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第22話 イストとタルネ 3

「やっつける、卑怯者」


短く吐き捨てるように言い、タルネは一歩前に出た。

腰を落とした瞬間、空気が張りつめる。


タルネはドゥンバを出した。戦闘モードだ。

太鼓の皮が微かに震え、低い音が周囲に滲む。


「シュン、あなどるなよ」


ライドンの声が鋭く飛ぶ。


「わ、わかった」


とはいえ極度の緊張状態に陥るシュン。

指先が冷たくなり、肩が強張るのが自分でもわかった。


目を瞑り集中するタルネ。

呼吸が深く、一定の間隔で整っていく。


ドンツタタンドンツタタン


柔らかく不思議なリズム。

地面を這うように広がり、足元から体に染み込んでくる。


シュンはなんとなく聴いたことがあるリズムだったが、自分の中にあるリズムではなかった。

胸の奥で、何かがズレる感覚がした。


「シュン、やってみろ!」


ライドンが腕を振る。


「うん……」


慌てるシュン。

スティックを構えるが、間を掴めない。


ドンツタタンツタ

ドンツタタンツタ


「あれ…?ちょっと違うかな」


音がわずかに遅れ、空白が生まれる。


「シュン!拍の取り方が違ってるぞ」


「ちび、黙ってて」


辛辣な言葉を浴びせるタルネ。

視線だけでライドンを制す。


タルネの手元には鈴が出現していた。

細い光をまとい、静かに揺れている。


ドンツタタンドンツタタン


リズムを刻みながら適度な間隔で鈴を打つ。


チリーン チリーン


澄んだ音が空気を切り裂く。


なんと綺麗な音色か。

戦闘中でなければうっとりと聴き惚れてしまいそうな美しい響きであった。


(鈴なんて…同じ表現をするには…)


焦るシュン。

呼吸が浅くなり、視界が狭まる。


ドンツタタンツ、、シャン


シンバルを鳴らして間を埋めようとするが、シュンのダメージは思ったより大きい。

腕が重く、音が散る。


「まずい…苦しい…」


手を緩めないタルネ。

一瞬も迷わず、リズムを変える。


ドンツタタンタンツタドン


間に鈴の音が響く。

リズムが絡みつき、逃げ場がない。


「待ってくれ…!出来ない」


息が切れてきたシュン。

膝が震え、手が上がらない。


「いいよ、やめてあげる」


リズムを止めるタルネ。

鈴の余韻だけが、しばらく残った。


肩で息をするシュン。

汗が額から滴り落ちる。


「あなたの番」


「やってやる…!いくぞ、魂の…」


シュンは立ちあがろうとするが、膝が動かない。

力が入らず、その場を動くことが出来ない。


「シュン、相手が悪かった

こいつただものじゃないぞ」


ライドンが一歩前に出る。


「ライドン、でも君のパートナーとしてここで引き下がるわけには……」


「いや、これはあくまでゲームだ、

シュンは今のリズムを修得するべきじゃないか?」


ガクッ


シュンは崩れ落ちてしまった。

膝から地面に落ち、両手をつく。


目からは涙が溢れた。


「それより…、おれは驚いている

こいつらただのハッタリじゃないぞ

本物の律動師の力を持っていた」


ライドンは興奮していた。

声がわずかに震えている。


「おれはシュンに出会えて初めて同年代の律動師に合ったが、この短期間に三人に増えた」


「タルネ!ありがとう!」


イストはもう泣き止んでタルネに抱きついている。

その背中に顔を埋める。


「あんた大丈夫?根性はあるじゃない

タルネの攻撃を喰らって立ちあがろうとするなんて」「大人相手でも気絶させちゃうこともあるのに」


(えっ、彼女そんなにすごいの…?)


シュンは地面に座り込んだまま、呆然とタルネを見る。


「その帽子、なんだったかと思ったけど」

「お前神座の家系か?」


ぶしつけに聞くライドン。


「お前じゃない、タルネ」


「タルネのボラスばあは神座よ、女神様にお願いしたらあんたたちのことなんかイチコロなんだから」


「イスト、女神様そんな簡単に出てこない」


(この会話、なんなんだ?)


シュンには全てが意味不明だった。


「ボラスばあは言ってた

年若い律動師たくさん現れる

この世界全く別のものに変わる」


意味深なことを言うタルネ。


「どういうことだ?

頼む!その神座のばあちゃんに合わせてくれ、この通りだ」


ライドンが態度を豹変させる。

深く頭を下げる。


なにがなんだかわからないシュン。

ただ、世界が動き始めた気配だけは感じていた。

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