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勇者の懇願

〝東の魔王〟討伐終了後、怪我をしたマユラとオルフェを勇者の邸宅一室にて治療し終えたユウフェは、手にしていた治療道具を片付けるべく用具室へ向かった。


 そして、用具室から戻ろうと廊下を歩いていると、勇者がやってきた。


「勇者様!まだ休まれなくて良いのですか?」

「ぁあ。話の途中だったからね」


(そういえば、勇者様の話をロイド様が遮る形で転移したのでした)


「魔剣グラムが〝絶望〟や〝守護欲〟以外でも、成長できるというお話でしたよね、本当に良かったです」


 ずっと、一番初めから、それがとても心苦しくてたまらなかった。

 私がもっと、早く勇者様のご家族を見つけって保護出来ていれば・・〝絶望〟で成長させないで、〝守護欲〟で成長させることが出来たのにと。


「他にも、方法があるなんて、盲点でした」

「いや、魔剣グラムは確かに〝絶望〟か〝守護欲〟で成長するみたいだね」

「え・・」


 ユウフェが何か問いかける前に、その頬に、手が添えられた。


「ユウフェの命が危険にさらされていると思った時、既に王都からは大分遠ざかっていた事実に絶望した。


一瞬ーー間に合わないかもって過ったから」

「勇者様・・」

「そして、ダークに締め上げられているのを見た時、強く、守らなくちゃって思った」


 大きな、ターコイズの瞳が、静かにユウフェを捉えている。

 勇者が、何を言おうとしているのかを、悟らせるように、熱を帯びた瞳を自分に向けている。

(まさか、だって、既にヒロインであるマユラ様が登場されているのにーー)


 はやる気持ちを冷静にしようと、勘ぐる事実を否定しなければと、思った瞬間、勇者は一歩近寄ってきて、顔を近づけてきた。

 嫌なら、拒絶しようと思えば、出来るのに。

 ユウフェは身を固めたまま、動けない。

 動きたくない。自分もそれを望むから。


 そんなユウフェの頬に手を添えたまま、勇者はそっと、唇に口づける。


 目を見開いたまま、ユウフェは硬直した。


 ゆっくりと顔を離す。


「これで、誤解もないだろ?俺はユウフェが〝そういう意味で〟好きだから。


だからーー」



 出会ったときから、自分は『サブヒロイン』ですと主張して、距離をとろうとしていた。ヒロインはマユラだと主張して、一斉引かれているのはわかっていたけど、少しずつ、態度で示せばいつかは…と思っていたけれど。


 今回のことで思った。

 少しずつでは、気付いた時に、ユウフェはいなくなってしまう。


(〝指一本触れるな〟という公爵の言いつけは守れないけど・・それよりも。

ユウフェといる未来を守るほうが、俺には大事だ)


「ゆうしゃ・・さま」


 驚きのあまり、茫然としているユウフェに、勇者はふっ、と笑った。


 そんな二人を、廊下の曲がり角から見ていたマユラは、瞼をふせて、ただ胸の痛みに耐えていた。






♢♢♢




 

(ど、どうしよう)


 ユウフェは自室に帰ってきて、未だバクバクとはやる胸を押さえている。

 

(だって、これから南の魔王討伐で・・その時に勇者様はヒロインからのキスで敵を倒せる予定で・・)



(そして、私はーー)


 壁に背をつけてへたり込む。

 早鐘を打つ胸を押さえて落ち着かせようと、深呼吸をする。


 幾分か冷静になってきて、顔を上げると、そこには〝東の魔王〟討伐で回収した聖剣があった。


(あれ?この聖剣は、確か勇者様の部屋にーー)


 触れようとしたとき、聖剣は光を放ち、白い十字のネックレスの装飾になり、ユウフェの首元に纏う。


「??一体どうして・・」


 

「本来の寿命が、東の魔王討伐の時だと知っていたんだろ。生かしてくれた恩返しってところか?」


 声がして、顔を上げると、そこには〝北の魔王〟がいた。


 周りを見渡すと、先ほどまで動いていた時計の針が止まっている。

 つまり、世界の時間を今、〝北の魔王〟は止めたのだ。



「北の魔王さん、何用で?」

「いやー。私言ったろ?迎えにくるって。

君が未練なく来れるよう、静観していたんだ。


なのに、勇者とキスをしているから。


焼いちゃったよ」


「・・・・ま、まだ。

その。結婚相手と指定されるのは先の話で・・」


「先の話にして欲しいなら、節度は守らないとね


でないと、勇者を殺しちゃうかも」



「ーー」



「あはは、冗談だよ。

君たちは私の大事な退屈しのぎだ。

まだ見ていたい」


「・・・」


 ユウフェは、青い顔をしたまま、顔が上げられなかった。


「でも、どうだなーー次、勇者とキスをしたら。

本来の予定、君の都合関係なく迎えにくるからね」




 そう言いながら、窓をあけると、〝北の魔王〟は姿を消した。


 窓から入ってくる風が、茫然としているユウフェの髪を揺らしていた。



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