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8/8

勇者がいない時のサブヒロイン


 私、サブヒロインことユウフェは、先程邸宅から無事に勇者を旅路へと送り出した。


 本来小説で、勇者は王から貰った豪華すぎる邸宅では無くて、住み心地の良い別宅を購入して直ぐ移り住み、そこから旅へ出掛けるのだが、今の所別宅を買う様子がない。


(おかしいなぁ。でも、少し時期がずれてるだけかな?)



 勇者の手に余るこの邸宅は、小説では管理に困った勇者が何処ぞで出会った誠実そうな文官に管理を任せるのだが、後々その文官の手引きにより此処が犯罪者の温床になり、汚名を着せられて、王都で指名手配されたりする。これは元平民から出世を続ける勇者を妬んだ没落貴族が謀ったことだ。


 けれど、私がこの家にいる以上そんな事はさせないけどね!

 

(必要以上に勇者様が傷付く事はサブヒロインである私がさせません!)


 私は、本当は戦うのが嫌だと思っている勇者を、戦いの旅路へ導く為に婚約者にとして当てがわれた。王侯貴族の見解が〝「勇者と言っても、元平民のまだ年若い男。美しく高貴な女人に惚れさせたら尚、国の為に戦うだろう。」〟と言うものだから。


 どうだろう、この辺りでユウフェがヒロインに勝てない理由がわかると思う。小説のユウフェは知っていながらもそれに加担し戦うように誘導していく。勇者の為ではなく世界の平和のために。


 これは勇者が主人公の物語だ。ファンタジー小説である以上、勿論、戦いながら勇者は苦悩することになる。


 そんな中で、あるシーンで小説ヒロインは〝貴方はこんなに苦しんでいるのに。皆当然のように勇者を戦わせる。そんな人達の為に、戦わなくていい〟と勇者の為に涙を流すのだ。勇者1人の味方。当たり前だがこれぞヒロイン。


 だから、幾ら私が勇者を好きでも、愛しても、私は勇者とは結ばれない。その資格は無いとも理解しているし、わかっている。


 今の私は小説のユウフェよりも罪深い。起こり得る苦悩を知りながら送りだす。


 私は何が起こるのか知っていながら、小説通りのその役割に、背く事はしない。勇者にしか倒せない物がこの世界には多くて。この世界で生きる私達は勇者に戦って貰わなくては明日がない。


 ユウフェはパーティー仲間として旅について行けるほど、強い訳でも、一瞬で回復できる魔法がある訳でもない。


 出来るのは、勇者が落ち込んだとしても、傷付いたとしても、戦いに行く為の道案内だけなのだ。


 だけど、勇者が大好きで傷付いて欲しくないなのは本当。


 元々小説の勇者が大好きだったし。この世界で出会った時、かっこいいなぁ、と見惚れたし、昨日のデートだってずっとドキドキしてた。本当は勇者が今回の龍討伐で困る事を知っていたから困らないよう勇者の為に先手をうちに行っただけなんだけど。私が得をしてしまった…。


まさか、あんな事を言って貰えるなんて…。


『似たようなものならヒロインはユウフェで良いじゃないか 』


 思い出したらまた、嬉しいと言う気持ちと、ヒロインという存在が運命の人であると知りながらそう言ってくれた勇者の言葉に頬が熱くなり、刺繍していた手を止めて、頭をブンブン横に振って邪念をとばす。



(まだ、勇者様はヒロインに会っていないし。私の役割を理解されていない。何も考えず出た言葉。深い意味は無い!)


 


 それに、私は決めている。


 この先に待つ苦悩を分かっていながら、勇者を戦わせる。


 その代償に私は、私のこの小さな恋心を捨てなくてはいけない未来も、分かっていながら、受け入れる。


 ――それでも。

 勇者様が微笑んだ顔を、忘れられない私は。

 

 どこまでも、小説のサブヒロインと同じだった。

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