第12話 ライドン
換金を終えたシュンは、簡素な布袋とともに金を受け取った。
中身はすべて銅貨のようだった。
一枚一枚に、小さく刻まれた「C」の彫り込み。
それが、この国の通貨――クランの証らしい。
布袋の口を結ぶと、ちゃり、と乾いた音が鳴った。
手のひらに伝わる重みが、現実味を伴って胸に落ちてくる。
その直後だった。
入口の方が、にわかに騒がしくなる。
どやどやと人が入ってくる。
数は六人ほど。
皆、口々に受付へ声を投げた。
「今日は三体だ」
「こっちは二つ割れたが使える」
「魔石は小さいが質はいい」
成果報告らしい言葉が飛び交う。
シュンは反射的に一歩引き、壁際へと場所を移した。
少し離れた位置から、様子をうかがう。
年齢はばらばらだ。
中年と思しき者が多く、全員が男。
腕や肩は分厚く、体つきが違う。
(やばいな……)
ライブハウスの屈強なローディーたちを思い出す。
だが、それよりも荒事に慣れた雰囲気がある。
そのときだ。
「おい」
場の空気を割る、よく通る声。
「お前は誰だ」
視線が、一斉にこちらへ向いた。
声の主は、六人の中では異質だった。
美しい銀髪。
整いすぎるほど丹精な顔立ち。
背は高くない、というか低いくらいだが、妙に目を引く。
年若い。
それが一目で分かる。
青年は、まずシュンの格好を上から下まで眺めた。
「その服さ」
「どう見てもこの街の人間じゃないよな」
シュンは一瞬言葉に詰まり、すぐに開き直った。
「い、いきなりなんだよ」
青年は、面白そうに目を細めた。
「で」
「この若さで律動師ってどういうこと」
(若さ)
その言葉に、シュンは思わず返す。
「知らないけど」
「お前も十分若いだろ」
すると青年は、あっさり言った。
「おれは15だよ」
一瞬、時間が止まる。
(年下かよ)
青年はさらに距離を詰めてきた。
「どこで拍を覚えた」
「師匠は」
「所属はどこか」
矢継ぎ早の質問。
シュンは、後ずさりたい衝動を必死で抑えた。
周りの律動師たちももの珍しそうにこっちを見ている。
(……まずい)
「待ってくれ、早口すぎて話がよくわからない
おれの名前はシュン、16才だ」
「で、お前は誰なんだ?」
「なんだ、やっぱり他の街のやつだな
おれはライドンだ、テンポスにいておれを知らないやつなんていないだろ
どの街から来たんだ?誰かに会いに来たのか?」
「えっとトーキョーから来たんだけど、知り合いも誰もいないんだよ」
「トーキョー?聞いたことないな とんでもない田舎じゃないのか?
その格好なんだよ、面白すぎるぞ」
(こいつ……ムカつく!)
なんだか、とんでもないところに足を踏み入れた気がした。




