東の魔王
ロイドにつられて勇者を見ると、それまで目を伏せて話を聞いていた勇者が、首を横に振った。
「いや、俺から話す。少し席を外してくれないか」
ロイドは頷いて、抵抗するダークを魔法で空中に浮かせながらも運び出してゆく。
二人きりの空間で、ユウフェと向き合った。
「勇者様?」
「・・・」
立ち上がったまま、少し考え込むように何も言わない勇者を心配して、覗き込むとーー
次の瞬間、勇者の胸元に頬がついていた。
背に手を回されて、ギュウッと抱きしめられている。
ユウフェは、驚いて瞼を瞬いた。
「ゆう・・」
「ーーもっと、ちゃんと、伝えるべきだった」
縋りつくように、背中に回された腕に力がこもる。
「危ういと、この間のヨークシティで。ダークに会ったとき思ったのに・・」
「そ、それは、ダーク様は、私を殺そうとして、ぁあしていたわけではなく。今回は力加減を間違えて・・」
「それでもユウフェに何かあったら、同じことだろ」
聞いているこちらが泣きそうなくらいに、切ない声をだすので、思わず胸が締め付けられる。
「ご、ごめんなさい。まさか、このように心配かけてしまうなんてーー魔王討伐の途中でしたのに・・ご面倒を」
ユウフェが全てを言い終わる前に、肩に手を置かれて、身を離されたかと思うと、勇者の顔が、表情が、あまりにも苦し気に歪められているので、ユウフェは口を閉ざした。
「面倒だって、俺がいつ言ったんだよ?
どうして面倒をかけちゃいけないって思ってるんだ?
俺達は婚約者なのに」
「それは・・」
それは、だって。
「俺は、ユウフェのことをまもーー」
「勇者、すまない。残してきた仲間の状況が芳しくない。今すぐ行くぞ」
唐突に扉を開けて入ってきた魔法使いが、手にしていた杖をかざして、部屋中がまばゆい光に包まれていく。
♢♢♢
光が収まると、そこは灰色の大地が広がる荒野だった。
つい先ほどまで温かい大広間にいたはずなのに、肌に触れる空気は冷たく乾いていた。
(あれ?もしかして、私まで転移を・・?)
ユウフェが思ったのもつかの間、マユラとオルフェが地面に倒れている姿が見えた。
(大変!)
駆け寄ろうとしたとき、勇者に腕を掴まれて、後ろへと引き寄せられる。
剣を構えている勇者の視線の先を辿ると、そこにはーー勇者の髪色より明るいブラウンの・・けれど、まるで鏡に写したかのように、輪郭も瞳も勇者と同じの人物が、聖剣を手にして立っていた。
「勇者様の・・双子の弟・・いえ、〝東の魔王〟ーー」
驚いているユウフェに、ロイドが話しかけた。
「さっき、公女様は〝本来斬らなくても良かった弟君を・・斬り〟その絶望で勇者の剣は成長すると言ってたよね。ということは、斬らなくても済む方法があるんでしょう?」
そう言われてはっとする。
さっきの会話で、魔剣グラムは絶望以外の何かで成長したことはわかった。
つまり、もう斬る必要はないのだ。
「ダーク様、〝魔結界〟の場所を教えてください」
転がされていたダークに話しかける。
ロイドは、ダークに手をかざした。
「・・喋る必要はないよ」
再び光に包まれた後、目を開けると、ユウフェや勇者一行達は洞窟の中にいた。
そして、目の前には魔石が置かれている。
「!これが、〝東の魔王〟の本体です!壊せば、こちらの勝ちです!」
ユウフェの声で、勇者は魔剣を振り翳して、魔石を薙ぎ払い、粉々に砕け散った魔石は、さらさらと砂になり消えていった。
すると、転移魔法で一緒に連れてこられていた、勇者の双子の弟はその手から聖剣が滑り落ちて、次には膝をつく。
そして、口元に安堵の様な笑みを浮かべたかと思うと、その身体も灰になり消えていった。
本来なら、勇者との戦闘で砕けてなくなるはずの聖剣だけが、その場に残っていた。




