第14話 薄暮の街角
聖拍院の外へ出ると、あたりはすでに薄暗くなっていた。
並んで歩きながら、ライドンが何気なく聞いてきた。
「で、トーキョーってのは、ここからどれくらい離れてるんだ?」
シュンは一瞬考え、適当に答える。
「……50キロくらい、かな」
「ご、50⁉」
ライドンは大げさに目を見開いた。
「遠っ!それ、普通に旅じゃねえか!」
その反応に、今度はシュンのほうが驚いた。
(メートル法が普通に通じるんだなあ)
「テンポスいち健脚のローでも多分無理だぞ、お前、ほんとにすごいな、、
完全にテンポス領外だな、いいな〜」
(狛江から横浜くらいのイメージで答えたんだけど、遠すぎたかな?でもあんまり近すぎても行こうって言われたら困るから)
歩きながら、ライドンがシュンの背後にちらりと視線を向ける。
「で、荷物はどうしてる?収納アイテムでもあるのか?」
「そんな便利なの、あるの?」
その瞬間、ライドンは足を止めた。
「お前、収納アイテムも知らないのか?」
「トーキョーには無かったなあ」
ライドンは頭を抱える。
「お前、無知にもほどがあるだろ……
トーキョーってどんな田舎なんだよ。
そっちのギルドはどんな雰囲気なんだ?」
「ギルド……?」
シュンが聞き返す。
「……」
「……」
「……さっきまで、いたろ!!」
鋭いツッコミが夜道に響いた。
「やばすぎるだろお前。でも――」
ライドンはニヤリと笑う。
「面白すぎる。もっと話したいわ。
ほら、着いたぞ。店だ、行こう」
通りの角にあるその食堂は、外からでも賑わいが伝わってきた。
土壁の建物は古いが手入れが行き届いており、入口の木製の扉は人の出入りで絶えずきしんでいる。
半分擦り切れた看板が軒下に揺れ、その下からは笑い声や食器の触れ合う音が途切れなく漏れていた。
扉の隙間から漂ってくる温かい料理の匂いに、シュンの腹が小さく鳴る。
中はかなり賑わっているようだった。
扉を開けるなり、あちこちから声が飛ぶ。
「お、ライドンじゃねえか」
「今日は遅かったな」
ライドンは軽く手を上げて応じる。
どうやら、ほぼ全員と顔見知りらしい。
「ん、そいつは誰だ?」
問われて、ライドンはシュンの肩を叩いた。
「シュンだ。とんでもない田舎者だぞ。
トーキョーってとこから来た。みんな知ってるか?」
一瞬の沈黙。
そして、口々に声が上がる。
「知らねえな」
「律動師なのか?」
「何しに来たんだ?」
興味津々の視線が、一斉にシュンへ向けられる。
シュンは、ライドンのぞんざいな扱いにも慣れ始めていた。




