誤魔化せない 2
《レイヴンside》
「ユウフェが、この先に起こる出来事を知っているからと言って、全てが救えるなんて思ったことはないよ」
この世界には俺やユウフェが生まれた時点で4体もの魔王が居た。本来魔王とは一体だけでも世界の危機と言われるほどなのに加えて、何の突然変異なのか数体の魔王が現れた状況で、数百年もの間人間が生存出来たことが奇跡なのだ。
そんな中で、勇者でも巫女でもないユウフェが阻止できたことが、どれだけあるだろうか。
「勇者様・・」
「前に、ユウフェのお父さん・・公爵が言ってた。
元気よく旅に出たユウフェが帰ってきたとき、落ち込んでいて、何かに謝りながら泣いていたって。その時期を聞くとさ、丁度俺の村が西の魔王に襲われた時なんだよ」
「・・・・」
「村を救おうと、してくれたんだろ?」
そう言うと、ユウフェはホロリと涙をこぼした。
それが俺の問いかけへの返事だった。ユウフェの言うように《《救わなかった》》のではなく《《救えなかった》》。勇者のような特殊な力がある訳ではなく、軍隊を動かす権限もない彼女が出来たことは、襲われる村へ行き危険を知らせて避難をさせるくらいだ。
前に、西側の村々を回ったさいに貰ったであろうチラシを見せてくれたことがある。どの村が襲われるか分からなかった彼女が、行く先々で村人と触れ合い、西の魔王の攻撃範囲から移動させるようと、働きかけていたのだろう。
「救える場所に居たのなら、ユウフェは必ず救おうとしたと言うことくらい、まだ短い期間の婚約者だとしても、わかる。
俺が気になるのは、何でわざと俺を突き放すようなことを言い出すのかってことだよ」
「わ、わざと突き放すようなことなど・・っ。そんな、勇者様に対して、私が言うはずが、、私は、ただ事実をですね、、」
明らかに慌てている。
人の隠している秘密を無理に暴くようなことをするのはいけないことであると、誰かに聞いたことがある。誰の言葉かはとうに忘れたけれど、今はもう無くなった故郷の村長が言っていた気がする。
俺は、ユウフェが言いたくないのなら、言いたくなるまで待つべきなんじゃないかと思っていた。彼女を困らせるようなら、追求しないようにしようと、考えていたりもした。
ーーしかし、ユウフェの反応を見てから余計に胸騒ぎがして、その感覚に既視感を覚えた。
俺の故郷が西の魔王に襲われた日の朝に感じたものと、あまりにも似ている。
仕事へ向かう道中で、嫌な風が村の方角へ吹き付けているような気がして一度は振り向いた。胸の中で嫌な予感はしていたけれど、すぐに気のせいだと思いなおして仕事場へと歩みを進めた。
帰ってきたら、村は魔物に襲われた後で、悲惨な光景が広がり、慌てて自分の家へと駆け寄ると、既に家族は無惨にも殺されていた後だった。
あの道中での胸騒ぎと、今とでは状況は全く違うのに。
俺が生まれ育った村とは違い、王都には魔物が入ってこれないように、賢者が張った結界がある。
それに先程、万が一の為に巫女にも邸宅周辺域に結界を貼ってもらった。つまりこの屋敷は今、二重の強力な結界に守られているのだ。
巫女に結界を頼んだ時には過保護すぎではないかと呆れられたほどだ。賢者の結界が壊されない限り巫女の結界は余分なものに過ぎないからだ。
だが、これは魔物であるはずのダークが、賢者の結界内に入っていたことに危機感を覚えたからだ。念のため、魔法使いに王都の結界が損傷してないか、他に魔物が入って来ては居ないかを水晶玉で占って貰ったが「そんな部分は無い」と断言していた。
とはいえ、ダークが結界に入れた理由が解明されておらず、ユウフェに「またね」と言い残したことも気掛かりだ。
それに、やはりユウフェの様子が明らかに変だ。彼女の浮かべる表情は感情がとても分かりやすい。本人は意識していないのだろうが、時折悲し気な表情をしている。もっと、俺を信用できるようになれば、何を憂いているのか、相談してくれると思っていたけれど。
どうも一向にその様子はなく、今日は一段と落ち着きがなく、悲し気で緊張しているように見える。
ユウフェが話してくれた内容は、アンテッドの魔王が黄泉の力で俺に深い絶望を与えようとしていることだ。いつも俺を気遣ってくれる彼女のことだから、俺が旅先で傷つくとわかっていて、送り出すことに思うことがあると言うのは分かるけれど・・。
それだけでは、ユウフェから漂う緊張感的に、それだけでは無い気がする。
かといって、これ以上俺には意地でも何も言わないことは分かる。
(・・魔王討伐に、ユウフェも連れていけたら良いのに。
いっそ、連れて行ってみようか?いやいや、危険すぎるか)
「勇者様?」
いつの間にか、考え込んでしまっている俺を不思議に思ったのか
下から覗き込んで、キョトンとした表情で小首を傾げているユウフェがいた。
こんなときだと言うのに、不覚にも胸の奥が疼いた俺は長い溜息を吐きながら、後ろの机に腰を下ろして、視線をあわせると、ほっそりとした腕を掴んで引き寄せ、その小さな肩に軽く額をのせた。
すると、ユウフェは驚いたのか身を固くして、緊張しているのが伝わってきた。貴族の令嬢は男性との触れ合いに慣れていないと言うのは本当だったんだな、と感じると、自然と口元がほころぶ。
レイヴンがユウフェの両手に指を絡めて顔をあげると、突然目線の高さが合ったユウフェは、真っ赤な顔をしてのけぞりそうになっていたが、掴まれて胸元に持ってこられた両手によりそれは叶わず
「ユウフェ、俺のあげた婚約指輪は?」
「あ、えっと、その、机の引き出しに・・」
「何でつけないの?」
「それはえっと・・大切な勇者様から預かったもの(貴重な素材)ですので・・」
「・・・預けたんじゃなくて、ユウフェにあげたんだよ。
ほら、机の鍵をかして」
そうせかされて、胸元から鍵を取り出してレイヴンに渡すと「机を開けるよ?」と声を掛けられて、ユウフェはコクコクと頷いた。立て続く、レイヴンの攻めについていけていないのである。
そんなギコチないユウフェの左手をとって、その薬指に指輪をはめる。
「街中に行くときは、必ず護衛を付けて歩くようにしてね」
「あ、、は、はい」
「俺が居ない間は、この指輪を絶対に指に着けておいて。
これは、ユウフェを守るものだから」
(勇者様・・婚約指輪は左手の薬指ではなく・・右手・・・・)
先程までしんみりとしてシリアスだったはずが、ユウフェはその晩。別の意味でドキドキと胸が高鳴り、寝付けなかった。




