第27話 レゾヌス遺跡
「あの……ボス、わたしは、その…」
口篭るライドン。
滴り落ちる汗がライドンの視界をジワリと遮る。
「すみません…ボス」
うなだれるライドン。
(シュン…みんなすまん
やっぱり無理だ)
「何がすまないんだ、申し開きしてみろ」
(ああ、どうしたらいいんだ…
おれにできることは…)
ライドンは今すぐにでもその場を逃げ出したかった。
ただ、逃げ場がなくなった彼の中に少しずつ闘志が湧いてきた。
仲間がいることが彼にそうさせたのか。
「ボス、お言葉ですが、
律動連盟が世界の全てではありません」
歯を食いしばり、震えを押し殺してなんとか言葉を搾り出すライドン。
「シュン…、ここ数日一緒に活動しているアマチュアの律動師の彼は、見たこともない楽器を奏でられます」
「テンポスの律動師では表現できないリズムも彼はやってのけると思われます」
ライドンの意外なセリフに内心は驚くも、相変わらず鋭い眼光を浴びせ続けるボス。
「オームの神座は女神様と交信できます」
「…それはこの上なく貴重なことです、
レゾヌスの遺跡に女神様を祀るものがある限り、彼女たちに頼ることが道から外れているとは言えないはずです」
「以上のことからわたしは自分の行動が拍の根幹を探求するという律動連盟の意思に反していないと信じています」
しばし沈黙の時間が流れた。
「なるほど、理念としては正解と言える
しかし貴様の行動は組織に属するものとして不自然であることは確かだよな
その点はどう弁解するのだ?」
「それは…初めて同年代の律動師たちと出会い、嬉しく、興奮して舞い上がってしまい…
組織に対する報告義務を怠っておりました」
「そこはわたしの落ち度です
大変申し訳ありません…ですが」
「わかった」
ボスの口調がわずかに変わった。
「貴様がそこまでいうのなら、希望を飲んでみよう
察するに、オームの律動師をレゾヌスに派遣したいのだろ?」
「はい」
頷くライドン。
「では、やってみせろ
お主と、奇妙な楽器使いの男
それとオームのメンバーでパーティを組め」
「そしてレゾヌスへ行き、踏破を試みるのだ
結果として我々より遺跡の解析が進まなかった場合…
改めて貴様を評議にかけるとする」
重い言葉ではあった。
それでもライドンには希望に感じた。
みんなのために話を通して見せた。もうやるしかない。
「ありがとうございます、ボス
きっと結果を出します」
踵を返し、迷いのない足取りで部屋を出ていくライドン。
「意外…でしたな、
奴がボスに反発してみせるとは」
棚の陰から姿を現したのはパイス。
「ふ…一皮剥けて見せたかな
面白かった」
ボスは少し嬉しそうに髭を撫でている。
ーーーーーーーー
四人は田舎道を抜けダンジョンに向かって進んでいた。
イストは楽しげに弾むように歩いている。
ーーライドンはその様子をジトリとみやった。
「あのなイスト
ギルドではオフィシャルという呼び方はやめろと言ったはずだろ」
意に介さないイスト。
「仕方ないでしょ、普段から使ってる言葉なんだなら」
ライドンはイストも改まった場だと大人しくしてると思ったらしい。
イストこそ周りの大人たちから甘やかされて育ったのでは?とシュンは疑っていた。
「まあいいよ、みんなもう着くぞ
いつでも戦闘できる気持ちでいろよ」
ダンジョンの入り口は大きく口を開けて待っている。
(ただの洞穴みたいだな…)
シュンにとっては少し拍子抜けだった。
みんなは臆することなく淡々と中へ入っていく。
外の光はすぐに背後で遅くなり、あたりは静寂に包まれていった。
「ライドンあのさ、光とか持ってなくていいのか?」
「ああ、振動光があるけど、これは自分で意識を高めてないと使えないからな
心配するな、奥の方を見てみろよ」
言われてみればうっすら光が見えてきた。
なぜ奥が明るいのか?シュンは不思議に思う。
「先輩方が発光草を先に植えててくれたんだよ
もう蔦が伸び切っててダンジョンの奥は草でいっぱいだよ
昼と一緒だ」
(発光草?なんて最高の植物があるんだ)
ーーーーーーーー
奥に行くほど人工的なものが増えてきた。
女神様を模ったものとわかる造形物もある。
たしかにここは古代人が拵えた立派な墓所と言われたらその通りに見える。
「モンスターとかがじゃんじゃん出てくるわけじゃないんだね」
「最初のうちは虫系のモンスターが出てたみたいなんだけど、先輩たちがほとんど片付けちゃったんだ
だからここはモンスターが湧き出るタイプのダンジョンとは違くて、遺跡という表現が正解なんだよ」
ライドンはこういう時には役に立つ。
そのライドンを押しのけてイストはひとり先に進んでいく。
「イスト、急ぎすぎるなよ
ここはまだ未開の場所なんだぞ
四人で固まって行くんだ」
「あ、そう」
イストは相手にしない。
ところが少し進んだ先で四人の行く手を阻ように、堅牢な壁が出現した。
「これだよ、
もうここまでしか進めない 無理なんだ
貴重な遺跡だから壊して進むわけにもいかないんだ」
壁の中心に長文が記されている。
どうやらこれが古代文字のようだ。
(とりあえずおれには読めないな…)
みんなの視線がタルネに集まる。
壁の文字を一点に見つめるタルネ。
「……」
沈黙だけが石の間に満ちる。
イストは心配そうにタルネの様子を伺う。
「タルネ……どう?」
タルネの表情は変わらない。
「みんな…
ごめん、わからない」
四人は、絶句した。




