第99話 ネリ 3 《挿し絵あり》
ムアーレ大草原からテンポスまでは、ほんの10キロといったところだ。
3時間もあれば到着する。
三人は田舎道を仲良く歩いていた。
「ネリの家はさ、一応農家なわけだろう?
であるならば、食べ物には困らないだろうから、ひもじいということはないんじゃないか?」
こういうデリカシーのないことを言わせるなら、ライドンはうってつけだった。
「ライドンさん、去年プリーストのあたりは飢饉で作物が実りませんでした
いかに拍の力を用いても、土壌が良くないと意味がありません
それでも生活していくために、我が家は借金をせざるを得ませんでした
私は拍は覚えていたけれど、律動連盟の律動師ではないため、良いタスクを得ることはできませんでした」
「そこへさらに借金を重ねて、両親は私に連盟入りの試験を受けさせてくれたのです
私がお金を稼がなければ
私の一家は生きていけません」
思った以上の悲惨な話に、シュンは衝撃を受けた。
その環境にありながら、優しく自分に色々と教えてくれたネリにシュンは深く感謝を覚えた。
(自分のできる事はしてあげたいな)
道中もネリは自分の持っている情報を惜しげもなく、二人に教えてくれた。
「ライドンさん、護りの光はモンスターとの相性に大きく関わるんじゃないかって話もなされてるんですよ」
「シュンさん、拍式使いといって、拍の力を用いて何か物体を自由に操作するような使い手もいるらしいんです」
ネリは一時クロニアにいた頃に、王立図書館で連日8時間ぶっ通しで書物を読みふけっていたことがあるらしい。
「ネリはそもそも知識欲があるんだね
すごいなあ」
「シュンさん、あなたはもっと凄いです
あなたの持っている拍は、誰もが真似できるものではありません
本当に尊敬しています」
そうこうしているうちにテンポスの街に到着した。
日はまだ高い。
このテンポスの街のアーチをくぐるのももう何回目だろうか?シュンは初めての日を忘れることはない。
あれからまだ1ヶ月経ってない。なんと密度の濃い日々だったことだろう。
「お、お帰りですか
ライドンさんシュンさん」
おじさんも完全に顔見知りだ。
シュンにとってはまさにホーム。
ビジスの宿も常宿と化している。
聖拍院はいつもの様子だ。夕方までは人影はない。
ネリはそのまま受付に向かった。
自身のテンポスでの登録とタスクの詳細を聞くためだ。
シュンとライドンは離れて談笑していた。
「えっ、ないんですか?タスクが」
ネリの大きな声が聞こえる。
どうやら求めていた花園のタスクが消滅したらしい。
少し粘っている様子だったが、そのあと落胆したようにすごすごとこちらへ戻ってきた。
「お二人とも付き添いありがとうございます
どうやら先週花園で何かあったらしく、タスクは無くなったようです」
「えっ…それって何が…」
嫌な予感がするシュン。
イストとタルネは無事なのだろうか?
「せっかく来たのにそりゃまずいな
なんか他にいいタスクはないのか?」
「いえ、もう午後ですし、今日のタスクは…
どちらにしろタスクは明日やろうと思ってたのですが、花園は無いので…」
ネリは涙目だ。こうなってくるとシュンもなんとかしてやりたい。
テンポスの一員として受付のお姉さんと交渉してみる。
「明日のタスクを今日知らせることはできません、それをやってしまうと再現なく前倒しする人が増えてしまいます。
そうするとタスクがこちらに届いた段階の奪い合いになってしまい、わけがわからなくなってしまうので」
まるで今までそんなことがあったかのような口ぶりだった。
それでもシュンはもう少し頑張ってみる。
「彼女はプリーストからわざわざテンポスまで来てくれてるんだ。何とかいいタスクをあげられないかな?」
「シュンさん、何度言われても無駄です。
わかりますよね?」
そう、この方はそういう人だった。
「ネリ、どうする?
明日朝一でまた来てみようか?」
「そうですね…せっかく来たんですし」
明らかな落胆の表情を見せるネリ。
「まぁとりあえずつづみ亭に行こうぜ
腹が減ったらあんまり良いアイディアも浮かばないからさ」
ライドンがそう言い終えるかどうかのタイミングで、手慣れた様子の二人が聖拍院のドアを開けた。
ガチャ。




