誤魔化せない
──・それは、これ以上の誤魔化しは不要だと語りかけられているようでした。
「ダークと会ってからずっと。
無理をして笑っているだろう?」
私には勇者様に嘘はつきたくないと思いつつも、隠さねばならないことが沢山あります。
王都の結界が壊されてしまうから、そうならない様作戦を立てようとして居るとか。
私の、後ろ暗いことだらけの気持ち。
それをこんな風に悟らせて簡単に見抜かれてしまうようでは、今作でのサブヒロイン失格も良いところなのにー…
どうしてだか、気付いてくださったことが嬉しいと言う想いが湧き上がってくる。
「無理しているなんて。そんなことはありませんよ。ーー・きっと、初めてお会いしたダーク様に些か緊張してしまっていたので、そう見えてしまったんですよ」
「本当にそれだけ?」
そんな風に、確信を得た表情で問いかけられてしまったら、これ以上隠したくないと思ってしまう。
流されて、これから待ち受けている出来事を全て、話したくなる。
(それだけは。絶対にダメです。でも……ーー)
じっと私を見据えて居るターコイズの瞳を、誤魔化せないとも感じている。
「勇者様…」
ーーコンコン
ユウフェが言葉を紡ぎかけた瞬間、部屋の扉を叩く音がした。
扉の外から、思いもよらない人物が声をかけてくる。
「勇者」
(ーーこのお声は、魔道士様…)
「東の空を見て」
この部屋は東側に位置しているので、ユウフェと勇者はそのまま部屋のカーテンを開けて空を見上げた。
雲一つない空には、先程まで星々と月だけが美しく輝いていた。しかし、東側の空は今、星一つ見えず黄色いオーロラが見えている。
一見美しく見えるそれに、ユウフェの顔は瞬く間に青ざめた。
「あれは、何だ?」
勇者は空を見上げて不吉な何かを感じて居るようだが、初めて見るあれが何かまでは知らなかった。
出来うるならば知らない方が良いと考えていたユウフェだったが、勇者の意識を旅先に持っていく為に重い口を開けて、説明をすることにした。
「ー・あれは、東の魔王の力で〝黄泉の道〟を開いているんです」
「〝黄泉の道〟?」
「東の魔王が、アンデッドと言われる所以です。死んだ魂を黄泉から探し求めているんです」
「何故そんなことを……」
「……。悲劇を、起こす為…です」
これ以上は、私の口からは言えません。
恐らく、東の魔王は今代勇者が己の元を訪れようとしていると察しているから、魔王は見せようとしているのです。
この旅で勇者様に、とっておきの絶望を。
「悲劇……」
「東の魔王は、年に一度だけ生を望む死者を蘇らせることが出来るんです、ーー…条件付きで」
「……条件?」
「〝東の魔王に逆らわないこと〟です」
これがどう言うことなのか、勇者様が実感するのは旅の先での話…。
けれど、良くないことだと言うのはこの話だけで伝わる筈。
ーー私が今言えるのはここまでです。
この先を言えば、勇者様はきっとヒロインのレベルアップの前に、東の魔王討伐へ挑もうとするでしょう。
何処に、どの様な方法で行けば東の魔王に会えるのか、彼の弱点は何かを、教えることは容易いです。
けれど、それは東の魔王を倒せるレベルに達っするための段階を踏まないで答えを知るということ。
それは、東の魔王、そしてその先に戦う北の魔王に挑む力を手に入れることも出来なくなる。
だから。
だからー…
「ユウフェ」
名前を呼ばれて我に返った。勇者がユウフェの目尻に滲んでいた涙を、親指で拭ってくれて、顔に手を添えていた。
「大丈夫、俺が行くから。何も心配いらないよ」
勇者は、ユウフェの様子を見て、東で悲劇が起こっていて、それに胸を痛めているのだと解釈をしているようだった。
私が、勇者様を傷付ける様なことを黙っている訳が無いと思ってくれているから。
信じてくれているから。
労りのその眼差しに、心が揺れる。
本当に、このまま、この先に起こることを黙っていて良いのかと。
全てを、言わなくて良いのかと。
別の方法が…勇者様を傷付けない別の方法があるのでは無いかって。
「…勇者様。そんな風に、私に優しくしないでください」
「え?」
「私は────…勇者様の住んでいた村が襲われることを知っていました。だけど…何も出来なかったんです。
私が何もしなかったから、勇者様が絶望して、その絶望により勇者様は魔剣グラムに選ばれたんです」
小説のユウフェ・ヴィクレシアは公爵令嬢として、国への忠誠心が高く、国のためになることだけを常に正しく選んでいた。
どれほど国への忠誠心が高いかというと、王からの願いで、貴族令嬢達の中から、勇者様の婚約者を選別する為集ったさい、勇者様が元平民という偏見もあって皆が手を挙げなかった。
そんな中、1人だけ、ユウフェのみが手を挙げた。
それが国の為に必要なことだからと、割り切っていた彼女。
そんな彼女も物語の途中から勇者様に惹かれはじめる。
ーーだけど、結局彼女は恋心よりも、公女として、貴族としての使命を優先し続けた。
勇者様をただ、見送ることしか出来ない。
私は、サブヒロインでしか無くて、側で一緒に戦うことも、支えることもない。
それがこんなにも辛くて苦しいことだなんて、思わなかった。




