……」
一度、言葉を切り、首を振った。
「……とても難しいリズム
要求されてる
これは……無理」
三人は、無言で顔を見合わせる。




