第15話 食堂
男たちの声があちこちから飛ぶのを、ライドンは片手を上げて制した。
「悪いな こいつ、今日ここに着いたばっかなんだよ」
一瞬、店内が静かになる。
「しかも――」
ライドンはシュンを一瞥して、続けた。
「16で一人旅。とんでもない距離を歩いてきて、ちょうど腹が減ってしょうがないとこなんだ」
数人が目を丸くした。
「だから、まずは飯を食わせてやってくれ。話はそのあとでいい」
その言い方はぶっきらぼうだったが、どこか庇うようでもあって、優しさがある。
二人は店の奥の空いた席に腰を下ろした。
周囲はすぐにそれぞれの会話へ戻ったが、視線だけは時折、こちらに向けられている。
「何にする?」
そう言われて、シュンは店内を見回した。
壁の高い位置に木の板が掛けられ、そこに料理名と料金が並んでいる。見慣れない名前も多いが、肉料理らしきものはいくつもあった。
(意外と、普通の食堂だな)
しかも、すべての料理にしっかり値段が書かれている。
客に親切な店らしい。
「……肉が多そうなの、頼みたいな」
「それならこれにしろよ、若鶏のテンポス風煮込み!
絶対にいちばんうまいから」
注文を終えたあと、ライドンが言う。
「エールは飲むか?」
「エールって……酒?ライドン、酒飲むんだ」
「飲むよ 律動師の先輩連中、結構みんな飲むからな」
(感覚が全然違うな)
シュンは一瞬迷ってから、思い切って頷いた。
「……じゃあ、俺も」
料理が来るまでの間、二人は向かい合って腰を落ち着けた。
「で」
ライドンが口を開く。
「何しにテンポスに来た?」
少し間をとって、シュンが答える。
「強くなるため、かな」
ライドンは笑う。
「それおかしいぞ 強くなるなら、すぐ近くのクロニアに行けばいいだろ」
「師匠になってくれる強い律動師がいくらでもいるんじゃないか」
「クロニア……?」
シュンの顔を見て、ライドンが固まった。
「……お前、クロニアも知らないのか?」
「場所も、よく……」
「マジか」
ライドンは頭を掻く。
「じゃあ、いろいろ教える必要があるってことか?」
「頼む。教えてくれ」
その即答に、ライドンは吹き出した。
「俺は逆に、トーキョーに興味出てきたけどな。
こんなに何も知らない奴、初めて会ったぞ」
「でもな…お前、多分テンポスに合ってるよ」
「どうして?」
「本当に、テンポスのことも何も知らないんだな」
ライドンは、店内をぐるりと見回す。
「ここじゃ、ほら みんな、嘘がつけないだろ?」
「……そうなのか」
「お前も律動師の端くれなら、女神様の鼓動は感じるだろ?」
「うん」
シュンは話を合わせた。
「この街の鼓動は独特でさ」
ライドンは指で机を軽く叩く。
「ちょっとした誤魔化しは平気なんだけど、人を騙したり、貶めたりしようとすると――なんて言うか、気持ち悪くなる」
(罪悪感みたいなものかな)
「それが、他の街よりずっと強くなるんだって」
ライドンは肩をすくめた。
「俺はこの街からほとんど出たことないから、比べようがないけどな
だから父ちゃんにも言われてる、テンポス領外は危険だ、って」
その言葉を聞きながら、シュンは静かに息を吐いた。
(なるほど……ユウナ、そういうことだったのか
この街ならたしかに異世界初心者にはピッタリかも)




