勇者は目を覚ました
「ユウフェが居ないって、どういうこと?」
目を覚ました時、ロイドから告げられた事実に、勇者は憤っていた。
「・・転移、したはずなんだ。誰かがそこに介入したんだと思う」
「誰かって、ロイドの魔法に介入?あり得ないだろ」
一体、自分が気絶している間に何があったのかと頭を抱え込んだその時ーー
部屋の扉を開けて、オルフェが入ってきた。
それに続いて、ユウフェの父であるヴィクレシア公爵も。
「勇者様、大変です」
「公爵?何故ここに・・」
「娘が、ユウフェが、北の魔王の花嫁に選ばれました」
その瞬間、水を打ったように室内には静寂した。
そばにいて聞いていたロイドやオルフェも、驚きに染まる。
「なん・・だって?」
「北の魔王が、〝明日の結婚式をもって、娘を嫁にする〟と。
〝勇者には、代わりの娘をあてがえ〟と。そうしたらまた数百年はおとなしくしているからと・・・・こ、こんなの、私は納得いきません!
生贄同然じゃないですか、なのに、王宮は従う方向で動いてーー
公爵が話し終わる前に、勇者は身を起して、魔剣グラムの元へ駆けつける。
「ゆ・・「何処にーー」
「北の魔王は、何処にいる?」
その顔には、静かな怒りが宿っていた。
「勇者、〝北の魔王〟から通信が来てる。
勇者だけにようがあるから、皆出払えと」
マユラが部屋に入ってきて告げた瞬間、勇者は部屋から出て通信具のある部屋へと急いだ。
♢♢♢
魔石の上に映し出された赤い瞳の男を見て、勇者は眉間に皺を寄せる。
「北の魔王!
ユウフェを返せ」
「まぁまぁ、落ち着いてくれよ。
そのユウフェが勇者と〝最後に〟話したいんだって」
「ユウフェが?」
画面が移り変わり、ユウフェの姿に切り替わる。
「ユウフェ!」
「勇者様・・」
ターコイズの瞳の中に、ユウフェの無事を確認出来て、安堵の色がにじんでいる。
ユウフェは、目の前にいる勇者の姿を焼き付けようと、涙が滲みそうになるのをこらえていた。
「私……魔王様のお嫁さんになります。
今まで本当に楽しかったです。
ありがとうございました、勇者様」
ー私は上手く、笑えているだろうかー
とうとうこの日がやってきた。
私は、貴族として、国のために自分の恋を諦めなくてはならない日が。
彼の瞳が揺れるのを見ると、胸の奥がずきりと痛む。
私に、サブヒロインでしかなかった私をちゃんと婚約者として大事にしてくれて、守りたいと言ってくれて。
あんなに幸せな日々はもうやってこないだろう。
知ってしまうからこそ悲しくて甘酸っぱくて、今にも心がつぶれそうになるけれどーー
それでも私は公爵令嬢としてーー物語のサブヒロインとして微笑んだ。
これが“物語の決められた運命”だと知っているから。
「な、突然何を言い出すんだよ・・君は、俺の婚約者だろ」
「はじめから、物語のハッピーエンドはこうだったんです。
勇者様がヒロインと結ばれてーー私は北の魔王様のお嫁さんになって、それが、皆のハッピーンドで・・」
「なんだよそれ。
初めから、俺以外のやつと結婚するつもりでいたのか?」
動揺している。それもそうだ。
突然、婚約者からこんなことを言われたら傷つかないはずがない。
「・・ごめんなさい。本当に」
「ーーごめんなさい、じゃないだろ。
納得しないぞこれじゃあ。
何で、俺に助けを求めないんだよ。
ずっとーー抱えてたことを言ってくれたら俺はもっと早く」
勇者の言葉に、〝北の魔王〟が割り込んできた。
「〝もっと早く〟知れてたところで、おまえに変えられることはない。
おまえが無駄に抵抗して、無駄に死ぬだけさ。
私がこの娘を嫁にすると決めたらそうなるしかないんだよ」
「・・北の魔王、おまえ、一体ユウフェになにをしたんだ?」
「何も。
ただまぁ、私の力がどんな物かは把握させてきたよ」
「力?」
「私は他の雑魚魔王とは違う。
永遠の時を操作できる。
どんなにおまえが強かろうが、時を止めれば私はおまえを殺してから時間を動かせるんだよ」
魔王の言葉に、勇者は目を見開いた。
「じゃ、〝最後〟というから話させてやったんだ」
ぶつりと遮断された通信ーー勇者は通信の魔石を握りしめて立ち上がった。




