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第24話 交信

「シュンちゃ〜ん、聞こえてたら返事して」


シュンは思わず声を落とし、周囲に聞かれないように息を詰めた。


「聞こえるよ、ユウナどうしたの?話があるならここでなくても姿を見せてほしい」


「こっちもいろいろあって、そんなにパワーないのよ」

「こないだは転生初日だったから、サービスしたの」


(サービスとかあるんだな…)


「ユウナ、いろいろありがとう

テンポスの街すごく気に入ったよ」


ユウナの声色が、先ほどまでとは打って変わって、柔らかく、どこか弾むような明るさを帯びる。


「シュン 頑張ったわね、モンスターとのバトル見てたわよ〜」


「うん、ひとまず落ち着いたよ

ところで元の世界ではどうなってるのかな?」


シュンは一番気になっていたことを聞いた。


「それね、元の世界では時間は止まっているわ、軸が無いの」

「正確に言うと、あなたにとって、かしら」


「どういうこと?父さんや母さんはどうしてるの?おれを探してないってこと?」


「シュンちゃん、量子力学ってわかるかしら?」


「?」


「あなたが『観測』しない限りその世界に干渉することはない…」


「わからないよ、どういうこと?」


「あなたがこの世界で死んでしまったり、使命を達成してわたしにそれを願えば、転生した夜の下北沢に戻ることができるわ」


思わずのけぞるシュン。

シュンの突然の動きに、周囲にいた三人が一斉に動揺する。


「どうした?シュン

何があった?」


ライドンが声をかける。


「大丈夫!ちょっとびっくりしただけ」


「なんでびっくりしたんだ?教えてくれ、俺たちにも…!」


ライドンは事情も分からぬまま、思わず一歩踏み出し、シュンの方へ駆け寄ろうとする。


「やめて」


タルネは一歩前に出て、腕を伸ばし、その動きを身体ごと遮った。


「続ける、シュン」


「わかった」


シュンは小さく息を整え、再びボラスばあの方へと意識を向け直した。


「ユウナ、おれ、この世界で死んだら元の世界に戻れるのか?」


「そうよ、だからって…

自殺する?」


「いや、しないよ!」

「やるよ、拍を整えてスタンピードを無くすよ」


むしろシュンは安心していた。

実は元の世界のことが一番気がかりだったからだ。


当然だ。

育ててくれた両親。

仲良しだったバンド仲間たちを忘れて、どうして戦える?


「ユウナ、ありがとう

おれやるよ 全力で、この世界のために」

「やる」


「シュン、決心してくれてありがとう」

「わたしがこの神座のおばあさんを通じてなぜ言葉を伝えていたか教えるわね」

「シュン、驚かないで聞いて

スタンピードによって、1つの国が滅びを迎えているわ」


「えっ」


「北方にあるブロンズ公国と言う国よ、

スタンピードが一番激しく起きているのは、この世界の最北なの」

「簡単に説明するわね

この世界には12の大きな国があり、100以上の小国があるわ

その中の1つの小国が今消えようとしている」


「それって、他の国も黙って見ているわけにはいかないんじゃないの?明日は我が身って言うしさ」


「シュン、世界はそんなに単純じゃないの

例えば、1番大きい国が、スタンピードに軍隊を派遣するじゃない?

