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第13話 宿

「知り合いがいないならさ」


ライドンが、ふと思い出したように言った。


「昨日からどこに泊まってるんだ?」


「今日来たばかりだよ」


そう答えると、ライドンの目が見開かれた。


「えっ…じゃあ今夜、どこに泊まるつもりなんだ?」


周囲の律動師たちも、ぴたりと会話を止める。


「俺たちが戻ってきてるってことは、もう夕方だぞ この時間から宿探すのはちょっときついぞ」


ライドンの声に、焦りが混じる。


「安心してくれ、宿の場所だけは聞いてるんだ」


シュンはそう言って、懐から一枚の紙を取り出した。


地図の切れ端だ。


「これ」


ライドンは紙を覗き込み――固まった。


「……え」


続いて、他の律動師たちも覗き込む。


「なあ、これって…」

「この場所だよな」


数秒の沈黙。


そして。


「……はは」

「はははははは!」


爆笑。


六人全員が、腹を抱えて笑い出した。


「おいおい」

「これ、ビジスとプロスだろ」


「テンポスの律動師専用宿じゃねえか」

「紹介なしで泊まろうって、無理に決まってるだろ!」


「ははははは!」


シュンは目を見開いた。


「え」

「えええええ」



なんとあの冷静沈着な受付の女性までが、口元を押さえ、少し身をかがめて笑いを堪えている。


(おじさーん!)


心の中で、絶叫する。


シュンは一気に肩を落とした。


「……他に宿、ないか?」


かすれた声で、ライドンに尋ねる。


「ないことはないけどな」

「今、この国ちょっとインフレ中でさ」


ライドンは指を折って考え、


「安いとこでも9,000クランくらいはすると思うぞ」


「……9,000」


さっき手に入れた金額が、頭の中で即座に計算される。


足りない。

わずかに足りない。


シュンは、勢いよく受付に向き直った。


「お願いします!」

「500クラン稼げるアルバイトください!」


「怪しい者じゃないです!きっと役に立ちます!」


受付の女性は、表情一つ変えずに答えた。


「もう5時を過ぎていますので」

「本日のタスクはありません」


平然。


容赦なし。


シュンは、さらに深く沈み込んだ。


そのとき。


「なあ」


ライドンが、頭を掻きながら声をかけてくる。


「どうしたんだよ」

「おれ、今日ビジスに泊まるからさ、一緒に泊まればいいじゃん」


「……えっ」


「テンポスの律動師のおれが紹介したらいいだけの話だろ」


一瞬、理解が追いつかない。


次の瞬間、シュンは顔を上げた。


「あ」

「ありがとう!」


「怪しいやつじゃないんだろ?」


ライドンは、にっと笑う。


「ちょうど飯の時間だしさ、一緒に行こうぜ」


沈んでいた世界が、パッと明るくなった。


(ライドーン!ムカつくとか思ってごめん!本当に、ごめん!!!)


どうやら異世界初日に野宿の可能性はなくなったようだ。

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