そしたら2番目の国はどうする?」


「……」


「すぐに、その1番目の国に攻めかかるわ

それが世界情勢というものなの」


「なんで、だって自分たちだってどうなるかわからないのに」


「シュン、モンスタースタンピードは、この世界ではモンスター100体を超えればその名で表現するの」


シュンは小さく首を縦に振り、言葉の続きを待った。


「この世界の拍が歪み始めて200年経つと言ったわね、

スタンピードが起こり始めたのは…そうね、ここ20年くらいかしら」


「最初は100体くらいが普通だった、強い律動師が10人もいれば余裕で対処できる数」

「でも前回のスタンピードは…」


シュンは思わず息を呑み、背中に冷たいものが走るのを感じた。


「1,500体よ」


「……」


「しかも、モンスターレベルも格段に上がって、数体相手にするにしたってレベル200以下の律動師じゃ太刀打ちできない」


「そんな…」


「ブロンズ公国はもちろん隣国に助けを求めたわ、でも遅かった」

「というより他国は自分たちのことで精一杯、北端の小国のことなんて気を向ける余裕がなかったの」


言葉が途切れ、周囲に沈黙が落ちた。

風も止み、遠くで鳴いていた鳥の声さえ聞こえない。

まるで世界そのものが、次の言葉を拒んでいるかのようだった。


「あのさ、そんなに大きな話…おれどうしたら」


「早とちりしないの

この世界はあなたが思ってるより広いのよ

北での出来事なんてまだ小さいわ」

「それに、クロック王国の人たちはスタンピードのことなんてこれっぽっちも知らないわ」


「えっ、なんで…」


「この国は鎖国中よ

他の国の情報は一部の王族だけに許された特権、

一般の民には届かないの」

「だから、都合がよかったの

いきなり戦乱の中にあなたを送り込むわけにはいかないでしょ」


シュンは改めて自分の置かれていた舞台の広さを理解した。


「スタンピードはこのままじゃ終わらないわ、絶対に」

「この世界の全てを無にするまで…」


その声には、疑う余地のない重みがあった。

根拠ではなく、存在そのものが真実だと告げている響きだった。


「それで、若い子たちの能力を平均的にグレードアップさせようと動いたの

わたしにできることなんてそんなことくらいだから」


「えっ、それでもしかしてみんなが強く…?」


「この世界にも女神の反対勢力はたくさんあるわ

というかわたしの力は今まででもいちばん弱くなっていて、存在意義も薄れてきているの

とても悲しいことだけれど」


シュンには理解が追いつかず、ただ心臓の音だけがやけに大きく響いた。


「タルネはわたしの恩恵をとても深く受けているわ、神座の血統だし、信仰が篤いからね

ライドンはすごく上がったわね、彼もとても力になってくれそう」

「イストは自分の努力で今の強さになってるわ

むしろ彼女、地力ではあなたたちの中ではいちばんかも」


「そうなんだ…イストすごいな」


シュンは振り返り、三人の顔を見渡した。

戸惑い、警戒、そして何も分かっていない無垢な表情。

それぞれが、まったく違う感情を浮かべていた。


「あのさ、そんな最長老様みたいなことできるんなら、おれにもやってよ」


「あなたは拍適正Aでしょ、何言ってるの」


「えっ、なんの話…?」


姿は見えなくてもあからさまに、「しまった」という雰囲気を見せるユウナ。

一瞬、気まずい沈黙が流れる。


「ま、まあいいわよ

これからも努力して研鑽を積むことね

わかった?」


「ユウナ、おれにいろいろ隠してるだろ

まあいいよ、女神様にも事情があるだろうしさ」


「シュンちゃん!ものわかりが良くて素敵!」

「三人にはもう誤魔化せないからそれとなくわたしと会話できることは話すしかないわね、ここはテンポスだし」


「わかったよ、まずどうしたらいい?」


「強くなる、レベル300くらいには上げたいわね

ライドンにも師匠がいるのよ

会ってみてもいいかも」


「えっ、そうなの?

わかった、聞いてみるよ」


「シュン、今日はここまでよ

また来月のツキヨリで来れそうだったら来るわね」


(そんな業務的な感じなのか…)


プツリと電話が切れたかのようにユウナはいなくなり、明らかに周囲の鼓動が変わった気がした。

それを察した三人はすぐに駆け寄ってきた。


「シュン、女神様と話したのか?

なんと言ってた?

教えてくれ!

素敵な声だったか?」


「ぐずぐずしてないで早く話しなさいよ!

ひとりだけ隠して、ずるいわよ!」


イストは勢いよくシュンの胸ぐらを掴み、前後に揺さぶった。


「シュン、教えて」


シュンはゆっくりとみんなに説明してみせた、

なぜか女神様と交信できること。

女神様が世界を心配してること。


包み隠さずに、というわけにはいかなかったが、それでも三人とってはまだ見ぬ扉が開くような衝撃的な内容だった。


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